束の間の休息(5)
「あらあら、フィレスちゃんね。どうしたの〜?ハル君なら、ここにいるわよ〜。」
「あっ、ママ〜。ママも一緒?」
「えぇ、そうよ。どうしたの?」
「だって、私、明日戻らなくちゃならないのに、ろくにハルと話してなかったから。」
「そうだったわね、じゃぁ、ママもここで失礼するわね。」
「えっ?いいわよ。一緒にお話ししましょう?」
「いいの?お邪魔じゃない?」
「ママはいいの。」
と言って、その場を離れようとしたハースの腕を掴んで、引き戻した。
「あら、嬉しい。で、どんなお話し?」
「うん。ねぇハル。明日、馬車乗り場まで、送って欲しいの。」
「うん、いいよ。」
「でね、ちょっと早めにここを出たいのよね。」
「うん、僕は全然構わないけど。」
「どうしたの?いつもはギリギリまで寝ているじゃない。大丈夫?」
「あっ、いや、あれは、ねぇ。う、うん。馬車の時間まで、領都のお店でちょっとお買い物がしたくて。」
「あら、珍しいわね。あ、そうか、師団のみんなへのお土産でしょ?」
「えっ?い、いや、そうではなくて。」
「あら、違うの?」
「う、うん。だって、ほら、ハル、“前巡礼“に行くんでしょ?だから、お守りっていうか、その〜。」
「まぁ、フィレスちゃんてば、優しいのね。ハル君の身を案じて、何か贈りたいんでしょ?」
「う、うん。」
「ありがとう、姉さん。」
「ほんとは、ほんとはね、王都でいいのを見つけてたんだけど、まさかこうなるとは思っていなかったから、買ってなかったの。」
「それなら、王都のそのお店の方がいいんじゃない?」
「それがね、その、鍔につけるものなんだけど、装飾の柄が、ここの柄だったの。ほら、特有の柄ってあるでしょ、それぞれの領に。」
「それなら、ラベンダルトのお店でも似たようなものがあるはずよね。」
「うん。それに、ハルはまだ、こっちにいるんでしょ。王都に戻ってからだと、次に会えるの、“前巡礼“の後になっちゃうから。」
「たしかにそうよね。だから明日なのね?その鍔につけるものって、どういうものなの?」
「えっと、こんくらいの大きさで、お星様の形をしていて、真ん中に、ものすごく細かくて綺麗な装飾が彫られていたの。」
「そう。」
ハースは少し思案して、言った。
「それなら、多分、あのお店に行けば、似たようなものがあると思うわよ?」
「ママ、心当たりがあるの?」
「うん、多分大丈夫だと思うわよ。」
「やった〜、ママありがとう。やっぱり、いてもらって正解だったわ。」
「ふふふ、そう言ってもらえて、ママも嬉しいわ。」
そうして、店の名前と場所を教えてもらい、少し、3人で話をしてから、それぞれ、自室に戻った。
(よかった、間に合って。ハルもハルよ、急すぎるわよ。“明日ラズベールの家に帰る“、だなんて。でも、しょうがないわよね、あれじゃ。でも、大丈夫かなぁ、無事に帰ってきてくれるかなぁ。ううん、ハルなら大丈夫よ。でも、あの“噂“が本当なら・・・。ううん、噂よ噂。仮に本当だったとしても、ハルなら大丈夫、大丈夫よ。うん、私が信じてあげなきゃ。うん、信じる。そして、寝る。)
(『ハル君、君なら大丈夫だと思うけど、たとえ、相手が誰であろうと、簡単に信じちゃダメよ。それは、“その人を“ではなく、“人の言葉を“っていうこと。必ず、あなたの目で見て、耳で聞いて、肌で感じて、判断しなさい。いいわね?』
うん、わかっているよ、かあさん。そこは絶対にブレない様にする。だから、安心して。僕は、この“前巡礼“を無事にやり遂げるから。)
その頃、王都にある建物の、とある一室。
「よいか、ぬかるなよ?」
「はい。」
「今回は、あくまでも、“あの“門兵たちの“力量“を見極めることが目的だ。何かあったとしても、多少のことは問題にならん。ただ、できれば、お前“たち“と我々の関係には気づかれたくはない。」
「はい、重々承知しております。」
リーダーらしき男が胸に手を当て、頭を垂れながらいった。
「この間は、しっかり尻尾を掴まれたからな。あの“くそガキ“どもが。」
男たちに指示を出している貴族らしき男が、“らしからぬ“物言いで言葉をこぼした。
「さっさと、始末しておきますか?」
リーダーらしき男の後ろにいた別の男が言葉を発した。
「いや、それはいい。今はまだ不要な“血“は流したくない。あの“お方“がそう言っているんだ。だから、お前たちも無理はするな。本番は“巡礼の儀“だからな。まずは、“前巡礼“の前の休暇。ゆっくり英気を養っておけ。」
「御意!」
二人の男が、部屋を出て行った後、貴族らしき男が再度こぼした。
「忌々しい、門兵ごときが・・・。」




