休日の買い物
さらに数日後。
「ごめん、待たせちゃったね。」
「ううん、僕もさっき来たところだから。」
「そう?ありがと。じゃぁ、いきましょうか。」
「うん。」
今日は、休日。久しぶりに、姉のフィレスと休日が同じ日になったので、一緒に街に出ることにした。姉のフィレスはパンズール王国兵団に所属し、兵団の中でも上位に属する近衛師団の一員である。
「欲しいのもがあるって?」
「そうなの、手入れ用の“ポンポン“が残り少なくなってきたのよね。」
「それじゃぁ、まずは、武具店だね。」
「うん、あと他にも行きたいお店がいくつかあるんだけど?」
「いいよ、今日は一日姉さんに付き合うよ。」
「ほんと?ありがとう。嬉しい。」
さっそく、いつもの武具店に入った。
「いらっしゃい。あら、フィレス、久しぶりじゃない?しかもハルと一緒だなんて。」
「お邪魔します、奥さん。」
「こんにちわ。」
「こんにちわ、ハルもずいぶん久しぶりよね?」
「はい。教えてもらった手入れ具、結構持ちが良くて。」
「でしょう?まぁ、うちにとっては、商売に繋がらないんだけど、ね。」
「今日は、ソード用の“ポンポン“が欲しくて。」
「“ポンポン“ね。フィレスのソード用なら、確か、こっちよ。はい、これ。」
「ありがとう。そういえば、奥さん、以前買ったガントレットがあるでしょ?あれの手入れって、何か特別に必要なのかしら?」
「あのガントレットね。特にないわよ。汚れを落として、陰干し程度ね。何か気になることでも?」
「えぇ、あまり大きな声では言えないんだけど、その、匂いが。」
「そうねぇ、それって宿命なのよねぇ。」
と言って、何やら、奥から持ってきた。
「ちょっと、これを試してご覧なさい。」
と手渡されたのは、ブーツに使う脱臭剤のようなものだが、何かが違う。
「これは?」
「香り袋よ。使い方は、まずは、ブーツ用の脱臭袋をガントレットに入れて日中一杯陰干しするでしょ?その後、夜間にこの香り袋を入れて、保管するの。ただし、香り袋を入れる際には、“あの匂い“が取れていることを確認してね。そうしないと、もっと悲惨な目に遭うから。」
「わ、わかりました。これ、おいくらですか?」
「いいわよ。その代わり、効果のほど、後で教えてね。そしたら、この香り袋も売り出そうと思うの。」
「これって、売り物ではないんですか?」
「そっ、お試し品。だからお代はいらないのよ。」
「わかりました。結果は必ずご報告します。」
「よろしくね。で、ハルは何真剣に覗き込んでるんだい?」
「ハル?何見てるの?」
「えっ?あっ、うん、この鍔なんだけど、すごい装飾が綺麗で、見惚れてたんだ。」
「へ〜、どれどれ。あぁ、この鍔だね。これ、全然売れないんだけどさ、そうかい、ハルには、綺麗に見えるんだね?」
「はい、何かヘンでしょうか?」
「いや、そうじゃぁないんだけどね。この手の鍔、誰も見向きもしないから。ましてや、“綺麗“という感想、誰も持たないよ。どうだい?ハルの痩身剣につけてみるかい?今なら、安くしとくよ?」
「そうですね〜。」
と話し込んでいる時、奥から店主が出てきた。
「よ〜、嬢ちゃん来てたのかい。久しぶりだねぇ。おっ、坊主もか。久しぶり。」
「こんにちわ。」
「こんにちわ。」
「あんた、ハルがね、この鍔、“綺麗“だって。だから、ハルの痩身剣につけてみればって話してたところさ。」
「鍔?あぁ、これか。へ〜、これに目をつけるとは、なかなかいい目してるじゃねぇか。」
「どう言う意味だい?」
「そうか、お前は知らないか。この鍔は“魔具“の一種でな。その辺の鍔とはちょっと違うのさ。」
「“魔具“ですか?」
「あぁ、ただ、どういう効果があるのかは、俺にもわからねぇんだがな。」
「えぇ?そういうものを出してて大丈夫なんですか?」
フィレスが当然の質問を投げる。
「あぁ、実は、作者は俺の兄貴でな。一応、“攻撃向上“が付与されるらしいんだが、持ち主によって、変わるらしくてな。だから、ああいう言い方になっちまうんだよ。なので、“モノ“としては、保証できるぜ?」
「そうですか。そう言われると、なんか試したくなりますね。」
「だろ?どうよ、買ってみねぇか?」
「マスター、商売上手ですね。おいくらですか?」
「国銀1枚、と言いたいところだが、こっちも効果試しと言うことで、持ってけ、やるよ。その代わり、ちゃんと効果を報告しろよ、坊主。」
「ありがとうございます、ちゃんとご報告します。それと、そろそろ、その“坊主“やめてもらえませんか?これでも一応、成人門兵なんですが?」
「そうか、そういえば、門兵だったな。わりぃわりぃ、これからはハルって呼ぶよ。」
「ありがとうございます!」
「すみません、マスター、奥さん。私たち二人で、いただいちゃって。」
「いいっていいって。その代わり、ちゃんと報告しろよ?」
「はい、わかりました。必ず。では。」
「おぅ、またな。」
目的のソード用“ポンポン“を購入し、店を後にする。
後日、フィレスは香り袋の効果を、ハルは鍔の効果をそれぞれ報告し、香り袋は店頭に並ぶようにな理、鍔には、効果の説明が付くようになった。香り袋は、女性剣士に人気がでて、ガントレット用の脱臭袋と一緒に売り出された。また、鍔は、痩身剣だけではなく、一部のソード用も作成されたのだが、売れ行きはソード用の方がいいらしい。
(まぁ、痩身剣自体、人気がないから、仕方ないよね。)
王国兵団と門兵は、仕事のサイクルが異なるため、なかなか同じ日に休日になることが無い。
そのため、ハルとフィレスは、普段は、それぞれで休日を過ごしているが、休日が同じ日になる場合は、近況報告を兼ねて会うことにしている。その際に、次回同じ日に休日となる日を確認して、予定を立てている。
仲の良い姉弟なのである。




