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第三章 第十二話 橘奏

「奏さん?!」


 結希が、彼女の元に駆けつける。

 激しい戦いによって、かなり傷ついているようであった。


「漣、行けそう?」

「はい。やります」


 舞先生の言葉に呼応して、漣が奏のもとに駆けつける。

 そして、回復魔法を行使した。


「話を続けても、いいかしら?」


 メアが、舞先生に尋ねる。


「あの子の回復を、待ってもらえるかしら? そういうところが、冷たいと思われがちなところよ」


 舞先生が、メアに反論する。

 冷たいと思われがちということは、内心はかなり異なるのだろう。


「分かった。ただ、これだけは伝えておく。奏の機体は、今回のループにおける最大の特異点」


 話が、見えない。

 舞先生も、首をひねっていた。


「飛行形態に変形する機体なんて、私は知らない」


 嘘をついていない。

 本当に「知らない」ようだ。


「これは大きいわ……そのため、最初は誰なのか、分からなかったのだけれども」


 ループしているのならば、当然奏のことを知っているはずだ。

 だが、見たことがない機体に乗っているのであれば、すぐに分からなかったのも納得できる。


「そろそろ、治療が終わるころかしら? 漣、どう?」


 メアが漣に、声をかける。

 呼び捨てなのに、なぜかその方が自然であるように感じられた。

 これが、ループを繰り返してきたことの「重み」なのだろう。


「こちらは、終わりました。ただ……」

「その先は、言わないで。結希と漣、二人の秘密にしておきなさい」


 近くにいた、結希。

 そして、治療を行った漣。

 何かしらの事実に、気づいたのだろう。


 秘密にとどめなければならないこと。

 気にならないと言えば、嘘になる。

 だが、ここまで厳しい口調で述べられているのには、相当な理由があるはずだ。

 今は、そっとしておこう。


「あれ? 私は……」


 奏が、目を覚ましたようだ。


「こうして、目を覚ますことができたということは……助かってしまったのですね」


 助かった、ではなく助かって「しまった」。

 その間には、深くて暗い溝が横たわっているように感じた。


「ダメだよ! 奏さんには、生きる価値がある!」


 結希が、手を握りながら叫ぶ。


「回復させたからには、生きてもらう必要があります」


 漣も、それに続いた。

 あえて冷たい言い方をしているようであるが、彼女らしい温かさが奥に潜んでいる。

 そのように、俺は判断した。


 奏はゆっくりと身を起こし、少しだけふらつきながら、俺たちに近づく。

 途中で立ち止まり、問いを発した。


「ええと……あなたは、ゆめちゃんではないですよね。誰ですか?」

「私はメア。名字は一応、有栖川(ありすがわ)を名乗っているわ。あなたは?」


 メアが、奏に問いかける。


「私は……かん」

「ストップ。本当にそれで、いいのかしら?」


 奏の声を遮って、メアが尋ねる。

 意味は、分からない。

 だが、重要なことであることだけは分かった。


「……分かりました。私は、(たちばな)――(たちばな)(かなで)です」


 その言葉に、メアが頷いた。


「まだ、ダメージが抜けていないと思うわよ。あまり、無理をさせないようにね」


 舞先生が、奏を気遣う。

 奏は小さく頷き、舞先生の言葉を受け入れた。


「さて。メア、まずは学校の先生や生徒たちに、事情を説明しないと」

「分かっている。連絡先は、送信したから。後で落ち合いましょう」


 メアが、学校の先生や生徒たちがいるルクルに向かって去っていく。

 足取りはしっかりしており、ほとんどダメージを受けていないようだ。

 あれだけのアントに囲まれていてなお、である。


「にゃ? 連絡先って、知っているのかにゃ?」

「知っているはずよ。ループしていても、電話番号を変えていないから」


 みかんの問いに、舞先生が答える。


 恐らくメアは、舞先生の連絡先についてはループで「知っている」。

 しかし、今の自分のスマートフォンの番号には、ランダム要素があるため「伝える必要がある」。

 そのため、自分の電話番号を送信したのだろう。


「とりあえず、この場を離れましょう。そして、宴会……とまではいかないけれども、メアも交えて食事にする。それでいいかしら?」

「うん! それがいい!」


 結希が、真っ先に賛同する。

 ヒーローには、出撃義務が課される。

 だが出撃を行った日、及び翌日は、休養のため授業が免除されるのだ。


「奏さん、食べられないものはある?」

「いえ。強いて言うならば、香りの強いものはあまり得意ではありません」


 舞先生が、考え込む。

 そして、結論を出したようだ。


「それじゃあ、この店にするわよ!」


 どこに行くのかは、ついてからのお楽しみのようである。

 俺たちは、舞先生が運転する車に乗り込むことになった。

彼女の氏名には、重大な意味合いが込められております。

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