第三章 第八話 初陣――想定外の挟撃
用意された車両は、運転席、助手席以外に12人乗ることができる、中型車両であった。
どっしりとしたボディは、頼もしさがあった。
俺たちは次々と乗り込み、出発しようとした。
その時。
「うそ。こちらにも、バグ出現の兆候?!」
舞先生が、叫ぶ。
俺たちも、同じ気持ちだ。
どちらを優先するか、迷う。
「こちらは、任せておけ! 二年生、戦闘配備!」
ヒーロー科二年生を担当する、男性の教師が声を上げる。
既にそこには、二年生たちの機体が呼び出され、戦闘態勢が整えられていた。
「分かった。任せるわよ!」
舞先生が、運転席に座る。
中型車両の免許も、持っているようだ。
そして俺たちは、最初の目的通り「ルクルフジ支所」に向かうことにした。
――時間は、少し遡る――
Side メア
私たちは、ルクルフジ支所に社会科見学で訪れていた。
最新技術を紹介するための、どちらかといえば子供向けの施設。
機体に関連するものも多く、特に男子が興味を示している。
そして、一番奥。
そこに、子供が乗り込むことができる機体の「模型」が存在していた。
「次に乗りたい人~!」
「はーい!」
係員が、私たちに声をかける。
乗る生徒の割合は、男子が多い。
しかし、女子もそれなりにいる。
女性のヒーローも、数多く存在しているから。
私は、待つ。
「そろそろ最後ね。乗りたい人~!」
ここで、手を上げる。
「メアちゃんね。それじゃあ、どうぞ!」
機体に乗り込む。
そして『現世』を発動させた。
模型の機体が、私の力に呼応して『塗り替えられて』いく。
ただの展示物であったそれが、戦闘用の機体に変化していく。
内部構造を、構築する。
外側の装甲を、実戦用のものに入れ替える。
目指すのは、かつて愛用していたあの形、あの性能。
周りのざわつきは、無視する。
そして、上書きは成功した。
「残数、6から5」
この『奇跡』は、回数制限付き。
滅多に用いることができないものだ。
だが、機体を得られるのであれば、使うしかない。
「緊急事態! 近隣に、バグ発生!」
これも、前回までのループで経験済み。
私の初陣。
もっとも、何度も繰り返しているのだから、初陣と言っていいのか分からないけど。
「発生箇所は複数! 避難準備!」
……これは、想定外。
私の心に、少し焦りの色が混ざる。
落ち着きなさい。
この程度のトラブル、何度も潜り抜けて来たのだから。
そう、自分に言い聞かせる。
ある程度、落ち着いた。
周りの生徒たち、係員は、すがるように私の機体を見ている。
「私が出陣したら、結界を作動させて。数分なら、耐えられるはずだから」
もう、遠慮する必要はない。
全力で考え、戦う時だ。
複数存在する、出現場所。
最悪なことに、ルクルフジ支所を挟むような形で、発生していた。
「近いのは、こちら……そして、ヒーローの反応あり」
ヒーローの反応が、一つ。
反対側に、いるようだ。
実力、識別コードともに不明。
でも、今はそのヒーローが持ちこたえることを、信じるしかない。
「そこのヒーロー、とにかく耐えることを優先して! 私は反対側で、援軍を待つから!」
「わ……分かりました。何とか、やってみます」
不安を含んだ声が、返ってくる。
あまり戦闘に、慣れていないのだろう。
だが、どうしようもない。
聞き覚えのある、声のような気もする。
だが、機体の形状が異なる。
恐らく、別人であろう。
私はバグの発生した地点に向け、機体を進ませる。
そこにいたのは『アント』と呼ばれる、比較的低位のバグ。
ただし、数の多さで対抗するため、厄介であることは間違いない。
目視できる数は5。
十分、防ぎきれる範囲だ。
バグが、こちらに気づく。
そして、一部の個体が『蟻酸』を使い、遠距離攻撃を行ってきた。
「アンブレラ、展開」
傘の形をした防御装置を、稼働させる。
バリアが形成され、蟻酸は表面ではじかれた。
「いくわよ。『トイ・ビン』」
戦闘が始まる。
今の私がするべきことは、時間稼ぎだ。
待っていれば、フジ市のヒーローが駆け付けてくれる。
一体も、後ろに通さないこと。
それが、勝利条件。
早速、横を通ろうとするアントが出てきた。
「させない。『カラフル・ナイフ』」
赤、青、黄……さまざまな色をした、おもちゃのナイフがアントに突き刺さる。
……おもちゃなのは、見た目だけであった。
数か所を縫い留められ、完全に動けなくなるアント。
「次。『コルク・ショット』」
コルクの弾丸が、さらに反対側を通り抜けようとしたアントを直撃する。
頭部がはじけ飛び、すぐに動かなくなった。
しかし、発生地点から新たなアントが出現する。
そこに居座るクイーンアントが、原因。
それを倒さなければ、戦いは終わらない。
「待つ。必ず来る。信じている」
私は気を入れ直し、アントたちと対峙した。




