第三章 第六話 聖痕――根源たる恐れ
漣が、部屋に入って椅子に座る。
背中がしっかり伸びており、上品な仕草であった。
「もしかして、彼女はお嬢様?」
「ある意味そうだぜ。由緒正しい、神社の生まれらしい」
結希の問いに、明が答える。
装置が停止し、漣が部屋から出てきた。
「さってと……ふぎゃ!」
「結果を聞いてから、入りなさい。早急に、リードが二本必要ですね」
みかんが続こうとして、漣に首を掴まれる。
少し吊られるようになっており、まさに猫そのものだ。
「ほんとにもう、この子は……はい、これが結果ね」
舞があきれ顔で、用紙を手渡した。
一読する漣。
「情報共有は、必要だと考えます。皆さんも見てください」
全員集まり、確認することになった。
ギフト:『波』 『水』 治癒能力 美人
ギアス:受信感度大 根源たる恐れ
フェイト:聖者
「ええ~!」
ギフトのところに、『』が二つ。
結希の結果ですら、こんなことは無かった。
「これは、すごいわね。水魔法や、波を利用した魔法は破格の力を示すと思うわよ」
舞先生の言葉が、ギフトの有用性を示していた。
結希の『剣』は、剣の形をしたもの全てに効果がある。
恐らく彼女の『波』、そして『水』も、同様であろう。
「治癒能力も、ギフトに加わっているわね。ヒーラーとしては、最強クラスではないかしら?」
「いえ、まだ舞先生には遠く及びません。精進いたします」
謙虚な姿勢が、漣らしい。
また、ギフトの美人も非常に納得できるものであった。
「ギアスは……受信感度大、これは危険ね」
波長が「合いすぎる」ようで、毒電波や精神干渉、暗示などの影響を受けやすいという、かなりきつめのギアスだ。
とはいえ、破格のギフトの代償と考えれば、やむを得ないだろう。
「根源たる恐れ。これは、久郎に説明してもらおうかしら?」
「俺か? ……ああ、なるほど」
恐らく、エニアグラムにおけるタイプの特徴だ。
「エニアグラム的に、タイプ6の人間は『恐れ』が根幹になる。恐れ・不安などの感情が、さまざまな行動に影響するらしい」
その傾向が、強いということなのかもしれない。
今のたたずまいからは、想像できないのだが。
「なるほど。言われると、心当たりはあります」
彼女は、神社で生まれ育っている。
その中で、両親がクマサカの影響により、徐々におかしくなったこと。
それが、心に大きな影を落としていると漣は告げた。
……今は、深く聞かない方がいいだろう。
舞先生も、それ以上は踏み込まなかった。
代わりに、最後の項目へと視線を移す。
「フェイトの聖者は、聖属性の魔法、回復魔法の力を高めることになる。もっとも、神の意に沿った行動をとらなければならないという、枷にもなる。こんなところかしら?」
なかなかに、強烈な結果であった。
おとなしそうに見えて、三人の中でもっとも芯の強い人物。
その裏には、壮絶なものが秘められていたようだ。
結果を聞いた漣が、少し目を伏せて話し出す。
少し震えながらも、しぼりだすように言葉を紡いでいく。
「私は、いわゆる箱入り娘でした。そのため、神社の外に出る機会がほとんどありませんでした。だから、クマサカの毒電波の影響から逃れることができたのだと思います」
神社という場所は、ある種の「結界」を有している。
そのため、新たな毒電波から逃れることはできたようだ。
「しかし、両親は徐々に狂っていきました。外出して、人と触れ合う機会が多かったので……」
一度心に蓄積された「毒」までは、結界でも取り除けなかったようである。
状況を想像すると、胸が痛くなる。
目の前で、人が壊れていくのをただ、見ることしかできない。
回復魔法も、精神を徐々に変えていくクマサカのやり方の前では、無力。
それらが「恐れ」として、彼女に強く影響しているのだろう。
「神社の中にいる限り、私は守られていました。けれど、外に出るとなると話は別です」
制服の内ポケットから、少し擦り切れたハチマキを取り出す。
懐かしそうな目で、漣はそれを眺めていた。
「このハチマキ、みかんが作ってくれたのです。これをつけていると、毒電波に対してそれなりに効果があるようでした。それで、ようやく外に出られるようになったのです」
これまた、意外な情報である。
脳波に反応するネコミミといい、このハチマキといい。
みかんの「技術力」は、予想以上に高いようだ。
「単に、見ていられなかっただけだにゃ。あの寂しそうな目を、何とかしたかったからにゃ」
軽く言っているが、開発には相当時間も、労力もかかっているはずだ。
もしかして、みかんは大物?
「さてと。いよいよ真打ちの出番だにゃ!」
みかんが、部屋の中に入る。
今度は漣も、止めることは無かった。
果たして、どのような結果が示されるのか。
単に軽いだけの少女ではないことが分かり、期待が高まる。
その結果は……。




