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第三章 第十六話 講師久郎――バグとヒーローの歴史

「それじゃあ、メアと奏の学力診断を行うけれども……時間がかかるわね。そうだ!」


 舞先生が、俺の方を向く。


「はいこれ。臨時講師としての、契約書兼承諾書よ」


 臨時講師。

 ヒーロー科は、ヒーロー法をはじめさまざまな知識が求められるため、教師だけでは対応しきれないのだ。

 そのため、現役のヒーローを臨時講師として採用し、授業を行うことが多い。

 だが、俺に渡して良いものなのだろうか?


「もう、ヒーローの一員だからね。法律上、成人扱いされるから」


 そうだった。

 ヒーローになった時点で、単独で行為を行うことができるのだ。


「分かった。内容は……バグとヒーローの成り立ちでどうだ?」

「了解。きちんと報酬も支払われるから、安心して」


 結希と明が、うへぇ、という表情を見せる。


「お~い! 戦闘行動後は、授業免除じゃねえのかよ!」


 明の声に、舞先生が答える。


「授業免除は、あくまでも後回しにされるだけ。まとめて詰め込むことになるけれども、それでいいの?」

「くそっ。しゃーねーか」


 休むことよりも、授業を受けることで後の負担を少しでも減らすことにしたようである。

 俺たちは、教室に向かうことになった。


 教壇に立つ、俺。

 そして、向かいに座る仲間たち。

 さすがにこの構図は、予想していなかった。

 とはいえ、やるしかない。


「まず、バグの発生からスタートする……ああ、みかんは眠っていていいぞ」


 既に机に突っ伏し、眠っているみかん。

 睡眠学習という能力があるからこそ、できる行動だ。


「漣、耳元で怪談をかましてくれないか?」

「授業中です。講師の言葉に集中しなさい」


 明の提案は、漣によってすげなく却下された。


 講義を進めていく。

 要約した内容を、これから述べることにしよう。


 バグの起源は、西暦2000年ころにさかのぼる。

 ノストラダムスの大予言が外れたと、油断した矢先に起きた「災害」だ。

 また、人類の髪や目の色が変化したのも、この頃である。


 当然、各国はバグと戦闘状態に入った。

 しかし、通常兵器の効果が非常に低く、戦いは連戦連敗。

 ごく一部の地域で、局所的な勝利こそあったものの、絶望的な状況が続いた。


 局所的な勝利。

 それは徹底的に分析されることとなった。

 その結果、特定の因子を有する人間が関与していると判明する。


 それが「ヒーロー」。

 戦いは、ヒーローを中心とするものに変わった。


 だがヒーローの絶対数は、あまりにも少ない。

 命を失えば、後は蹂躙されるだけだ。

 そのため、ヒーローの生存率を高める方法が、喫緊(きっきん)の課題となった。


「そこで生まれたのが、機体だ――結希」

「はい?!」


 少しボーっとしていたようなので、質問する。


「現在の機体は、第何世代に属している?」

「ええと……確か、第3世代だったと思うけれども……」


 俺は頷き、結希を座らせた。

 合っていたことに、心底ほっとしているようである。


 最初の機体、すなわち第1世代の機体は、ニホンで生まれた。

 それはヒーローたちに受け入れられ、急速に世界に広まっていった。


 しかし、問題が発生する。

 一部の国が、機体は「自分たちが開発したものだ」と言い出したのだ。

 さらにその力を、国民に向ける愚かな指導者も現れる。


「結果、それらの国に対するニホンの支援は停止される。そこでは未だに、第1世代の機体のデッドコピーを使って戦っているらしい」


 当然、ヒーローの死亡率も高い。

 急速に国力は失われ、国際的な優位性も失っていった。


 それとは対照的に、ニホンと友好関係にある国は、第2世代、第3世代の機体を手にすることになる。

 国力のバランスは、今やニホンとの友好関係に大きく依存している。

 苦々しく思う国もあるだろうが、手を出すことは自滅でしかないため、どうにもならないのだ。


「第2世代と第3世代の差について、漣」

「はい。第2世代の機体に、召喚や魔術式などの機能を搭載したものが、第3世代の機体です」


 さすが、優等生タイプの漣。

 完璧な答えだ。


 第3世代の機体が生まれたことにより、機体を輸送するという手間がなくなり、大幅にヒーローが対応できる範囲が広がった。

 また機体制御用の魔術式が導入され、耐久性、コスモス形成の範囲など、大幅に性能が向上している。

 俺たちが使っている機体は、この第3世代にあたるものだ。


 もっとも、欠点も存在している。

 そのヒーロー専用に「特化」しているため、整備に手間がかかるのだ。

 とはいえ、圧倒的な戦闘能力の向上を考えれば、やむを得ない部分であろう。


「今日の講義は、これで終わりとする。それでは、起立!」


 一人、立ち上がらない者がいる。

 ここぞとばかりに、明の拳が叩き込まれた。

 誰であるかは、言うまでもないだろう。

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