第三章 第二十三話 考察、そして事後処理
<ログアウト>
「ふぅ……楽しかったな」
俺は、VRMMOの世界から戻ってきた。
飲食中に、結希が奏のサポーターになることも説明し、了承を得られた。
舞先生のメールアドレス宛に、その旨を送信する。
「しかし、地雷湿原か。今回はうまくいったが、多用は禁物だな」
みかんが「発明品」を取り出さなかったら、恐らく俺たちはデスペナルティを受け、談笑どころではなかっただろう。
「奏の戦力の底上げにもなって……あれ?」
ふと、気づく。
今日の午前中に発生した、アントとの実戦。
その時、奏の機体は「変形」し、ハープボウを用いて戦っていた。
みかんも飲食中に、指摘していたが……そもそも奏は、弓を扱ったことがあるのだろうか?
「もしかしたら、VRMMOでの経験は『現実にもフィードバック』されている?」
この視点は、重要だ。
即座にスマートフォンに打ち込み、メモしておく。
もしそうだとするならば、遊ぶこと自体に意味が生まれるからだ。
「俺の銃も、相当精度が上がっていた。あの空間で得られる経験は、現実と遜色ない」
メアの適切なフォローによって、アントを次々と倒していた俺。
だが、少し前までの命中精度は90%程度。
今回はほぼ、100%に近い値であった。
動悸が、強まる。
もしかしたら、下手な戦闘シミュレータよりも有用なのかもしれない。
「これは、要申請案件だな」
可能性の段階であることを添えて、舞先生に再度メールを送る。
恐らく明日、口頭で返答があるだろう。
「おっと、こちらにもメールが届いていたか」
奏、及びメアを受け入れるための書類作成依頼。
まだ眠るまでには、少し時間がある。
パソコンを立ち上げ、キーボードを叩く。
AIやデバイスの進化により、パソコンを使う必要性は下がっている。
高度な処理を行うための道具、という位置づけになりつつあるのだ。
だが、俺の場合は異なる。
AIに任せるよりも、こちらの方がずっと確実で、早く作成できる。
それだけの知識と経験が、あるからだ。
「プリントアウト……チェック。よし」
改ざん防止の処理を行い、舞先生にデータを送信する。
後は本人の署名だけで、完成する状態まで作り上げることができた。
「さすがに疲れたな。夕食を食べて、ゆっくりしよう」
残念ながら、VRMMOの世界でいくら食べたとしても、現実のエネルギーは必要だ。
長時間のログイン状態は、AIによって危険とされ、場合によっては強制ログアウトの対象となる。
2階の自分の部屋から、1階のリビングに向かう。
母も帰ってきており、夕食はもうテーブルに並べるだけの状態であった。
今日の夕食は、オムレツであった。
じゃがいもやキノコがたっぷり入った、豪華版。
「広大も久郎も、戦いで体を酷使したからね。たんぱく質、必要でしょう?」
母である美冬の気遣いが、ありがたい。
ご飯もしっかり茶碗によそって、食事をとることにした。
食事を終え、部屋に戻るとスマートフォンのLEDが点滅していた。
メッセージが入っていたようである。
「舞先生、仕事が早いって……」
今回の書類作成に対する感謝と、報酬の振込が終わった旨。
さらに、ゲーム世界と現実とのリンクについて、後日ゆっくり話し合うことが書かれていた。
「舞先生も、かなり興味を示しているようだな。プレイする時間が確保できないことを、相当恨んでいるようだし……」
10行にも及ぶ、仕事への恨み節。
教職に加え、藤花コーポレーションの技術部門のトップも兼任している彼女の忙しさは、想像することすらできない。
「あ、みかんは既に、拉致されたのか」
みかんが学校の寮から、技術部門の寮に移動した旨が記載されていた。
ついでに、社員食堂の改造を行うことも書かれており、準備は万端のようだ。
「さて、そろそろお風呂に入って、眠ることにしよう」
入浴は、大事だ。
毎日きちんと入浴することで、回復効果が大幅に変わってくる。
その上、両親のカイロプラクティックによる施術、魔法による治療も受ければ、明日はいつも通りの行動ができるだろう。
「せめて、明日からはもう少し安定してもらいたい。イベントが多すぎだ」
部屋の天井に顔を向けて、俺はつぶやく。
後はゆっくり、休むことにしよう。
これで、第三章は終了です。
閑話を挟んで、第四章に進みます。




