第三章 第十五話 アリスゲーム
メアを測定していた機器が、ゆっくりと動きを止める。
彼女は椅子から立ち上がり、こちらに向かって歩き始めた。
ドアを開け、一言。
「この機器、まだ改良の余地があるわね」
「にゃにゃ?! メアちゃんも、気づいたのかにゃ?!」
ちゃん付けに、少し嫌そうな顔をするメア。
だが、俺も気になるところだ。
「後で、改良させてもらってもいいかしら? みかんも、手伝ってもらえる?」
「みかんは、いいにゃ。腕が鳴るにゃ~!」
舞が、メアに問いかける。
「その、改良の余地ってどんなところなの? これでも最新型なのだけれども」
メアは、端的に答えた。
「使われていない波長がある。これだけのスペックがあるのならば、ヒーローの顕在能力、潜在能力、ギフト、ギアス、フェイト、そしてスキルが一括で測れるようにできるわ」
「にゃ! スキルまで一括測定できることには、気づかなかったにゃ!」
メアの技術力は、果たしてどれほどのものなのだろうか。
それに付いていけるみかんも、大概だと思う。
「改良は、ヒーロー科への転入手続きが終わってからにして。まあ、あなたに学力診断を行うのは意味がないとしか、思えないけれども」
舞先生の言うとおりだ。
これほどの理解力があり、ヒーロー法も熟知している人間に、学力診断を受けさせる。
むしろ滑稽な状態だろう。
「私は……学力診断を受けたほうが、いいと思います……」
奏が、ポツリとつぶやいた。
確かにメアはともかく、奏の学力は不明だ。
そして、何よりも結果を見ることを、忘れてしまっていた。
「はい、これね」
全員で、手渡された紙を眺める。
ギフト:『現世』 オラクル 『奇跡を起こす力:残数5』 ループ記憶保持(完全) ?????
ギアス:明らかな嘘 アリスゲーム ループ記憶のトラウマ 残数0で発動
フェイト:青のアリス
「カギ括弧が、二つ……それに?も」
結希が、つぶやく。
漣やみかんと同様に、とんでもない「逸材」ということだ。
「ここも、改良点ね。今は二段階しか存在しないから、レベル制にしないと」
メアの反応は、あっさりしたものであった。
「『現世』については、説明不要ね。オラクルは、久郎の時に説明したから省略。奇跡を起こす力は、機体を上書きするほどの力。回数制限まで表示されるのね」
舞先生が、感心したように口にする。
改良点があるとはいえ、最新型は伊達ではないようだ。
「ループ記憶保持は、私も持っているわ。ただ、表記は「ループ記憶保持(1回)」だけれども」
これも、納得できる。
メアは何度もループを繰り返していると、以前説明されていたことだ。
「?????については、詳細不明。結希と久郎、そしてメア。この三人に表示されているという異常事態は……これも、後で兄に伝えないと」
カギ括弧に気を取られていたが、確かにこちらの方が重要性は高い。
すみやかに機器を改良し、明らかにしなければならないだろう。
「さすがに、そこは私でも無理」
メアが付け加える。
みかんも、首を縦に振っていた。
「で、ギアスは……明らかな嘘は、体験したとおりね」
嘘をつくと、すぐに伝わってしまう。
かなり厄介な制約のようだ。
「でも、嘘をつくことはできるわよ。私は子供」
確かに、ギアスが発動していない。
だが、当たり前のことでは?
「精神年齢は、子供ではない。でも肉体年齢は子供。正しい部分が含まれていれば、情報の省略は許される」
こういう抜け道があるのか。
何度もループを重ねる中で、見つけ出した方法なのだろう。
「アリスゲーム、これは……私も持っているわ」
「ええ?!」
メアを除いた全員が、驚きを見せる。
事情をあまり知らない奏ですら、戸惑っているほどだ。
「私のフェイトは、緑のアリス。そしてギアスは「反逆する武器」」
舞先生が、説明する。
武器に属するものを所持している場合、攻撃しようとしても「自らを傷つける」ことになってしまうようだ。
「料理の時が、かなり厄介なのよね。包丁で何度も、指を切り落としそうになったから」
結果、風魔法を使って食材を切るという形で、乗り切っているようである。
また「アリスゲーム」と「何らかのギアス」は、セットになっているらしい。
「それはさておき。ループ世界のトラウマは、メア本人にしか分からないから、省略するわね」
このギアスを有するのは、メア一人だけ。
他に「ループ記憶保持(完全)」を有する存在がいるとしたら、このギアスを有していることもありうるが……無視してよい可能性だろう。
「残数0で発動……何が発動するのか、書いていないところが逆に怖いわね」
「恐らく、消滅。試したことはないけれども」
そうだとするならば、軽々しく『奇跡を起こす力』を使うことはできない。
小さな体に課せられた、重い枷。
想像するだけでも、ゾッとさせられてしまった。




