第三章 閑話その3 安全な場所、落ち着く場所
Side:舞
「さてと。みかんだけじゃ、可哀想だし……メッセージを送って、と」
すぐに、返事は届いた。
奏を含めた四人分の受け入れ準備は、できているとのことだ。
「問題は、奏がどこにいるのかね……悪いけれども、調べさせてもらうわよ」
スマートフォンの位置情報、及びネットへのアクセスログなどから、場所を突き止める。
学校から少し離れた場所にある、ネットカフェにいるようであった。
「これは、放っておけないわね。まずはこちらを迎えに行って……」
私はネットカフェに、車を走らせた。
店に着き、店員に確認する。
呼び出しが流れ、奏が姿を現した。
どうやら、カラオケルームを使用していたようである。
「奏さん、よろしいかしら?」
「はい。何でしょうか?」
少し、怯えている。
とはいえ、ここは強引に行くべきだ。
このような環境に、ずっと放置するのは教師失格である。
「調べさせてもらったのだけれども……現住所に住んでいないようね」
「?!」
転送不要で書類を送ったところ、宛所不明で戻ってきてしまった。
そのことから、判明したことだ。
「ここでずっと過ごすことは、教師として認められない。悪いけれども、部屋を用意したからそちらに移動してもらうわよ。いいわね?」
「仕方ありませんね……分かりました」
奏は、あっさり同意した。
この状況で学校に通うのは、難しいと自分でも思っていたのだろう。
「さて、それじゃあ少し、移動するわよ」
次は、学校の寮。
奏は、間取りを確認している。
恐らくここに入ることになると、考えているのだろうが……。
「奏、別の場所が用意されているわ。大丈夫。危ない場所ではないから。車の中で待っていて」
「はい……どこに連れていかれるのでしょうか……?」
とりあえず、これでよし。
三人がどこにいるのか、確認することにした。
ラウンジの一角で、ゲームを楽しんでいるようだ。
私は寮長の許可を取り、そちらに向かう。
「ごめんね。明、漣、みかん。せっかくこの寮になじんだところで、申し訳ないのだけれども……」
「あ~。みかんが引き抜きで、移動するということか」
明には、すぐに分かったようだ。
漣も、それに同意している。
「そこで、なのだけれども……三人とも、同じところに行かない?」
「よろしいのでしょうか? 私たちには、みかんほどの価値は無いと思われるのですが」
漣が疑問を口にする。
それに対する答えは、既に用意してあった。
「あなたたち自体が、みかんの「弱点」になりうるのよ。そのくらい、みかんの取扱いには注意が必要なのだから」
「にゃ?! ……ああ、そういうことかにゃ」
ゲーム画面から、こちらを向くみかん。
マイペースな対応に、笑ってしまいそうになる。
だが、真意はすぐに伝わったようだ。
「確かにこの寮よりも、藤花コーポレーションの社員寮の方が安全性は高いにゃ。セキュリティを考えると、三人一緒に行くのは理にかなっているにゃ」
この、判断能力の高さ。
私の見立ては、間違っていなかったようだ。
「あと、もう一人……奏も、同じ社員寮に住むことになる。それはいいかしら?」
「もちろんにゃ! 楽しくなりそうだにゃ~!」
みかん以外の二人も、同意する。
善は急げ。
荷物は後で搬入することにし、私たちは藤花コーポレーションの社員寮に向かった。
セキュリティゲートを通過して、寮の建物を指し示す。
「うわ。これ、独身寮じゃねえよな?!」
「明らかに、上層部が使用するような場所ですね。少し気後れします」
「私なんかが、こんなところにお邪魔してよいのでしょうか……?」
明、漣、奏が言葉を放つ。
私はエレベーターを使い、最上階の一階下にある、みかんのために用意された部屋に移動した。
「すげえ! これがロイヤルスイートルーム、ってやつか!」
「これ、一人用では絶対に無いですね。藤花コーポレーションの本気が、伝わってきます」
奏に至っては、声を出すことすらはばかられるようであった。
「ここが、みかんの新しい住居になる予定なのだけれども……あれ?」
みかんの顔に、怒りが見える。
そして、思いっきり叫び出した。
「こんなところ、嫌にゃ! 猫に小判という言葉が、ピッタリにゃ!」
……これは、反省しなければいけない。
相手がどう思うのか。
そして、何を望んでいるのか。
それを考えなかった、私の失態だ。
「個人用の寮で、空き部屋は無いのかにゃ?」
「あるのだけれども……少しいわくつきで……」
とりあえず、見てみることになった。
部屋に入ると……大量の計算書類。
世界の破滅を防ぐことができる可能性が、わずか2%程度しかないと知り、絶望して狂気の世界に陥った科学者が使っていた部屋であった。
「ここ、すごくいいにゃ! この部屋にするにゃ!」
みかんが、背中のリュックから折りたたまれた段ボールを取り出し、慣れた手つきで箱状に広げる。
そこには、果物のみかんが描かれていた。
「この狭さ、散らかりっぷり。落ち着くにゃ~!」
どうやら、みかんはここに決めてしまったようだ。
「あなたたちには、もう少しましな部屋を用意するから。そのあたりは、心配しないでね」
「俺たちも、あのスイートルームは勘弁だぞ」
明の言葉に、私は頷いた。




