覚悟(2)
それから二人は、イントリーニアの拠点に向かった。拠点には、執事服の男一人だけの存在が確認できた。シルビアーノ曰く、その男は、ガジルと呼ばれ、イントリーニアの術師会に所属している幹部の一人で、攻撃系に特化した“元“勇者とのこと。ランクとしては、Aランクらしい。おそらくは、ゼノンと同レベル。ただし、ゼノンといえど、ハルの“本気“のインビジブルは、その気配すら感じ取れない。確かに、ダンの最期を見届けた後に野営地に戻った際、ガジルのただならぬ気配を察知し、咄嗟にインビジブルをかけたが、ガジルには悟られなかった。なので、今は、シルビアーノにもかけて、拠点内を探索している。
(それにしても、あなたって、ほんと、すごいのね。他人にインビジブルをかける、なんて聞いたことがないわよ。学園にいた時からすごい、とは思ってたけど。これほどとは思わなかった。正直、攻撃を仕掛けなくてよかったわ。)
(いやいや、僕なんてまだまだだよ。まぁ、もし、君に攻撃されても、なんとかやり過ごすことはできたとは思うけど。)
(やり過ごす、ねぇ。確かに、ダンの攻撃を見事に躱してたものね。私には、“あの“攻撃は躱せないもの。)
しばらく、拠点内を探索してみたが、先の獣魔騒動とイントリーニアとの直接的な関係を示すものは、流石に見つからなかった。しかし、ガジルが、イントリーニアに“魔術通話“で何かしらの報告をしているのを聞くことができた。“魔術通話“とは、パンズール王国でいうところの念話に近いのだそうだが、頭の中での会話ではなく、声に出すところが大きな違い。そのため、通常は、“静音結界“を張って使用するらしい。今も、一人しかいないが、ガジルは“静音結界“を張っている。しかし、ハルは、相手に気づかれることなく、その結界を破っている。
(ねぇ、これも、その、オリジナルってやつなの?)
(うん、何とか形にできたんだよね。)
(もう“すごい“を通り越して、“怖い“わよ。アンタって、ほんとに門兵?)
(うん、ただの“門兵“。ほんとは、こんなことより、門兵の仕事に戻りたいんだよね。)
ガジルの報告内容はこうだった。
・イントリーニアが送り込んだダン、シルビの二人の勇者と、世話人としての術師は、原因は不明だが自分以外の全員が滅殺。
・ターゲット(ハル)との交戦が生じたことは、見張り役の術師からの報告で確認。
・ターゲット(ハル)の存在も、感じ取れた気配がなくなったことで、同じく滅殺。ただし、これは想像の範疇。
・直ちに、イントリーニアに戻る。
(で、彼はどうするの?)
(とりあえず、このまま放っておく。)
しばらくして、ガジルは拠点を後にした。ハルとシルビアーノも後を追うように、拠点を出た。
「じゃぁ、一旦、僕の屋敷に戻ろうか。」
「いいの?」
「別に、いいよ。それに、さっきの“アテ“にも関係するし。」
どういうことかよくわからなかったが、せっかくなので、甘えることにした。そういえば、ハルの実家によるのは、専科1年の時以来。果たして、覚えていてくれてるだろうか。
ハルは、事前にハースへ念話で事の顛末を伝えておいた。内容は、シルビアーノに話したことと同じ。
(本当のことは話せないけど、でも、全くの嘘、でもないから。許して、かあさん。シルビアーノ、も。)
「やだ、どうしましょう。ハル君が女の子を連れてくるんですって。アキ〜、アキ〜。」
「はい〜、ただいま。」
急ぎアキがハースの元にやってくる。
「どうされましたか、奥様」
「ハル君が、ハル君がね、女の子を今からこの屋敷に連れてくるんですって。」
「ハル様が?女性を?まさか・・・」
「たぶん」
「まぁ。だから、最近ちょくちょくお出かけになられていたのですね。」
ハースとアキは、“ニヤリ“と薄笑いを浮かべて、
「キャ〜、お祝いよ、お祝い〜!」
「何事ですかな?」
「お祝いだってさ。まぁ、俺は飲めれば何でもいいよ。」
「旦那様〜。」
薄目をアルに向けたゼノンは、そのまま言い放った。
「はい、チェックメイトです。」
「そ、それ待った〜。」




