表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/9

第一章 第一話 ヒーロー科という選択

ここから、本編となります

「ここが、学校か……まるで、巨大な戦場の入口だな」


 校門の前に立った瞬間、俺の口から思わずそんな言葉が漏れた。


 高いフェンスに囲まれ、監視カメラと結界投射装置が等間隔に並ぶその様子は、「学び舎」というより要塞に近い。

 新入生を迎える朝のはずなのに、空気はどこか張り詰めている。


久郎(くろう)、縁起でもないことを言わないでよ! 恥ずかしいよ!」


 俺の言葉に、結希(ゆうき)が答える。

 周囲の視線を気にしてか、わずかに声を落としながらも、その調子はいつも通りだった。


 俺の名前は、神崎(かんざき)久郎(くろう)

 今日からこの、フジ中央高校の新入生になる者だ。


 この学校には、『ヒーロー科』という学科が存在している。

 その名の通り、ヒーローを育成するために設けられたものだ。


 ヒーローについて、説明する。


 この世界には、バグと呼ばれる敵性生命体が存在している。

 それに対しては、通常兵器はほとんど効果がない。

 通じるのは、ヒーローと呼ばれるごく一部の者たちの攻撃だけなのだ。


 ヒーロー科は、高校に併設される形をとっている。

 このフジ中央高校は、その中でもトップクラスの施設だ。

 防衛設備、訓練区画、医療棟、そして出撃ゲート。

 どれを取っても、一般校の水準をはるかに超えている。


 一見、夢を育てる場所に見えるかもしれない。

 しかし、この科に所属した時点で「大人」として扱われ、責任能力が与えられる。

 それはすなわち、親による庇護から外れるということだ。


 親権の行使による、出撃命令の拒否は許されない。

 それが、ヒーロー科に所属するということの意味だ。


 校門の内側に足を踏み入れた瞬間から、俺たちはもう「子供」ではない。

 その事実が、じわりと背中に重くのしかかっていた。


「でも、良かった。実技試験でいい成績が取れて」

「ああ。学科の方はギリギリだったようだが、実技の上乗せが効いたようだな」

「だね。一緒に通えて、良かった!」


 結希が、微笑む。

 男だと分かっていてもなお、ドキッとさせられる笑顔であった。

 彼女……もとい、彼の名前は、御門(みかど)結希(ゆうき)

 サラサラの金髪碧眼が特徴の、美少……年だ。

 俺の幼なじみであり、剣を召喚する能力を持つ、相棒と呼んでいい相手だ。


 その剣は、彼の意思に呼応して現れる。

 鋼よりも硬く、光よりも鋭い――そして、誰よりも真っすぐな剣。


「……今、何か変なことを考えたでしょ?」


 その一言で、背筋が冷える。

 どうやら、顔に出ていたらしい。


 そして、結希の「感」は異常なほどに鋭い。

 前線で戦うことで、この直感が磨かれたのであろう。


「いや、お前が心配するようなことは、考えていないぞ」

「う~ん、何か怪しいな……」


 疑うような視線を向けられ、思わず視線を逸らす。


 結希の顔は、それこそ下手なアイドルでは、太刀打ちできないほどに整っている。

 ただし、誰がどう見ても女性にしか見えない点が、悩みの種のようだ。

 それでも、剣を振るのに全く力不足を感じさせないのだから、不思議である。


 もっとも戦場では、性別も外見も関係ない。

 結果だけが、すべてだ。


「まあいいや。これからも、勉強を教えてくれる?」

「ああ、もちろんだ」


 俺の返事に、結希は満足そうに頷いた。


 結希は真っすぐな目で、校門を見つめていた。

 その澄んだ瞳に、少し気後れする。


 結希の性格は、光に例えるのがもっとも適切であろう。

 真っすぐで、正義を疑わない純粋な心の持ち主。

 眩いオーラが、体を包んでいるようにすら感じる。


 一方の俺は……心の中に、闇を抱えていることを自覚している。

 頭は、確かに良い。

 だが搦め手が主体であり、攻撃力不足の俺はあくまでも、結希のサポートとして、条件付きで合格を許されたような感覚がある。


 前線で輝くのは、いつだって彼だ。

 俺はその背中を守り、勝ち筋を探し、最善手を選ぶ。

 それでいい――そう言い聞かせてきた。


「ほら、早く行かないと入学式に間に合わなくなるよ!」

「分かった。……ってこら、手を引っ張るな!」


 有無を言わせぬ力で腕を引かれ、俺はバランスを崩しそうになる。

 だが、その温度は不思議と嫌ではなかった。


 結希に手を引かれて、校門をくぐる俺。

 なびく青い髪が、門という境界を超えた。

 その瞬間、もう戻れなくなったような、そんな感覚を抱いた。


 ――ここから先は、戦場だ。

 学びの名を借りた、現実の最前線。

 光と闇が交差する場所で、俺たちはヒーローになる。


 それが、祝福なのか。

 それとも、呪いなのか。


 答えは、まだ分からない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ