第二章 閑話その二 白へ至る手段
Side 舞
私が久郎と別れ、フジ中央高校の会議室に入ったとき。
状況は、かなり紛糾していた。
「今回の退学者によって、失われる収入はこれだけだ! もはや公金導入を受け入れ、この事態を招いた者たちを刷新するしかない!」
教頭が、校長に対して詰め寄る。
学校の運営が、相当厳しい状態になっているのは事実だ。
だが、裏の事情を知っていれば、教頭の真の目的は明らかである。
クマサカの手の者による、学校の占領。
それ以外に考えられない。
「ふむ……舞、遅かったな。用事は『済んだ』のか?」
校長が、私に話しかける。
これが、合図だ。
「ええ。用事は『全て』済ませることができました」
そして、私も答えを返す。
ここからは、こちらのターンだ。
「そういうわけなので……この事態を招いた方を、拘束させていただきます」
ドアを全開にする。
そこからなだれ込むのは、藤花コーポレーションの私設警備員。
事態に対処できないまま、教頭を含む数名が拘束された。
「何をする、きさま! このような暴挙が、許されると思うのか?!」
「暴挙、ね……学校を乗っ取ろうとしていることの方が、よほど暴挙だと思うけれども?」
軽く受け流す。
その上で、耳につけたイヤホンからの報告に集中することにした。
状況は、混乱している。
本当に信じられる「味方」にしか、この作戦は伝えることができなかった。
そのため、教師の中には教頭の拘束を解こうとして、押さえつけられる者もいる。
その中で、校長が発言した。
「この場は任せてほしい。校内の収拾に、全力を挙げてくれ」
「分かった。こちら側で何が起きているかの説明は、校長に任せるわ」
イヤホンからの報告は続く。
そして、ターゲット全員の確保に成功したことが判明した。
巨大バグとの戦いでは、苦汁をなめることになった。
しかし今回は、こちらの勝利で終わらせる。
「ありがとう。これで懸案事項の一つは、何とかなりそうよ」
そして私は、教頭と対峙する。
「あなたと、その子飼いたち。クマサカの息がかかった者は、全員拘束させてもらったわよ」
「はっ。お前なんかに、私の仲間全てを知るすべなどなかろう!」
語るに落ちる。
教頭自らが、クロであることを自白した。
「そうね……名前を挙げるから、確認してみてはいかがかしら?」
私が、拘束した者たちの名前を挙げていく。
しかし、教頭の顔にはまだ、余裕の表情が残されていた。
「そして、キシ」
最後の一人を挙げた途端に、教頭の顔がゆがむ。
「厄介ね。一定期間、教頭の指示がないことで発動する、遅延型の洗脳。悪意の塊としか、言いようがないわ」
……事実、キシによって私たちは、「前回」痛い目にあった。
彼を見逃したことで、機体への破壊活動を許し、いざという時に間に合わなかったのだ。
もう二度と、あんな思いはしたくない。
「警察はまだか! これは公務執行妨害だぞ!」
「そうね。今、来たみたいよ」
警察官が、私に挨拶する。
そして、教頭に手錠をかけた。
「は?! ふざけるな! この状態が、見て分からないのか?!」
「分かっております。殺人教唆、及びヒーロー法に基づく妨害行為の首謀者逮捕に、ご協力感謝いたします」
警察にも、クマサカの手は及んでいた。
だから、ある程度まで影響を削ぐ必要があった。
少なくとも実行部隊が動けるようになる、この日まで待ったのだ。
後で釈放される可能性は、あると思う。
しかし今、この場から引き離すだけでも十分。
まずはこの学校を完全な『白』にする。
クマサカから切り離された、安全地帯にするほうが先。
騒ぎ立てる教頭と、拘束された教員が警察官によって排除される。
ようやく、まともな話し合いができそうだ。
「はいこれ、市議会と県議会の承認。更にヒーロー活動を行う学校に関する特例制度の適用。これで通ると思うわよ」
「後は、決議とサインだけか。それでは今から、本来の会議を始める」
校長が、開会の宣言を行う。
フジ市立から、私立学校への変更。
それに伴う、施設の一般への解放を含む、いくつかの議題。
普通は通らないだろう。
しかし、この設備を維持するためには、通す以外の道はない。
それは、まともな感性を持つ教員なら、誰もが理解していることだ。
そして、通すための方法はある。
クマサカが、カントウ圏の公立学校をいくつも「私物化」したときの方法だ。
それを、逆利用させてもらう。
「ここからが、本当の戦いね」
私は校長と、握手を交わした。




