旧交
コンコン。
「どうぞ。」
「失礼します。殿下、術師:ハルテイラ・ラズベール様がお見えになりました。」
「わかりました、お通しして。」
「はっ。」
ロッドウェルの執務室から急ぎ王女宮へ向かい、警護兵に訪問の趣旨を伝えたところ、すんなりと案内してくれた。
部屋へ入るなり、ハルは片膝をつき、頭を垂れる。
「術師:ハルテイラ・ラズベール、頭を上げよ。」
第二王女アレスタ・パンズールが声をかける。
「久しぶりですね、ハル。お元気そうで何よりです。それに、此度の件、ご苦労様でした。」
「もったいないお言葉。殿下におかれましても、お変わりなく、大変嬉しく存じます。」
「まぁ、堅苦しい挨拶はこれくらいにして。場所を変えましょうか。」
と言って、アレスタがデッキにハルを促す。
「はぁ〜、疲れた。もういいでしょ?」
デッキについて、椅子に座るなり、そう言って執事を見る。言われた執事も、苦笑いを浮かべつつ、
「えぇ、よろしいかと。」
と返す。
「ミサ、お茶の準備を。」
「かしこまりました。」
「何、ボ〜っと突っ立ってるの?座っていいわよ。」
その間のやり取りを見つつ、どうしたものかと思案していたハルに、アレスタが笑顔で声をかける。
「あ、はい。失礼します。」
「だから、もうそんな堅苦しい言い方はしないの。昔みたいに話ましょ?」
「はぁ、とは言っても・・・。」
「もう、相変わらずね。では、これは命令よ。堅苦しい言い方はしない、私のこともこの場ではアレスタと呼びなさい。いいわね?」
「わかりました。」
「それにしても、相変わらず、ハルってすごいのね。聞いたわよ。とんでもないモンスターをやっつけちゃったんだって?」
「やっつけったっていうか、僕一人じゃなく、みんなで、ね。」
「そう言うところもハルらしいわね。それに、怪しい間者も見つけたって言うし。昔馴染みの子にそういうすごい子がいると、なんか嬉しくなっちゃうわね。」
「そう言ってもらえると、僕も嬉しいよ。」
「シルースも負けてられないって、張り切ってたわよ。」
「シルースが?そうか、シルースも頑張っているんだね。」
「えぇ、あの子も今では、第二師団の一等騎師なのよねぇ。」
「一等騎師か。すごいな。」
「まぁ、これも、学園時代にあなたやドラ、サラに出会ったことが、幸運だったわね。あなたたちのこと、とても楽しそうに話してたもの。」
「そう言ってもらえると。そういえば、姉さんも、アレスタさんのこと、とても楽しそうに話してたよ。」
「本当に?悪口ばっかりじゃない?」
「まぁ、たまに、こぼしたりしてたね、そういえば。」
「やっぱり。まぁ、私も、結構、愚痴ってたわ、ね?ミサ。」
「はい、それはそれは、到底姫様とは思えないほどのお言葉、で。」
「あの頃は、窘めるのも一苦労なこともありましたな。」
と、ミサと呼ばれたメイドと執事が懐かしそうに笑った。
「いいじゃない、あの頃は私も若かったのよ」
と拗ね顔でアレスタが言う。
そんな光景を見ていると、アレスタに限らず、パンズール王家の和やかな家族関係が見て取れて、なんとも温かい気持ちに包まれる。
(なんとなく、我が家と同じだな。)
と、思いつつ、本題に入る。
「ところで、アレスタさん。」
「何?」
「僕が呼ばれた理由なんだけど。昔話をするため、とかじゃないよね?」
「そうそう。ちょっと、お願いがあったのよ。」
「お願い?」
「そう、公にはできないので、こうやって、来てもらったの。」
アレスタの表情が変わった。
「なんでしょう。」
「そうねぇ、簡単に言うと、私専属の密偵になって欲しいのよ。」
「密偵?」
「えぇ。これからのことを考えると、表だけではなくて、裏のことも知る必要があるでしょ?というか、これからは裏の方が大事だと思うのよね。そう言う部分はやはり信頼のおける密偵が必要でしょ?それをあなたにお願いしたいの。」
「・・・。」
ハルは思案しながら、アレスタを見る。
「もちろん、無理を承知、で。」
アレスタの瞳は真剣そのもので、それまで戯言を言って楽しんでいたアレスタではなく、次期女王:王太女としての決意が感じられた。
「わかりました。謹んでお受けいたします。」
「よかった〜。ありがとう、ハル。」
「いいえ。それで、まずは何から?」
「えぇ。まずは、巡礼の儀までの間、巡礼路の周辺調査を極秘に行って欲しいのよ。そのために、ハルには、1か月の休暇を与えるわ。名目は、前巡礼でのモンスター討伐の功労、と言うことでね。」
「それって、巡礼の儀は予定通り行う、と言うこと?」
「えぇ、そうよ。まだ正式決定していないけど、そのように、お母様、女王陛下に進言するつもりよ。」
アレスタの決意。その想いを慮り、ハルも改めて、事にあたることを決意する。
「わかりました。でも、今日、僕がここに来たことで、何か不都合なことでも起きるのでは?」
「それは、大丈夫。そろそろ来ると思うんだけど・・・。」
と、突然デッキのドアが勢いよく開いた。
「姉様、遅くなりました〜。」
「シルース?」
「ヤッホ〜、ハル。久しぶり〜。元気してた?ていうか、あんた相変わらず、早いわね。」
「ちょっと、シルース、はしたないですよ?」
「あは、ごめんなさい。ちょっと嬉しくって。」
「わかりますけど。と言うことで、今日は、ちょっとした同窓会、ということになっています。」
「なるほど、わかりました。」
「ん?何?」
「いいえ、なんでも。さ、始めましょうか?ミサ、お願い。」
それからしばらくは、アレスタ主催の王立学園同窓会が開かれた。名目は、アレスタの気まぐれによる同窓会。 そこに、王立学園時代の後輩でもあるシルースと、シルースの同級のハルを招待。アレスタにとっては、後輩ではあるが、学園時の迷宮攻略のメンバーでもある。そのメンバーも、王都にいるのはハルのみ。よって、この場には3名のみ、と言う筋書き。なんら不自然なことはない。もちろん、ハルがアレスタの密偵になったことをシルースは知らない。
(密偵になったことは、かあさんたちには言えないな。もちろん、姉さんにも。まぁ、かあさんには気づかれるだろうけど。)




