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第三章 第十話 重なっていく歌声

「おっしゃ! 勝ったぜ!」


 明の声が、響き渡る。

 だが、返ってきたのは冷たい指摘であった。


「あまり、良くないわ。こちら側の敵が弱かったということは、向こうが本命」


 冷徹な判断。

 それは、俺が考えたことと一致していた。


「くそっ。そういうことか!」


 明の機体が、猛スピードで飛んでいく。

 この思考の切り替えの速さは、見習いたいくらいだ。


「あなたも急いで。私の機体は飛べないから、時間がかかる」


 彼女の正体は、分からない。

 だが、発言は間違いなく正論であった。

 俺もブースターを使い、明の後を追うことにした。


 Side 結希


 目の前にいるのは、無数のアント。

 飛行型のアントまで混じっている。

 その中で、味方と思しき機影が一つだけ、必死に戦っていた。


 既に、ボロボロの状態。

 それでもなお、諦めていない。

 空を駆け、手にしたハープ状の弓を駆使して、ルクルを目指すアントを狙い撃つ。


 その姿が、ゲーム内の少女と重なる。

 間違いない。

 彼女は、(かなで)だ。


「大技を使うと、彼女も巻き込まれる。どう伝えたらいいかしら……」


 舞先生が、悩んでいる。

 ここは、僕の出番だ。


「フェイズシフト!」


 叫びとともに、僕の機体――タケルが召喚される。

 すぐにオープンチャンネルで、奏さんに呼びかけた。


「任せて! ――奏さん、一緒に歌おう!」


 僕の声に、機体が反応する。

 そして、歌声が戦場に響き渡った。


 選ばれた曲は「約束(promise)」。

 絆の深さを感じさせる、戦場にふさわしい曲だ。


「にゃ?! 力が湧き上がるにゃ!」

「私もです。これなら、行けるかもしれません!」


 みかんちゃんと、漣さんの声が聞こえてくる。


「行くにゃ。フェイズシフト――ビリジアン!」

「フェイズシフト――ネイビー!」


 みかんちゃんと、漣さん。

 二人も、機体を召喚した。


「フェイズシフト」


 舞先生も、同じように機体を召喚する。

 機体名を呼ぶかどうかは、人によって違うみたいだ。

 翠玉色の機体が、姿を現す。


 僕は、舞先生に視線を向ける。

 多分、頭のいい彼女なら、求めていることを分かってくれるはずだ。


 そして、舞先生も歌い出す。

 戦場に響く歌声が、一層厚みを増していく。


 舞先生は、心の会話を受け取るだけでいい。

 僕たちのやり取りから、奏さんが離脱するタイミングを把握できるはずだ。


「(こっちに来て! まずは、漣の治療を受けて!)」

「(分かりました)」


 奏さんが地上に降り、変形する。

 人魚のような形態で、地上戦にはあまり向かないように見えた。


「治療すれば、いいのですね。『ヒーリング・ウェーブ』!」


 漣さんが、奏さんを治療する。

 完全に、前方が敵だけの状態。

 これを舞先生が、見逃すはずはない。


 声は、聞こえない。

 無詠唱の魔法。

 でも、大丈夫。


 翼をもつ、巨大な鳥が戦場を駆け巡る。

 暴風によって、吹き飛ばされるアントの群れ。

『フレスベルグ』は、やっぱり最強クラスの技だ。


「さらに、こうして……にゃ!」


 みかんちゃんが、黒いボールをアントの群れに叩き込む。

 そのボールは、次々とアントを引き寄せていった。

 逃れようとするものの、引き寄せる力の方が強いようだ。


 そこに、フレスベルグが再度放たれる。

 これはもう、どうしようもない。

 アントたちはほぼ一掃され、クイーンアントと側近だけが残る形になった。


「(後は、僕に任せて!)」

「(分かりました。ご武運を)」


 歌は、途切れない。

 全力で走る。


 通りすがりに、一体。

 返す刃で、もう一体。

 調子は、絶好調だ。


 クイーンアントが、叫び声をあげる。

 それに応じて、大量のアント、さらにもう一体クイーンアントが召喚された。


「(結希、ダメ!)」

「(無理はしないよ。大丈夫!)」


 僕は、最初にいたクイーンアントに迫る。

 選ぶ技は『(はやぶさ)』。

 関節部を狙い、確実に機動力を奪う。

 久郎がいつもやっていたことと、同じように。


 そこから返す刃で、もう一撃。

 最初にいたクイーンアントは、綺麗に両断された。


 周りには、無数のアントが揃っている。

 飛び込んできた獲物、つまり僕に対して、狙いを定めているようだ。


「(やだ、やだ!!)」


 歌声が、乱れる。

 必死に合わせて、つなぎとめる。

 この絆は、離したくない。


 舞先生の援護は、難しいだろう。

 僕もろとも、攻撃するしかない状況だからだ。

 でも、心配していない。


 赤い流星が、空からクイーンアントに向けて突き刺さる。

 そして、その後を黒い機体が追いかけるように飛んでくる。


「悪い、遅れた! 今から合わせる!」


 久郎も『シンクロニティ』に加わる。

 それにより、さらに歌声の厚みが増す。

 もう、負ける気はしない。


 久郎の『(からす)()』によって、アントの群れの「隙間」が見える。

 そこに向けて、ひた走る。


 蟻酸による攻撃は、無視だ。

 僕の機体は、その程度で倒れるほど弱くない。


 久郎も、進行先のアントを空中から狙い撃つ。

 おかげで、戦線離脱することができた。

 さらに、赤い機体はクイーンアントに一撃を入れ、ボロボロの状態に追い込んでいく。


「この状況なら……これにゃ!」


 白い球。

 それが、ボロボロの外骨格の裂け目から内部へ食い込んだ。


 次の瞬間。

 クイーンアントが「はじけ飛んだ」。

 恐らく『斥力(せきりょく)』によって、内部から破壊されたのだろう。


 アントたちの動きが、鈍る。

 もう、負ける要素はない。

 着実に、とどめを刺していくだけ。


 戦いは、一方的な形で終わった。

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