第三章 第九話 順調な戦い
Side 久郎
俺たちを乗せた中型車両は、猛スピードで街を駆け抜けていく。
サイレンと、オレンジの回転灯が緊急事態であることを示し、周囲の車が道を開け、交差点もそのまま突き進んでいく。
オレンジの回転灯は、ヒーローの緊急出動の証。
新たに設けられた区分だ。
赤の回転灯と同様に、周囲の車には道を譲る義務がある。
余談だが、街にはとあるものが存在していない。
それは、電信柱。
電線は、バグやヒーローの攻撃によって、破壊される可能性が非常に高い。
そのためインフラは、全て地下に埋められる形になったのだ。
地面を掘り進むバグも存在するが、街中に張り巡らせるよりは、はるかにマシだろう。
「もうすぐ、現場に着くけれど……進行先に、バグ?!」
舞先生が、中型車両を停止させる。
そして、スマートフォンの情報を確認した。
「この近くと、ルクルフジ支所の向こう側。両方で戦いが行われているみたい」
状況は、かなり悪そうだ。
どうしても、分かれて行動するしかない。
機体によって、機動力が大きく異なるからだ。
「向こう側のバグには久郎、明。残りはこちら側のバグを倒して、合流。全員急いで!」
この分け方は、妥当だろう。
俺の機体には、滑空する能力がある。
そして明の機体は、ブースターによる飛行が可能だ。
機動力に優れた俺たちが、先行して向こう側のバグを叩く。
その間に、全員でこちら側のバグを倒し、合流する。
最適解であろう。
「今回、シンクロニシティは使えないわね。久郎、行ける?」
「最善を尽くす。最悪の場合、そちらが来るのを待つ形になるが」
どれだけの相手なのか、分からない状況。
行けると確約することは、できない。
「あなたらしいわね。明、準備は良い?」
「おせーよ。それじゃ、行くぜ!」
明が、機体を召喚する。
「フェイズシフト――スカーレット!」
真紅の機体。
後ろには、巨大なブースターが二基装着されている。
武器はなく、拳そのもので戦うようだ。
「フェイズシフト」
俺も機体を召喚する。
黒い機体、レイヴン。
翼を持ち、ブースターを併用することで、空を駆けることが可能だ。
「頑張ってね! 久郎!」
「ああ!」
そして俺たちは、ルクルフジ支所の反対側に向け、勢いよく飛び出した。
地上にいるのは『アント』。
一部が蟻酸を、こちらに吐きかけてくる。
「そんな攻撃、当たるかよ!」
明の速度に、明らかについていけないようだ。
俺も当たらないよう、少しだけ軌道修正する。
できるだけ直線で。
それが、最速なのだから。
「っと……あそこか!」
明が、急降下する。
そこでは、一機が踊るように、バグに対して攻撃を行っていた。
「え、おもちゃ?!」
明が、驚きの声を上げる。
俺も同感だ。
バグに向かっているのは、おもちゃのナイフ。
しかしそれは、確実にバグの頭部を破壊している。
見た目との落差が、著しい。
「久郎は、この機体の援護をしてくれ! 俺は奥の、でかぶつを狙う!」
バグの出現地点に、大型の『アント』がいる。
恐らく『クイーンアント』だ。
クイーンアントには、配下のアントを召喚する能力が備わっている。
「任せる――そこの機体、聞こえるか?」
俺は、戦っている機体に呼びかけた。
「聞こえるわ。突撃二回。クイーンは多分、そのくらいの硬さだと思う」
返ってきた声は、幼さを感じさせるものであった。
だが、指示は的確。
「明、一撃で仕留めようとするな。一発かまして、全力でもう一発で仕留めろ!」
「分かった!」
俺は機体を、地上に下ろす。
幸いアントは、まだ広範囲には散っていないようだ。
「主に私が、相手を引き付ける。とどめをお願い」
「分かった」
傘のような物体を、自由に操る機体。
そこからは、白いオーラが展開され、相手の攻撃を防いでいた。
このようなシステム、見たことがない。
「見とれていないで! 戦いに専念!」
「悪い!」
俺らしくない、失敗だ。
すぐに頭を切り替え、戦闘に移行する。
戦いは、一方的なものになった。
傘を持つ機体は、攻防ともに、非常に熟練した動きを見せている。
そして、攻撃すべきタイミングでは、俺の射線上から身をそらしている。
おかげで、非常に狙いやすい。
「どりゃっ! で、一回戻る、と……」
クイーンアントの悲鳴が、戦場に響き渡る。
頭部を中心とした、大きなヒビが入っていた。
「そして、とどめ!『ソニック・ブロー』!」
明の攻撃が、クイーンアントに突き刺さる。
その拳は頭を貫通し、胴体まで突き刺さった。
アントの動きが、急激に鈍る。
もはや、新たな増援が来ることはない。
俺たちの勝利は、ほぼ確定であろう。
とはいえ、油断はしない。
しっかり、とどめを刺していく。
そして、最後のアントが地に伏した。




