↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/94

第一章 第一話 ヒーロー科という選択

ここから、本編となります

「ここが、学校か……巨大な戦場の入口にしか、思えないな」


 校門の前に立った瞬間に、俺の口からそんな言葉が思わず漏れだした。


 今朝、嫌な夢を見たことも影響しているのかもしれない。

 

 自分が力尽き、倒れる夢。

 そして、守らなければならない存在を、守れなかった夢。

 それは夢とは思えないほど、生々しいものであった。


 血の匂いが、まだ消えていない。

 魂の底で、現実に起きたことではないかと感じている。

 そんなこと、あるはずないのに。


 とはいえ、前々から感じていたことであるのもまた、事実だ。


 高いフェンスに加え、監視カメラと結界投射装置が並ぶその場所は、学び舎よりも要塞に近いのではないかと感じる。

 内部を確認するすべはなく、学校としては明らかに異様な作りだ。


「久郎(くろう)、縁起でもないことを言わないで! 恥ずかしいよ!」


 俺の言葉に、結希(ゆうき)が答える。

 注目を集めないよう、少しだけ声は潜められているものの、いつも通りの様子であった。


 俺の名前は、神崎(かんざき)久郎(くろう)。

 今日からこの、フジ中央高校の新入生、ヒーロー科の一員となる。


 この学校には、『ヒーロー科』という学科が存在している。

 その名の通り、ヒーローを育成するために設けられたものだ。


 いきなりこのような言葉が出てきたため、混乱しているのではないかと感じる。

 そのため、ヒーローについて簡単に、説明しておくことにする。


 この世界には、バグと呼ばれる敵性生命体が存在している。

 20年以上前に現れた、人類の宿敵だ。

 既に多くの国家が、バグによって崩壊している。


 バグのもっとも厄介な性質は、通常兵器がほとんど効かないことだ。

 研究の結果、完全な形で通じるのは『ヒーロー』と呼ばれる、素質を持つ者の攻撃だけであるということが判明した。

 その『ヒーロー』を、実戦に耐えられるレベルまで鍛え上げるために設けられたのが、ヒーロー科という制度だ。


 ヒーロー科は、高校に併設される形をとっている。

 ある程度成熟し、自分の意志がしっかりしている者でなければ、厳しい訓練に耐えられないからだ。


 このフジ中央高校は、その中でもトップクラスの施設である。

 防衛設備、訓練区画、医療棟。

 そしてラウンジのように、心身を安定させるための設備。

 どれを取っても、一般校の水準をはるかに超えているため、希望するヒーローは非常に多「かった」。


 ヒーローという単語から、夢見る者もいるかもしれない。

 だが、現実は非情に厳しいものであり、ヒーローの多くが戦いによって命を落としている。


 そして、この科に所属した時点で「大人」として扱われ、責任能力が与えられる。

 別の世界では「成年擬制」と呼ばれている制度が、形を変えて存在しているのだ。

 親による庇護から外れ、自己の責任のもとに戦闘を行うことになる。


 親権の行使による、出撃命令の拒否は許されない。

 それが、ヒーロー科に所属するということの「重み」だ。


 既に入学手続きを終えた、俺たちはもう「子供」ではない。

 この門をくぐることは、その事実を否応なく突きつけるものだ。


「でも、良かった。実技試験でいい成績が取れて」

「ああ。学科の方はギリギリだったようだが、実技の上乗せが効いたようだな」

「だね。一緒に通えて、良かった!」


 結希が微笑む。

 男だと分かっていても、なおドキッとさせられる。

「花が綻ぶ」ような笑顔というのは、こういうものを指すのだろう。


 彼女……もとい、彼の名前は、御門(みかど)結希(ゆうき)。

 サラサラの金髪碧眼が特徴の、美少年だ。

 俺の幼なじみであり、剣を召喚する能力を持つ。

 長年共に戦ってきた、相棒と呼んでいい相手だ。


 その剣は、彼の意思に呼応して現れる。

 鋼よりも硬く、光よりも鋭い――そして、誰よりも真っすぐな剣。

 それを手にした結希の優美な戦いは、男女問わず注目させられるものだ。

 そして、戦闘後に明らかになった顔を見て、ガチ惚れする者も多い。


「……今、何か変なことを考えたでしょ?」


 その一言で、背筋が冷える。

 どうやら、顔に出ていたらしい。


 結希の「感」は、異常なほどに鋭い。

 前線で戦うこと、そして俺の相棒であることで、この直感が磨かれたのであろう。


「いや、お前が心配するようなことは、考えていないぞ」

「う~ん、何か怪しいな……」


 疑うような視線を向けられ、思わず視線を逸らす。


 結希の顔は、下手なアイドルでは太刀打ちできない。

 ただし、本人にとっては女性にしか見えないことが、悩みの種のようだ。

 それにしても、体型にまで女性らしさがあるにもかかわらず、剣に力不足を感じさせないのだから、不思議としか言いようがない。


 まあ、バグにとっては性別も、外見も関係ない。

 どちらが生きるか、死ぬかだけのことだ。


「まあいいや。これからも、勉強を教えてくれる?」

「ああ、もちろんだ」


 俺の返事に、結希は満足そうに頷いた。


 彼は真っすぐな目で、校門を見つめている。

 その澄んだ瞳に、俺は少し気後れした。


 結希の性格は、光と呼ぶのがもっともふさわしい。

 真っすぐで、正義を疑わない純粋な心の持ち主なのだ。

 眩いオーラが、体を包んでいるようにすら感じる。


 一方の俺は……心の中に、闇を抱えていることを自覚している。

 頭は、確かに良いと思っている。

 だが、搦め手が主体であり、攻撃力不足であることは、戦いにおいて何度も痛感している。

 俺はあくまでも、結希のサポートとして、条件付きで合格を許されたような感覚があるのだ。


 前線で輝くのは、いつだって結希。

 俺はその背中を守り、勝ち筋を探し、最善手を選ぶ。

 それでいい――そう、自分に言い聞かせてきた。

 恐らくそれは、これからも変わらないだろう。


「ほら、早く行かないと入学式に間に合わなくなるよ!」

「分かった。……ってこら、手を引っ張るな!」


 有無を言わせぬ力で腕を引かれ、俺はバランスを崩しそうになる。

 だが、その温度は不思議と嫌ではなかった。


 結希に手を引かれて、校門をくぐる俺。

 なびく青い髪が、門という境界を超えた。

 これでもう、戻ることは許されない。


 ――ここから先は、戦場だ。

 ヒーロー科という、戦いの最前線。

 光と闇が交差する場所で、俺たちは本物の『ヒーロー』になる。


 それが、祝福なのか。

 それとも、呪いなのか。


 答えは、まだ分からない。


挿絵(By みてみん)挿絵(By みてみん)

御門結希、神崎久郎のイメージイラストを挿入しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。