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第三章 第十八話 サポート体制――信頼という条件

「奏、お待たせ。答案用紙を渡してね」


 舞先生が、学力診断を行っていた部屋に入り、奏に声をかける。

 奏は、かなり顔色が悪い。

 これは、厳しいのではないか?


「う~ん……久郎、ちょっと来てくれる?」


 舞先生が、俺を呼ぶ。

 大体、流れがつかめてきた。


 部屋を出て、廊下で声を潜めて話す。

 想像通り、この学校の合格ラインに達していないということであった。


「知的能力自体は、高いと思うの。けれども、暗記が必要な部分がかなり弱くて……」

「なるほど。答案用紙を見せてくれないか?」


 俺は、渡された紙を一読する。

 舞先生が示した傾向は、正しい。

 合格ラインに、わずかに届いていないことも、事実だ。


「これならば、何とかなると思う。ヒーロー法施行規則、3条9号で行けるだろう」


 基本的にヒーローは、学力診断と能力診断を総合した結果で、所属する学校が決められる。

 だが授業についていけない者を、それだけの学力が必要な学校に割り振るのは、本人のためにも学校のためにもならない。

 そのため、基本的に学力によって割り振られるというのが、一般的な考え方である。


「さらにヒーロー法細則、第11条を使えばいい」


 学力が足りない場合で、なおかつヒーローの能力が突出しており、その学校に所属することによってバランスが保たれるとき。

 定期的な学力診断を受けることと、サポートする者を1名つけることを条件に、転入が認められるのだ。


「それね! さすがに細則までは、確認しきれなかったわ。助かったわね」


 舞先生が、俺に礼を言う。

 だが、難しいのはここからだ。


「それで、サポートする1名をどうするか。そちらの方が難しいと思うぞ」


 当然、サポートする人間も定期的な学力診断を受け、適切であるかどうかが判定される。

 不適切だと判定された場合は、学校側が別の人間を選ばなければならない。


「久郎ならば、余裕でしょう?」

「いや。俺は奏の信頼を、まだ得ていない」


 そうなると、候補になるのは一人だけだ。


「公式なサポート役は結希。久郎には、その補助として一緒に面倒を見てもらえるかしら?」

「分かった。それしかないだろう」


 能力確認において、ただ一人情報共有を選んだ結希。

 彼をサポートにつける以外の、方法はない。


「それじゃあ、手続を行うけれども……用紙はいる?」

「標準のフォーマットならば、自前で用意できる。それで良ければ、不要だ」


 俺は、行政書士試験に合格している。

 そしてヒーロー科に属しているため、行政書士として登録が可能なのだ。

 もっとも、さすがに今の時点で開業は考えていないが。


「それじゃあ、お願いするわね」

「分かった。今日の出撃に対する報奨金を振り込む際に、手続費用も一緒に振り込んでくれ」


 費用は、前払い。

 正確には、民法上は「求めに応じて」という形になる。

 そして今、舞先生に伝えたことで、その「求め」に該当するはずだ。


「あと、参考書の代金も振り込んでおくから。学習の進め方は、一任するわね」

「了解。全力を尽くす」


 教えるのが、1人から2人に増えるだけ。

 多少大変になるだろうが、問題になることはないだろう。


 舞先生が、部屋に戻って奏に説明する。

 どうやら奏は、提案を受け入れたようだ。


「お待たせ。正式に決まったから」


 これでよし。

 結希に悲しい顔をさせずに、済みそうだ。


「あの……ふつつかものですが、頑張ります!」

「表現としては正しいが、それは結希に言ってやれ。人によっては、勘違いされるぞ」


 この言葉は、教えを乞う場面で使うこともある。

 だが、もっとも有名な使い方は「結婚」だろう。

 残念ながら、婚姻可能になる年齢は18歳とされているため、ヒーロー科所属によって成人扱いされる俺たちでも、結婚することはできないのだが。


「はい……考えて、使います。すみません」

「済まない。責めているわけではないのだから、そう落ち込まないでくれ」


 奏の自己評価は、相当低いようだ。

 まずはここから改善しないと、どうにもならないだろう。


「さて、それじゃあ体育館に行くわよ。そこでみんなが、待っているから」


 俺たちは部屋を後にして、体育館に向かうことにした。

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