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第三章 閑話その1 分の悪い賭けではあるものの

 Side:藤花誠司


「あ、兄さん。状況は最悪。プランCの発動を、お願いするわね」


 妹からの電話。

 恐らくそうなるだろうと、私は判断していた。


 関係各所に、即時対応を指示する。

 この時点で、トウキョウとの対立は確定的になった。

 だが、これは想定の範囲内である。


 私の名前は、藤花(ふじばな)誠司(せいじ)

 藤花コーポレーションのトップであり、時代の改革者として知れ渡っている。


 だが、本性はただのオタクにすぎない。

 単に「試行回数」が多いだけなのだ。


 この世界がループしていることは、比較的すぐに分かった。

 そして、舞が経験しているループと、私のループでは「巻き戻り先」が異なることにも、すぐに気づくことができた。


 私の方が、ずっと前の時点まで巻き戻っている。

 機体の開発についても、表向きは藤花コーポレーションの事業だが、本来は舞が中心となって積み重ねてきたものだ。

 私は単にそれを「前倒し」しているに過ぎない。


 投資も、同じことだ。

 ループの記憶があれば、たとえ多少揺らぎがあったとしても、すぐに立て直すことができる。

 その結果、シズオカ、そしてニホンを代表する企業となったというだけだ。


「成功率、2%……これが、最後のループにおける状態、なのか……」


 冷酷な数字が、突きつけられている。

 あらゆる可能性を検討したが、今回のループで私たちが「勝つ」可能性はこれだけ。

 正直、絶望的な状況である。


 だが、やるしかない。

 そして、この数字は既に舞と共有している。

 恐らくメア、そして士郎も同じくらいだと考えているだろう。


 私はメアも、士郎も知っている。

 特に後者は、自分の「盟友」と呼んでよい存在であった。

 今は敵対している状況だが、あいつの真の目的のためには、それしかない。

 ただ、それが達成される可能性は、あまりにも低すぎる。


「メアは、もう耐えられないか……とはいえ、こちらもできることは全てやっているのだがな」


 全力を尽くして、もぎ取った数字。

 本来なら0.2%に過ぎなかった可能性を、10倍にまで引き上げたのだ。


「うん? 舞から追加連絡?」


 書かれていたのは、ワイヤーの強化案。

 その検討過程で、みかんという少女の助力を得たこと。

 その結果、瞬間的な張力にも耐えられる画期的な新商品を開発できる可能性が示唆されていた。


「舞の計算を上回る存在、か」


 その時は、まだその程度の認識であった。


 それから二日後。

 とんでもない情報が、私にもたらされた。


「第5世代相当の機体が、複数?!」


 メアのことは、知っている。

 彼女が敵の機体を鹵獲し、メインフレームを入れ替えたのは、想定内のことだ。

 だが、奏がこの時点で協力しているのは、今回が初めてである。


 さらに、メールが届く。

 その内容は、目を疑うものであった。


 機体の属性により、展開できるバリアの種類が異なること。

 それ専用のフレーム技術の導入。

 脳波検出技術との類似性。


 そして、その技術を解析した者を「特別顧問」として採用するという旨であった。


「年収2,000万円に、社員食堂、ストックオプション……価値はある」


 ただし、彼女は非常に「大食い」らしい。

 そのため、社員食堂の増設工事案も添付されていた。


「業務用炊飯器、保温ジャー、寸胴鍋、大型オーブン、コンロ、業務用冷蔵庫と冷凍庫……いったいどのような、化け物を呼ぶつもりだ?!」


 計上されているものを列記するだけでも、とんでもなさが伝わってくる。

 だが、現時点で解析を終えている成果「だけ」であっても、それだけの価値はあるだろう。


「これらを総合した結果、成功率は25%に上昇……25%?!」


 何度も、モニターを確認する。

 小数点のつけ忘れを考慮し、その旨を舞に伝えた。

 しかし、舞は自信をもってこの数値を再度示してきた。


「桁が、違う」


 わずか2%の賭けから、25%への上昇。

 依然として、分の悪い賭けであることは間違いない。

 だが、この数字が示すものは明らかに「希望」であった。


「VVIPとして、最高の条件、待遇を求める……か」


 即座に、社内寮の空きスペースを確認する。

 幸い、重役用の部屋が一つ空いていた。


「最初は、変なものを発明するかもしれない。だが、そこで見捨てたら確実に損をする、か」


 舞が、ここまで絶賛する相手。

 いったいどんな人物なのだろうか。

 俄然、興味が湧いてきた。

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