第三章 第十七話 求められた、最低水準
俺の授業が終わると同時に、舞先生が教室に入ってきた。
だが、その顔は青い。
いったい何があったのだろうか?
「今日の授業は……ちょうどいいわね。これ、昨日までの情報よ」
舞先生は、黒板に書かれていた「第3世代」の文字に、赤いチョークで×をつける。
ただならぬ雰囲気に、全員声を出すこともできない。
「現在の最新型は、第5世代」
え。
第4世代を通り越して、第5世代?!
理解が追い付かず、混乱してしまう。
「論より証拠ね。こちらに来てちょうだい」
俺たちは舞先生の案内に従って、体育館に向かった。
そこにあった機体は、メアが搭乗していた『トイ・ビン』。
何となく、見えてきたような気がする。
「この機体、二種類のバリアを使い分けられるの。フレームも今までのものと、全く異なる」
バリアを有する機体は、極めて少ない。
舞先生の『ヴァルキュリア』が、その1機とのことであった。
かなりのダメージに耐えられるが、それを超える力の前ではひとたまりもない。
消費エネルギーも多く、接近戦に持ち込まれたときの「保険」という扱いとして使っていると、説明された。
「トイ・ビンのバリアは、併用可能。ダメージ軽減と、ダメージ遮断の二重タイプ」
ダメージ軽減型のバリアは、相手の攻撃に対し一定レベルまでのダメージを実質的に無効化する。
さらに、それを超える攻撃であっても、超過分を軽減できるのが特徴だ。
一方ダメージ遮断型のバリアは、相手の攻撃に対し一定レベルまでのダメージを遮断する。
だが、それを超える攻撃に対しては無力であり、そのままダメージが突き刺さる。
舞先生の『ヴァルキュリア』が有しているバリアは、こちらに属している。
「それって、かなり防御に特化してるってこと、だよね?」
結希の問いに、舞先生が頷く。
ダメージ軽減型のバリアにより、一定レベルまでのダメージは無効化される。
さらに軽減された値を基に、ダメージ遮断型のバリアが発動する。
結果、ダメージ遮断型のバリアをさらに「強める」ことになるのだ。
「加えて、このアンブレラ。軽いのに、防御装置として使用可能よ」
二重のバリアに加えて、シールド効果のあるアンブレラまで装備。
生半可な攻撃は、通用しないだろう。
「しかもこれ、武器にもなるの」
機体が、動く。
傘を閉じて、先端部から光の槍が形成された。
当然、中にはメアが搭乗しているはずだ。
「滅茶苦茶、すげえじゃねえか! 俺の機体にも、分けてくれよ!」
明が、興奮する。
だが、舞先生は首を振った。
「正直、解析するだけでも時間がかかるわ。実戦配備できるレベルには……」
そこで、メアの声が響く。
「しっかりしなさい。これは、あなたが『2回前のループ』で発明したものよ」
舞先生が、覚えていないループ。
そこで舞先生自らが、開発していたというのだ。
「それに、このアンブレラ。これはみかんが『3回前のループ』で開発したわ」
「にゃ?! みかんが作ったのかにゃ?!」
少し、納得できる。
バリアに比べて、傘の形という遊び心があるからだ。
舞先生だと、機能性を重視するため、この形状にはならないだろう。
「これらの装備が、全機体に搭載されること。それが『最低水準』だと考えなさい」
メアの言葉は、どこまでも厳しいものであった。
つまりそのレベルでなければ、あの夢で感じた「破滅」は防げない、ということなのだろう。
「解析は、今すぐ行うこと。試作品が完成し次第、順次、他の機体に装備させていくこと」
藤花コーポレーションの、総力戦になるだろう。
そのくらい、無茶な命令である。
「諦めたら、そこで試合終了にゃ! やってやるにゃ!」
みかんは、完全に火がついた様子であった。
技術者としてのプライドと、猫らしい好奇心をくすぐられたのだろう。
「そうね。兄さんには苦労を掛けるけれども、これは必要なことだと思うわ」
舞先生も、同意していた。
「ところで、学力診断の結果はどうなったの?」
結希の問いに、舞先生が答える。
「今は、採点待ちの状態ね。奏は部屋で待機しているわよ」
メアは……恐らく、楽勝だったのだろう。
試験を早々に終え、その時間を使って、機体の能力を舞先生に説明していたようだ。
「監視官が離れていて、大丈夫なのですか?」
「一応、カメラで様子は確認していたから。不正行為はなし」
漣の疑問に、舞先生が答える。
後は、奏が合格ラインを満たしているかどうか。
問題は、それだけだ。




