隔意
誘ってみたものの、何を聞こう。
誘ってみたものの、何から話そう。
誘いを受けたものの、何から話そう。
誘いを受けたものの、何を聞こう。
川の辺りに降りてから、しばらくの間沈黙が続いた。
最初に口を開いたのは、誘われた形のシルビの方だった。
「あの〜、何か話があったのかな?それで、ここにきたんだよね?まさか、こうして黙って、ただ川の流れを一緒に見てるだけ、なんてことはないよね?」
「う、うん、ごめんね。その、ただ、気づいたら、誘ってた、というか、なんていうか。」
(マジで、この人、何も考えてなかったんだ。)
「そう言うところ、昔と変わってないんだね。」
「そう、かな?」
「えぇ、模擬戦や迷宮攻略とかだと、ほんと頼りになるのに、普段はめっぽう・・・。」
「なんか、人と関わるの苦手で・・・。」
「それでまぁ、よくも私を誘ってくれたわね、ちょっと期待しちゃったじゃない。」
「き、期待って、な、何を?」
「冗談よ、冗談。で、アンタ、今は何してるのよ。」
(まぁ、知っているけど、社交辞令よね。)
「うん、今は、王都で門兵している。」
「門兵?アンタが?なんでまた。てっきり、術連?だっけ、なんかそんなのあったわよね、術師なら誰もが憧れるところ。アンタなら余裕で入れたでしょうに。」
「まぁ、元々門兵になるのが夢だったからね。そういう、シルビアーノは?そもそも、今までどこで何してたの?学園、突然辞めちゃうし・・・。」
(まぁ、そうくるわよね。)
「そうね、いろいろあってね。」
それから、シルビ、シルビアーノは、王立学園を去るきっかけとなった事件について話してくれた。
シルビアーノの話によると、内容はこうだ。
当時、シルビアーノの父:アルバイン・ロゼリアール伯爵は、パンズール王国の最南部を統治していた。ロゼリアール伯爵領は、土地的には、東に海、南にストロッキー山脈、西側にカメリアール伯爵領との領境になる、ストロッキー山脈を源とする“ヘモリ川“に囲まれた、パンズール王国でもっとも土地面積が小さく、領民の数も1万人にも満たない、とても小さな領だった。
しかし、この小さな伯爵領は、パンズール王国にとっては、もっとも重要な領の一つでもあった。それは、内政的にはもちろん、対外的にも、である。理由は、“鉱物資源“。ストロッキー山脈は鉱物資源が豊富なのである。採掘される鉱物は、主にミスリル鉱石。そもそもストロッキー山脈は、約5000m級の山々が延々と連なる広大な山脈で、ロゼリアール、カメリアール、ローテスアールの3つの領地に跨って続いている。そして、元々、全ての山が火山であったが、現在は、ロゼリアール伯爵領に面したところのみ火山活動が残っている。そのため、鉱物採掘ができるのも、ロゼリアール伯爵領のみなのである。なお、カメリアール伯爵領およびローテスアール伯爵領内には、ストロッキー山脈の麓を入り口とした迷宮が存在している。
ちなみに、ストロッキー山脈は、パンズール王国と神聖国イントリーニアの国境沿いに位置しているが、“鉱物資源“が採掘できるのは、実は、ロゼリアール領のところのみ。つまり、イントリーニア側では、鉱物資源が採掘できない。また、迷宮においてもイントリーニア側には出現していない。
そして、事件というのは、“横領“。内容は、ストロッキー山脈で採掘した資源の採掘量の改ざんと資源の横流し。資源の横流しで得た資金を自らの懐に入れていた、というものである。直接手を下していたのが、ロゼリアール伯爵、ということで、その責を問われる形で、伯爵の地位を剥奪され、家族ともども“国外追放“となった。ただし、当のロゼリアール伯爵は、“横領“は事実無根であり、誰かに嵌められた、と終始“無実“を訴えていたが、聞き入れられることはなく、裁断が下された。その後、ロゼリアール元伯爵家の者は、神聖国イントリーニアに亡命し、そこで、一農夫として、生活を始めたらしい。しかし、アルバインは、慣れない農作業に心身が追いつかず、程なくして病に倒れ、帰らぬ人になった、とのこと。その後を追うように、シルビアーノの母もまた、帰らぬ人に。元々シルビアーノの母親は病弱で、二人の間には、シルビアーノしかいなかったようだ。執事やメイドは、亡命時に手放すことになり、親子三人で暮らしていたとのこと。
「まぁ、私一人になってからは、そうね、幸い、王立学園に入学できる程度の魔術が使えたから、イントリーニアの“術師会“というところに、特例で入れたってわけ。まぁ、私が何かをしたわけではない、というのもあるけど。それで、今に至るの。隠しても仕方ないから話すけど、さっきの領都から歩いてきた、っていうのは嘘よ。そこの屋敷、イントリーニアの屋敷にいるわ。先の獣魔騒動、あなたが仕留めたんでしょ?イントリーニアも、“大樹:ブラパ“への巡路があることは知っているわよね?なので、我が国も、その影響調査に、ね。」
(嘘は言っていない。ただ、“最終目的“を伝えていない、だけ。)
「そうか、ごめん。そういう事情があったなんて、知らなかった。でも、父さんから聞いてるけど、あのお屋敷には、勇者が二人、そのうち女性は確か、“シルビさん“という名前だったと。」
「そうよ、そのシルビが私。イントリーニアに亡命した時に名前を変えてるのよ。ロゼリアールもその時に捨てさせられたの。で、あなたはなんで、こんなところまで?」
「うん、僕も、先の獣魔騒動についてね。なぜ、あんな獣魔がこのあたりに出たのか、僕なりに調べているんだけど、さっぱりわからなくてね。」
「それで、考え込んでいたら、ここまできた、と?」
「うん。」
(まぁ、ハルも嘘は言っていないようね。学園にいた時も、そんなことあったものね。でも、何か隠しているようだけど。)
「ねぇ、ハル。ちなみに、その調査って、“ブライラの大樹海“に入ったりするんでしょ?」
「うん、まぁね。特にハイスパイダルに襲撃された第四野営地あたりを重点的に調べているんだけど、全くわからなくて。そもそも、どこから来たのかさえ、わからないんだ。参っちゃうよね。」
「実は、私たちも、王国が獣魔に襲われたっていうから、イントリーニアの巡路を警戒も含めて調査しているんだけど、特に変わったところがなくてね。そっか、ハルの方がそんな状況では、私たちの方も、当然わかるわけないわね。はぁ、どう報告しようかしら。」
「そうか、国の命で調査しているのなら、何かしらの報告は必要だよね。僕の方は、個人的な調査だから。」
その後、しばらくは、学園時代の話で盛り上がった。気づくと、4の時を知らせる鐘が鳴り響いた。
「うわ、もうこんな時間。ごめんねこんな時間まで付き合わせちゃって。」
「いいわよ、久しぶりに昔馴染みに会えたんだから。楽しかったわよ、話ができて。」
「僕もだよ。また、会えるかな?」
「そうね、会えるといいわね。」
「そうだね、それじゃ、また。」
「うん、また。」
(次にあった時、私は、あなたを・・・。できれば、会いたくな、ううん。さ、屋敷に戻ろう。)
ハルと別れて川の辺りから道に戻り、屋敷に向かい歩き始めたシルビ。ふと歩みを止め、何の気も無しに振り返ると、ハルとは違う人影を目に留める。
「あの人は⁉︎“最終ターゲット(ハルのお姉さん)“⁉︎」




