決別(5)
「仲間まで巻き添えにするなんて、随分酷いことをするんですね。」
ハルは、ダンが両手を天に向けた時点で、何か高位の攻撃魔法が来ると判断し、咄嗟に自身とシルビに防御結界を張った。そして、“炎球“の炎圧を利用して、茂みの中に移動していた。防御結界は、あらかじめ伝えておかない限り、結界内にいることはわからないため、シルビは完全に“ヤラレタ“と思った。ハルは、茂みの中に移動した際、シルビに“闇眠“もかけてた。
「シルビだけでなく、周りにいた、おそらくは、監視の人?まで。本当に、仲間をなんだと思っているんですか。」
そう言って、茂みの中から近づいてくるハル。その姿を見て、ダンは一種の恐怖を覚えた。
(なんなんだ、コイツは。なんで、俺の“炎球“を喰らって平気でいるんだ?なんで生きてんだよ⁉︎)
「さて、あなたには、色々と教えていただきたいので。覚悟してください。」
そう言って、ハルは、ダンの目を見つめ、“魅了“を施した。当然、ダンには、“対魅了“の術が施されていた。しかし、ハルは、フィオレッティが行ったように、“対魅了“をものともしない高位かつ独自の魅了を施した。
「では、まずは、あなた方は何をしにパンズールにきたのですか?」
「それは、先の獣魔騒動の調査だよ。」
(お、俺は何を喋ってるんだ?勝手に口が・・・)
「それは、表向きですよね?本当の理由を教えてください。」
「あぁ、いいとも。先の獣魔騒動に関する調査をしている“君“の邪魔をするのが本当の目的。なんなら、その邪魔をするついでに、君を亡き者にしよう、とね。」
(なんだ、勝手に口が動いてる。違う、違うぞ!)
「そうですか。」
それからハルは、
・なぜ自分を狙うのか。
・先の獣魔騒動にイントリーニアは関わっているのか。
・なぜ、ダンはパンズール王国の“王会“にいたのか。
について、問いただした。
そもそも、ハルを狙うのは、先の獣魔の件で、獣魔を討ったから。そのことが、イントリーニアの計画遂行において、『障害』になると、イントリーニアの上層部が判断したから。
当然、先の獣魔騒動にイントリーニアは関わっている。関わっている、というより、そもそも、パンズール王国の“前巡礼“に獣魔を仕向けたのが他ならぬイントリーニアの勇者なのだ。勇者には、獣魔を使役できるスキル“獣使 (ビースト・テイマー)“を持ったものがいる。今現在も、“本巡礼“を襲わせるために、新たな獣魔を使役すべく動いている、という。
そして、ダンは、イントリーニア上層部の命を受けて、パンズール王国の内情を探るべく、王会に潜入していた。ダンも勇者の一人だが、イントリーニアの“勇者“とは、特殊儀式を行い、“特別なスキル“を授けられた者のことを言うのだそうだ。もちろん誰にでも授けられるわけではなく、もともとそう言う素質を持った者が選ばれらしい。ダンやシルビは隠密系のスキルが授けられたらしい。それには“暗殺“に関するものも含まれる。他に、テイマーや剣術系、魔術系もあるらしい。現在、勇者と呼ばれる者は10名。
また、勇者ほどのスキルはないが、隠密に特化したスキル持ちの者が他にも存在する。イントリーニアは、その者たちをパンズール王国のあらゆる部分に、間者として潜り込ませてる。その数は、ダンさえも知らないほどの数、だという。以前、ハルが看破した間者もそのうちの一人。間者は一庶民から、ギルドや師団、術連、貴族関係者、さらには王家の中にまで、その潜伏範囲は広がっているという。ただし、誰が間者なのかは、間者同士も知らない、という。そして、そういった間者たちから、さまざま情報がイントリーニアの上層部に流れているのだという。
話を聞いたハルは、驚愕した。そして、呆れた。自分の知らないところで、いや、自分だけではなく、王国関係者の知らないところで、王国に関係のない者に監視されていたとは。そして、重要な『何かしらの情報』が他国に漏れていたとは。と、同時に、“得も言われぬ怒り“を覚えた。
「なぜ、そこまでして、パンズール王国を調べているの?」
「そりゃ、この国を乗っ取るからに決まっているだろ?」
「なんだって⁉︎この国を乗っ取る?」
「あぁ、そうさ。だから、貴族や王家の中に“色々な“間者を潜り込ませ、裏から操っているのさ。詳しくは知らねぇけど相当深部まで入っていると思うぜ。」
「じゃぁ、巡礼を襲うのも?」
「あぁ、次期国王候補もだが、現女王の命も狙っているらしいぜ?」
「さっき、師団や王家にも、って言ってたけど、師団の上官や王家側近にもいるってこと?」
「詳しくはわからんが、多分な。」
何ということだ。こんな状況、ロッドウェルやヒューズラントたちは気づいているのだろうか?父や母は?ゼノ爺たちは?みんなどこまで気づいているのだろうか?というか、このことをどこまで伝える?誰に伝える?アレスタだけでいいのか?そもそも王家の側近にもいる可能性がある以上、安易に側近を通じて伝えるのも危険が伴う。話の内容を整理しながら、ふと、ダンを見る。少しに気になったので、声をかける。
(俺は、なんで、こんな重要なことをペラペラと喋っている?なぜ、勝手に喋っている?意識はあるのに、勝手に口が動いて喋っている。どう言うことだ?)
「えぇっと、今、なぜ喋っているのか不思議に思っているでしょ?多分、意識はまともなんですよね?でも、勝手に口が動いて、本当のこと喋っている。驚いたでしょ?これ、そういう“魅了“なんですよ。これ、僕のオリジナルです。」
(“魅了“だと?意識はあるのに、勝手に口が動いて本当のことを喋る、だぁ?聞いたことがねぇぞ、そんな“魅了“)
「最後にもう一つ。なぜ、姉さんまで狙うの?」
「姉さん?あぁ、フィレスのことかい?上からの命令だよ。最終ターゲットだから、見つけた場合のみ、動向を探れだってさ。理由はわからんし、生かしておくか、始末するか、どうするのかも俺らは知らされていねぇ。」
「じゃぁ、なんで、“お前“は、姉さんを始末すると?動向を探るだけ、じゃないの?」
「あぁ、“君“を始末するついでに、と思っただけさ。」
「ついで?」
「あぁ、ついでに、だよ。動向を探るだけじゃぁ、つまんねぇだろ?」
「シルビも同じ意見、なの?」
「シルビ?いいや、あいつは、反対してたよ。今回はあくまでも“君“一人だ、って。なんなら、“君“を始末することさえ躊躇してたくらいさ。ったく、臆病者は困るよね。」
「だから、巻き添えにしたんだね?」
「まぁね。このブライラの大樹海では、何が起こるかわかんねぇし、何が起こっても不思議じゃぁねぇ、そうだろ?」
「なるほどね。と言うことは、それは、“お前“にも言えること、だよね?」
「あぁ、そうだとも。」
(何?コイツ、俺を始末する気か?)
「安心して。僕は“お前“を始末する気はないから。他に、“お前“の知っていることで、話していないことはない?」
「そうだな、これで全部、かな?」
(俺のこと、始末する気はないのか。なら、何が目的だ?)
「そう。ありがとう。色々教えてくれて。」
「どういたしまして。」
「じゃぁ、場所、変えましょうか。」
と言って、ハルは、ダルと一緒に、別のある場所に転移した。




