それぞれのその時(4)
そう言って、フィオレッティがテントの外に出て、他の“闇持ち“2人を呼びに行った。
ゼノン曰く、ハイスパイダルの毒への対処としては、光属性による“浄化“だけではなく、闇属性による“浄化“も必要なのだそうだ。今は、光属性による浄化と闇属性の解毒で命への干渉は除去できているが、完全に解毒ができていない状態のため、意識が戻っていないのだそうだ。ただし、“浄化“は光属性によるものが通常のため、闇属性に“浄化“を知る者がほとんどいないのが現状。さらに、闇属性による“浄化“の効用は、光属性によるそれの約半分。そのため、一人や二人の闇属性では効果が望めるべくもなく、闇属性持ちは多ければ多いほど良いのだそうだ。今この場にいる闇属性持ちは、ゼノン、アキ、ヒロ、イズ、ハル、フィオレッティ、その他二人の計8名いる。
「8人いれば、問題ないでしょう。ではみなさん、今から教える詠唱を心の中で唱えてください。そして、ハイスパイダルの血液をイメージして、最後に、“浄化“と発してください。」と言って、ゼノンは詠唱を伝えた。
「では、行きます。両の掌を彼女に向けて。詠唱!」
皆が詠唱を始めたのか、一瞬場が静まり返った。と思ったのち、全員が一斉に
「“浄化“!」
と声を発した。と同時の各自の手のひらから濃い紫色した煙のようなものが発生し、ミゼルに向かって流れ出した。そして、ミゼルの全身を包み込むように纏わりつきあたかもミゼルの体内に取り込まれるかのように、その煙は消えていった。そして、ミゼルが咽せて、赤い塊を吐出した。それまでやや青白かったミゼルの顔色に赤みが戻り、しばらくして、ミゼルが目を開けた。
「ここは?」
「ミゼル!」
珍しくアキが感情を露わにして、ミゼルに抱きついた。
「よかった、よかった。」
「えっ?アキ?アキなの?」
「うん、ほんと、よかった。ゼノン様、皆様、ありがとうございます。」
「えっと、私、どうして?確か獣魔と戦っていて、」
「もう、大丈夫です。まずはゆっくり休んでください。それと、少し水分も取って。アキ、あとは頼みましたよ。」
「はい、かしこまりました。ゼノン様。」
「では、他の皆様は外しましょうか。」
と言って、ミゼルとアキ、女術師のグランダを残して、他のものはテントの外にでた。
「術連長、本当にありがとうございました。」
「いえいえ、気になさらずに。それよりグフタス。これからが大変ですよ。この場での指揮官は、あなたになります。王国への報告も当然に。」
「はい、心得ています。」
「よろしい。では一つ耳に入れておきたいことがあります。」
「はい。」
「ハル様、申し訳ありませんが、グフタスと2人にさせていただきます。」
そう言って、ゼノンはグフタスと2人で別のテントに入っていった。
しばらくして、領兵団の一行が到着した。
領兵団は、怪我人の処置を行いつつ、食事の準備を始めた。
「父さん」
「ハル、無事だったか。」
「うん、僕は平気だよ。それより、ゼノ爺たちも駆けつけてくれたんだ。」
「らしいな、領都を出る時、ハースにあって、そう伝えられたよ。とにかく、お前が無事で何よりだ。で、団長は?」
「ゼノ爺と最奥の手前のテントにいる。もう一人の団長のミゼルさんが最奥のテントにいて、アキ姉が見ている。ハイスパイダルの毒にやられた。」
「ハイスパイダル?そのミゼルさんとやらは?」
「うん、ゼノ爺のおかげで、もう大丈夫だって。」
「そうか、なら安心だ。俺は、団長に話を聞いてくる。また、後でな。」
「うん、わかった。」
普段は、なんとも頼りなさそうに見えるが、さすが、もとS級冒険者のことはある。このような場では、醸し出される雰囲気が他の者とは全然違う。ハルは、領兵団や動ける術師たちのもとに行き、食事の準備に取り掛かった。
ハルがふと振り返ると、その人の姿を捉えた。暗がりではあったが、灯りの近くにいたため、確かにその人であることがわかった。
不安そうな表情をしていたのが見てとれたので、その人を見つめ、腰のあたりで力強く拳を握る。
(僕は大丈夫だよ、姉さん。)
その人、フィレスは、安堵したかのように表情が和らいだのを確認し、ハルも表情を和らげた。




