把握
ミゼル他負傷者はその日のうちに王都へ帰還。その他のものは、翌日王都へ帰還した。ハルは、無事であることを母にその姿を見せることで伝え、特に言葉を交わすことなく、王都へ戻った。フィレスもまた、言葉を交わすことなく、ハルとも別行動で王都へ戻った。本当であれば、家族として無事を祝いたかったが、いわゆる“公務“の最中であるため、それは控えた。そのことは、父母も承知しているため、元気な姿を見れただけで“好し“としている。むしろ、そのような行動をとった娘・息子を誇らしく思っている。
王都に帰着後、前巡礼に参加した術師は、“事後療養“と言うことで術院に入った。
ただし、ハルは帰着後すぐに呼び出された。
「すまないね、ハル。それより、どうですか、体調の方は?」
ロッドウェルが口を開いた。
「はい、僕は何ともありません。」
「そうですか、それはよかった。」
「それで、なんなのでしょうか?」
「うん、帰着後すぐで、申し訳ないのですが、私たちと一緒に“王会“に出てもらいたいのです。今回のことで、ハルの意見も聞きたい、と。」
「“王会“、ですか。なんか怖そうな感じがしますが・・・。」
「それは大丈夫よ、そんな固くならないでちょうだい。あたしたちもいるんだし。ねぇ?ロッドウェルちゃん。」
「・・・」
ロッドウェルがヒューズラントを無言で睨む。
「何よ。それに、ゼノンさんもいるわよ?」
「ゼノ爺が?」
「えぇ、ゼノンさんからも情報をいただいているので。」
気を取り直したロッドウェルが教えてくれた。
「だから、安心してちょうだい。」
「わかりました。それで、その“王会“はいつですか?」
「これからよ。はい、行くわよ。」
と言って、ヒューズラントとロッドウェルが、ソファーから立ち上がった。
「え、えぇ〜?こ、これから?心の準備が〜。」
「何、ガキンチョみたいなこと言ってるの。行くわよ!」
と襟裏を掴まれ、引きづられるように、部屋をでた。
“王会“とは、“王国会議“のことで、女王陛下を筆頭に、王族、王都を仕切る貴族、各領を治める貴族、師団幹部、術連幹部、さらには商業ギルド長や三大薬士までもが集い、王国の重要課題を諮る特別会議のことである。その場にいま、ハルは立っている。
(なに、この錚々たるメンバーは。完全に場違いだよね。というか、何か、罪人みたいだな、僕。)
さすがに、最初は緊張していたが、その場に、ゼノンやロッドウェル、ヒューズラントの他にも、グフタスやいく人かの見知った顔があったのが、せめてもの慰み。徐々に落ち着きを取り戻せることができた。
本会議の議題は、当然“前巡礼“。獣魔との対峙において、巡礼路のどの辺りで対峙したのか。獣魔の種類は何か。どのように対処したのか、など、事細かに聴取された。グフタスをはじめ、ハルや数人の術師が記憶の限り詳細に報告した。
「今までの報告、どう思う?術連長。」
議長を務めるユシリス・オリン・マーエン公爵が一連の報告を受けて、現・術連長のダリエルに話を向ける。
「そうですね、確かに、ブライラのあのあたりで確認できている獣魔ではありません。我々人族が踏み入ることが可能な地域を超えた場所に住まうモノです。それが、人族の住まう場所近くに出没、となると、これは由々しき事態、と考えて良いでしょう。」
「と言うと・・・」
「過去に幾度となく、獣魔によるスタンピードが起きています。直近では、確か5百年程前。」
「まさか、それが今回起きると。」
「いえ、それはまだわかりかねます。ただ、周期的には、可能性は低くないかと。」
その場がざわつきはじめた。
「静粛に、諸君。さて、もう一つ、ゼノンワルド。そなたの情報を聞かせてくれぬか。」
ゼノンは、ハイスパイダルに襲撃を受けた第4野営地の周辺で、
・怪しい“影“を2つ確認したこと。
・その“影“は獣魔の類ではなく、むしろ“人型“に近かったこと。
・正体を探るべく追跡したが、取り逃してしまったこと。
・結果、その正体は解らずじまいであること。
これらを報告した。その時、ある子爵が怒声を上げた。
「キサマ!取り逃すとは何事だ!そこで捕まえておれば、今後も易かろうに。何という失態。しかも部外者であろう。この責任、どうとるんだ!」
ゼノンは目を閉じ、グッと歯を噛み締めた。ゼノン的にも、取り逃したこと、せめてその正体が、人族なのか、獣魔なのか、あるいは・・・、をつかめていればと、忸怩たる思いはあった。そこを突かれ、返す言葉も見つからない。そんなゼノンの姿を初めてみるハルは、何とも言えない複雑な感情を覚えた。
この会議には、王国の主要卿も参加している。怒声を上げたのは、ハイマシー公爵を寄親とする“軍備卿“のボスベール侯爵。
「軍備卿、お気持ちはわかるが、この場はその責を問う場ではない。むしろ、その情報があるだけでも優位ではないですか?よくその情報を掴んでくれました。感謝いたします。ゼノンさん。」
師団総統のグランデル・オリン・マーエンが侯爵を窘めた。兵団は軍備卿配下であるが、師団は王家直属のため、立ち位置的には、軍備卿と師団総統は同位に位置付けられる。さらに、ボスベール侯爵の寄親であるハイマシー公爵家と議長や師団総統のマーエン公爵家はいわばライバル関係にある。ボスベール侯爵は“チッ“と舌打ちし一旦は矛を収めた。少しは救われたのだろう、ゼノンは、師団総統に深く頭を下げた。
ここで議長が再度ダリエル術連長に話をふる。
「今の話を聞いて、術連長。何か思うところはないか?」
「はい、まだ、推測の域を脱していませんが、おそらくは、その“影“が今回の獣魔騒動に関係しているかと。そして、その“影“の背後には巨大な何かがあると。」
「それは、組織的な?」
「はい、それも“国家“レベルの。」
「“国家“レベル?」
「一体、それはどこの国か?」
経済卿の一人、ルーテク侯爵が問いただす。
「いいえ、国と決まったわけではありません。あくまでも“規模“の話です。一介の商会やギルドのような小さいレベルではない、と言うことです。」
その時、誰かがボソリと言葉をつぶやいた。術連長の言葉に、場が静寂に包まれていたため、その言葉は、小さかったが、確実に皆に聞こえた。
「魔人族」
言葉を吐いた者は慌てて手を横に振っていたが、周りにいた者は、ある伝え聞く事案を思い起こした。その事案は、あまりにも昔のことで、庶民の間では忘れ去られていることだが、王家及び王国の主要貴族では、今なお語り継がれている事案。その事案があったからこそ、パンズール王国は、こうして皆が知恵を絞り、意見を出し合い、協力して、国家運営を、政を進めてきたのである。
「その可能性が一番高い、か。」
それまで発言を控えていた副議長のカーサル・オキス・ハイマシー公爵が、苦虫を潰すかの如き表情を浮かべて、言葉を吐き出した。場が、再度静寂に包まれた。
(ところで、あの人は、誰?みんな気づいてないのかなぁ?)




