決別(4)
突然声がしたので、シルビとダンは驚きながら周りをキョロキョロと見まわした。しかし、声の主は見当たらない。二人は警戒体勢を取る。
「ねぇ、今の話。どういうことなのか、詳しく教えてくれないかな。」
もう一度声がする。と、二人の背後にあたる茂みの中から、声の主が現れた。シルビとダンは咄嗟に野営地の中央まで移動して距離をとった。
「誰だ?」
「あなた方が探していた者ですよ。」
「て、テメェ、門兵。いつから?」
「気づきませんでした?かなり前からいましたよ?」
「・・・」
「そもそもここは、我が国の野営地です。無断で入られると困ります。問題ですよ?まぁ、そこは目を瞑るとして。それで?僕を狙うのはわかります。でも・・・」
温和そうなに話していたハルの声音が変わった。
「なぜ、姉さんまで狙う?」
「それを知ってどうすんだ?オメェは、ここで始末されんだぞ?」
ハルの声音が戻った。
「あの〜、質問しているのは僕の方なんですが。それに、僕の気配にさえ気づけないあなた方が、僕を始末できるとでも?」
「けっ、少し気を抜いていただけだ。門兵ごとき、屁でもねぇ。」
と言って、男の方が仕掛けてきた。
(こういう状況で“気を抜く“こと自体、論外。刺客として失格ですよ。)
「・・・」
ダンが火魔法による攻撃を仕掛ける。それをハルはなぜか風魔法の防御で躱わす。どちらかといえば、風魔法は火魔法に対して“防御“という点では相性は良くない。それでも、ダンの火魔法を躱せているのは、生活魔法レベルの風魔法に、闇属性を纏わせているから。“攻撃“という点では心許ないが、“防御“、特に相手の攻撃を“躱わす“という点では、有効な組み合わせになっている。ハルは、しばらく、攻撃を受け流しつつ、ダンの攻撃特性を見定めていた。
「なんだ?減らず口を叩いてた割に避けてばっかりだなぁ。なら、これはどうだ?躱せるか〜。」
そう言って、ダンは複数の攻撃魔法を四方から仕掛けてきた。それも詠唱もなく、同時に。これは、相当レベルの高い攻撃で、ダンが自信満々にハルを屠る、と言ったのも頷ける。しかし。ハルは、自身の後ろと両側にも同じ風魔法による防御を展開することで、ダンの四方からの攻撃を防いで見せた。
「て、テメェ、姑息なことを。おい、シルビ!何ボ〜っと突っ立てやがんだ。手伝え!」
とシルビに向かって声を張り上げる。が、シルビはその場を一歩も動かない。いや、動けないでいる。
「無理だよ、彼女には“拘束“をかけてる。だから動けないよ?」
「な、何?」
ハルの声に一度ハルの方を見たダンは、もう一度シルビを見る。シルビは、冷や汗を流しながら、何度も首を縦に振っていた。
「テメェ、いつの間に!」
「あなたが最初に攻撃してきた時、にね。とりあえず、首だけは動かせるようにしてあるけど。あ、声も出せないから、会話はできないよ。こっちの会話は聞こえているだろうけど。」
「て、テメェ。いい度胸してんじゃねぇか。門兵のくせに。」
「さっきから、門兵門兵って、門兵を馬鹿にしてませんか?これでも、僕、門兵に誇りを持っているんですが。」
「へ、門兵は門兵だろが。門の入り口に突っ立てりゃ〜、いいんだよ。」
ダンは立て続けに四方からの連続攻撃を仕掛ける。
(ダメだわ、桁が違いすぎる。ダンのあの火魔法の連続攻撃をあぁも簡単に躱わすなんて。“術師会“の中でも、あの連続攻撃を躱せる者は一握り。私だってあの連続攻撃は躱せない。学園にいた時よりはるかに強くなっている。)
火魔法の連続攻撃を仕掛けるダン、それを躱しながらダンの力量を推し量るハル。なかなか均衡が破れない状況が続く。このままでは埒が開かないと悟ったのか、ダンが変化をつける。
「なら、これでどうだ。」
と言って、ダンは、両手を天に向けて構え、何やら短く詠唱をしたかと思えば、徐に両手を下ろした。
「“炎球“」
ダンは、“炎球“を発動させるや否や、自分は後ろに飛び退き、茂みの中に隠れた。通常の火魔法攻撃は“ファイヤー“がつくが、一部の高位攻撃には、“フレイム“と呼ばれるものがある。その一つ、“炎球“は、攻撃対象を中心として、約500m四方を焼き尽くす爆炎の範囲攻撃魔法である。
ハルのいた茂みの周辺はもちろん、シルビが動けずにいたあたりまで炎に包まれ、炎が消えた頃には、二人の姿は見当たらなかった。
「シルビには悪いが、“想い人“と一緒なら許してくれんだろうよ。まぁ、少し残念だが。仕方ねぇか。」
そう言って、茂みの中からダンは出てきて、二人がいたと思われるあたりを確認し、“ふ〜っ“と一つ息を吐いた。と、その瞬間、体が硬直し、動けなくなった。
(な、何?か、体がうごかねぇ。ていうか、動かせねぇ。声も出せねぇ。)
そして、茂みの中から“あの“声が聞こえてきた。




