束の間の休息(6)
「おはようございます、フィレス様。」
「おはよう、アキ。さすがに、まだ眠いわね。ふわぁ〜。」
「はしたないですよ、お年頃のレディが。」
「ママ、おはよう。」
「はい、おはよう。アキ、例のもの、フィレスちゃんに差し上げて。」
「はい、かしこまりました。」
「例のって、えぇ?アレ?」
「そうよ、ア〜レ。眠気覚ましには一番よ?」
「いやだ〜、大丈夫。しっかり目覚めてますから、わた、ふわぁ〜。」
「はい、確定でございますね、フィレス様。どうぞ、お飲みくださいませ♡」
「うぅ〜、これ、飲まないとダメ〜?」
「はい、お飲みください♡」
フィレスは、鼻をつまんで、一気に飲み干した。
「うガァ〜、にっが〜、ママ、よく平気で飲めるわね。」
「あら、そう?その苦味がいいんじゃない。フィレスちゃんも、まだまだ、お子ちゃま、ね。」
「うぅ〜、それなら、“お子ちゃま“のままでいいわよ。」
「ほんとに?さっき、ハル君は、美味しそうに飲んでたわよ?」
「え?ハルが?一緒に“苦い〜“って言ってたのに?」
「ねぇ?アキ。」
「はい、先ほどは、2杯ほど、お飲みになっておられました。それも、美味しそうに。」
「えぇ〜、ハルの裏切り者め〜。」
「僕が、どうかした?」
「ひゃっ!」
「うん?」
「いいえ、ハル君ではなく、フィレスちゃんがね、まだまだお子ちゃまねって話。」
「ねぇ、ハル。ハルはこのお茶、飲めるの?」
「うん、久しぶりに飲んだけど、やっぱり、美味しいね、アキ姉の淹れてくれた“この“お茶は。もう一杯もらえる?」
と言っておかわりを頼み、アキも嬉しそうにカップを受け取った。
「いつから飲めるようになったの?前は、一緒に“にが〜“って、言ってたじゃない?」
「うん、門兵になってからだね。実は、遅番の休憩時に毎回、出るんだよね、このお茶。でもさ、その時のお茶、とんでもなく苦いの。ここで飲んでた時よりも全然苦くて。でも、飲まないとダメでしょ?なんとか、一杯は飲めるようになったんだけど。」
「う〜、そうなんだ〜。」
フィレスは、口先を尖らせ、納得のいかない様子で、少しハルを睨んだ。ハルはそんなフィレスのことは気にも止めずに、アキから受け取ったお茶を美味しそうに口にした。
「うん、やっぱり美味しい。」
「ほらねぇ?ハル君、大人になったじゃない。だから、フィレスちゃんも、頑張んないと、ね?」
「何か、淹れ方にコツでもあるの?アキ姉。全然、違うんだけど。」
「そうですねぇ、コツ、と言うほどではないんですが、一度茶葉全体をお湯で湿らせて、少し置いてから、ゆっくりお湯を注ぐ、と言う感じですかね。湿らせた時のお湯は、もったいないですが、捨ててしまいます。」
「それかぁ。遅番の時は、そういうことはしないで、お湯をざーって注いで、そのままみんなにササァって、配っているもんね。」
「であれば、そうですね。最初の湯通しの時に、苦味が出ますからね。」
「だとしたら、あの飲み方は仕方ないよね。お湯、というか、お水は遅番においては、貴重だから。」
「そうね。きっと、途中にある番小屋での休憩でしょ?それなら、仕方ないわね。貴重、というのもあるし、獣魔を寄せ付けちゃうものね。お茶の香りで。」
「うん、我慢だね。その代わり、ここに帰ってきた時は、アキ姉の淹れてくれた“この“お茶を堪能することにするよ。楽しみがまたひとつ、増えた。」
「それは、ありがたいことです、ハル様。」
そんなやりとりの間、フィレスはずぅ〜っと、仏頂面でいた。
「ほらね、フィレスちゃん。もしかして、師団で贅沢しすぎてるんじゃない?そういえば、フィレスちゃん、前より少しふっく・・・」
と、突然あらぬ方向にハースが話を振り出したので、フィレスは慌てて、
「えぇっと、ママ?余計なことは言わなくていいから。わかりました、わかりました。私も飲めるように精進します。」
そう宣言せざるを得なくなってしまった。
朝から、幸せそうな笑い声が居間に広がった。その時、居間の扉が静かに開いた。
「お待たせいたしました。朝食です。」
ヒロとイズが、朝食を運び込み、それぞれ、皿に盛り付けて、各自の前に並べていった。
「いただきます。」
久しぶりの家族揃っての朝食。それを優しい笑みで見つめる使用人たち。とはいえ、例のごとく、父はいないのだが・・・。




