第三章 第十一話 一筋の希望
Side メア
「なに、これ」
私は、知らない。
こんな状況は、初めて。
私が現場にたどり着いた時には、戦いはほぼ終わっていた。
途中から聞こえてきた、歌声。
それぞれの声には、聞き覚えがある。
しかし、このタイミングで音が重なったことは、一度もなかった。
奏はこの時点では、まだ神無月の家にいるはず。
それなのに、今回は結希たちと一緒に歌い、戦況を一変させた。
まるで、約束されていたかのように。
「今までのループとは、まるで違う」
もしかしたら。
希望的観測であることは、自分でも分かっている。
それでも、期待せずにはいられない。
私は、前に進む。
ようやく戦う力を、得ることができた。
これで、共に歩むことができる。
期待と不安が交錯するなか、私は足を進めていった。
Side 久郎
「あれは……」
共に戦った、おもちゃを武器にする機体。
それが、俺たちの前に現れる。
敵意は全く感じられない。
「敵対するつもりはないわ。示すわね」
彼女は除装し、機体を送還する。
現れたのは、幼い少女であった。
年齢は、10歳程度。
恐らく社会科見学で、ルクルに来た生徒の一人だろう。
俺たちも、除装する。
戦う必要性は、全く無いからだ。
「おひさしぶり、舞」
「ええ、久しぶりね。メア」
舞の知り合い。
昨日、カラオケボックスの中で聞いた名前だ。
確か、ループを繰り返している少女だったはず。
「にゃあ~! 可愛いにゃ~! お持ち帰りしてもいいかにゃ~?」
「この、馬鹿ネコ!」
明が、みかんの頭頂部に拳を叩き込む。
かなり良い音が、響き渡った。
「大丈夫よ。そういう言われ方には慣れている。気にしていないから」
気にしている。
確実に、気にしていると「分かる」。
これは、一体?
「自己紹介として、分かりやすいでしょう? 私のギアスは『明らかな嘘』」
なるほど、確かに。
自分の弱みを教えるためには、うってつけのシチュエーションと判断したのだろう。
「そして、これが私の力。明、拳を見せて」
「うん?」
明が、メアに拳を見せる。
バグへの攻撃で、少し傷つき、血が流れていた。
……反対側の拳で殴られたのは、みかんにとって幸いだったと言える。
「これくらいならば、大丈夫。『現世』」
流れていた血も、傷口も、一瞬で消える。
そこには、傷一つない手が残されていた。
「えっ、古傷まで消えている?!」
「そう。私が『上書き』したから」
……これは、とんでもない力だ。
もし、逆に満身創痍の状態を「上書き」されたら。
想像するだけで、ゾッとする。
「残念ながら、現世に向かう方向にしか使うことができないの。できるとしたら『幽世』だけれども……彼女は、やらないと思うから」
考えを、読まれている?!
いや、読心ではなく、俺の反応を見抜いたのだろう。
とはいえ、身がすくむような思いをしたのは事実だ。
「あまり、脅かさないでね。私の大切な、生徒たちなのだから」
舞先生が、メアをたしなめた。
「それで、その機体はどこで手に入れたのでしょうか? 機体を得られるのは、中学生からのはずなのですが……」
漣の言うとおり、ヒーローの素質があったとしても、機体が与えられるのは「中学入学時」である。
また、リミッターによって実戦は制限され、完全に解除されるのはヒーロー科への入学を待って、という形になるはずだ。
「これが『現世』の本領発揮。模型でしかなかった機体を、“実在するもの”として上書きさせてもらったの」
全員、言葉も出ない。
もはや「神の領域」である。
「ただ、これだけの『上書き』は代償を伴う。使えるのは、あと5回だけ」
回数制限。
これほどの力を振るうのなら、ある意味当たり前の制約だろう。
「とりあえず、舞。ヒーロー法施行規則、第14条5項1号に基づく、転入を希望するわ」
「ええと……ちょっと待って。久郎、分かる?」
舞先生でも、とっさに判断できないようだ。
ここは、法律の専門家の出番であろう。
「ヒーローの素質が極めて高く、かつ審査によりヒーロー科の教育課程に耐えられると判断された者は、例外的にヒーロー科に転入することができる。ただし、小学校卒業までの場合は、家庭裁判所の許可を要する……だったはずだ」
細かい文言は異なるが、おおむねこのような文章だったはず。
ヒーロー科の生徒であっても、ここまで細かく確認する者は少ないだろう。
「正解。それと、ヒーロー法第39条に基づく転入も、一緒に考えて」
「そちらは分かるわ。ヒーロー科に所属していない者で、満15歳以上で中学校を卒業、またはそれに準じる者は、ヒーロー科に転入できる。ただし、試験が課される……よね?」
舞先生が、こちらに投げかける。
頷くことで、正しいと伝えた。
「この子も、恐らく行き場所がないと思う。確認してもらえるかしら?」
メアが指さすその先に。
奏が、倒れていた。




