第三章 第二十話 帰れる場所
今日はこれで、解散となった。
本来、ヒーローの出撃後に学校へ行くこと自体が、イレギュラーなのだ。
そして、明日は休日になる。
「それにしても、年収2,000万円か……ちょっと、うらやましいかも」
結希が、俺に告げる。
「おまけに、久郎も年収120万円。加えて、ヒーローの手当がつくんでしょう?」
「その代わり、法務部で書類等の審査を行う必要があるのだからな」
結希が、ガックリとうつむいた。
「絶対僕には、できそうにない!」
「まあ、できる人間の方が異常だろう。そもそも俺は、戦闘よりもそちらの方が得意なのだからな」
結希の最大の価値は、戦闘能力。
アントたちを倒した数、奏の救出における貢献、クイーンアントを倒したということ。
恐らく評価は、相当高いものになるはずだ。
「下手をすると、10万円を超える可能性があるぞ。高校生の収入としては、破格だろう?」
「それを固定給で、毎月もらえる人に言われても、素直に頷けない……」
資格を持つということは、こういうところで武器になる。
とはいえ、さすがに結希が可哀想になってきた。
「ハンバーガーくらいならば、おごるぞ? 比較的安定した収入源を得られたからな」
「むう……分かった。それで」
帰り道にある、ボリュームが売りのバーガーショップに入り、注文する。
結希が選んだのは、巨大な肉が4枚入った豪華版。
さすがにそれは、予想外であった。
「少しでも、筋肉をつけないと」
「いや、肉だけで補うのはあまり良くないと思うのだが……」
さすがにこの商品は、財布にとって優しくない。
とはいえ、これは仕方ないだろう。
甘いものも口にしていたとはいえ、あの激戦を潜り抜けたのだ。
体がもっと、タンパク質をよこせと叫んでいたのだろう。
結希と別れて、俺は家にたどり着いた。
「ただいま」
「おう、お帰り!」
父――広大が、リビングで本を読んでいた。
「あれ? 今日はヒーローズネストの仕事は、休みなのか?」
「いや、出撃後の待機状態だ」
慌てて、スマートフォンをチェックする。
バグが出現し、ヒーローズネストによって鎮圧されたことが書かれていた。
「お前も、やるじゃないか」
さらに、俺たちの事件についても記事になっていた。
被害者はゼロ。
「最近、バグの出現頻度が高くなっているようだな。お前も気をつけろよ」
「父さんも、気をつけて。もう若くないのだから」
父が、読んでいた本を俺に向かって思いっきり投げつける。
軌道を読み、何とかキャッチすることができた。
「くそっ。可愛げがない」
「父にそれは、言われたくないな」
仲が悪いというわけではない。
これは俺たちにとって「じゃれ合い」の範疇だ。
「お前はどうする? 夕食まで、まだ時間があるが」
「ゲームで気分転換する。さすがに色々あって、疲れた」
臨時講師として授業を行い、非常勤とはいえ藤花コーポレーションの法務顧問に就任。
一応そのことだけは、父に伝えてから自分の部屋に戻った。
本棚に並ぶ、法律書の数々。
小さいころから読み続けてきた、俺の血肉。
ことわざ辞典や、医学書も共に並んでいる。
とはいえ、今はそういう本を読みたい気分ではない。
ヘッドセットを起動し、ゲーム空間を楽しむことにしよう。
「そういえば、みかんがヘッドセットに使われている金属について述べていたな」
脳波検出技術による、VRMMO空間の体験。
インフィニティ社が開発した「共鳴フレーム」によって、ゲーマーの長年の夢が実現したのだ。
「まあ、金属の解析はみかんに任せよう」
俺は文系に特化している。
理系に特化したみかんが、担当すべき分野だ。
《ログイン》
そして、俺はいつものたまり場『キャットニップ』に降り立つ。
そこには、既に仲間たちが全員揃っていた。
結希のウィル、みかんのマオ、洋服店で知り合ったニカ。
そして、奏ことカナ。
どうやら奏も、この世界が気に入ったようである。
「さて、今日はどんなことをするのかにゃ?」
マオが、俺に尋ねる。
雑談でもいいのだが、戦闘の熱がまだ残っている。
「少しだけ、戦闘をやろう。カナのレベル上げも必要だからな」
方針は決まった。
さて、どのエリアを選ぶのが良いだろうか。
「すみません。メタルプディングのいるエリアは、勘弁してください」
「まあ、そうだろうな」
あの時の経験は、奏にとってさぞ怖かっただろう。
別のエリアを、選ぶことにした。




