第6章 手掛かりと影の足音
保管区画の空気はひんやりと湿っていた。整然と並んだ棚の奥、クロエは手袋越しに鉄製の枠をなぞり、指先の感触にぴたりと止まった。
「……やっぱり。結界の干渉痕」
微かに焼け焦げたような魔力の痕跡が、壁に走っている。列車の標準術式じゃない。明らかに“外部の手”が加わっていた。
肩に乗るノアールが鼻をひくつかせる。
「妙な匂いが残っておる。ここを通ったのは、相当な術者だぞ」
「誰かが、列車の中から……?」
クロエの眉が寄る。答えはまだ出ない。だが、この痕跡が示すのは「犯人は単独じゃない」——ただそれだけだ。
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同じ頃、フィオナは客室の廊下を走っていた。
胸の奥にざわりと触れる、馴染みのある魔力の残響。——妹の気配。
まさか。そう思う心を振り払えず、足は勝手に前へと急く。
そこで、不意に響いた悲鳴。
視線を向けると、揺れで荷物棚が倒れかけ、下にいた子供をかばうように一人の青年が押し倒されていた。
「——!」
フィオナは迷わず駆け込み、杖を突き立てて簡易障壁を展開。金属の塊が床に落ちる直前で止まり、ぎしりと軋んだ。
「大丈夫?」
声をかけると、青年が痛む肩を押さえながら子供を庇っていた。
「……あっ、あなたは……」
どこかで見た顔。先ほど廊下で声をかけてきた“あの青年”だ。
子供が涙目で叫ぶ。
「このお兄ちゃんが、私を助けて……!」
「そうなの……」
フィオナは微笑みかける。
青年は一瞬戸惑い、そして口を開いた。
「僕はリヴァイ。……た、助かったよ。ありがとう」
その声音には、ほんの少し寂しさの色が混じっていた。
「フィオナよ。子供を助けてくれてかありがとう……
いたずらはほどほどにね」
軽く微笑んでそう告げると、すぐに真剣な顔つきに戻る。
「急ぐから」
それだけ言い残して、再び走り去っていった。
取り残されたリヴァイは、複雑な眼差しで彼女の背を見送る。
(……やっぱり、覚えてないか。でも、助けられてしまった……)
小さく息を吐くと、傍らで怯える子供に向き直り、落ち着いた声で言った。
「もう大丈夫。怖かったね」
その手は優しく震える肩を支えていた。
⸻
一方その頃、クロエとノアールは炉心区画へ向かっていた。
足跡、散らばる魔力粒子、壁に刻まれた干渉の痕——すべてが同じ方向を示している。
「やっぱりここに……」クロエが呟く。
「うむ。強い匂いがする」ノアールの声は低い。
炉心区画の前に立つと、結界膜が淡く震えていた。
「まだ……誰か、中にいる」
クロエは額に汗をにじませながら結界の縁に手をかける。
ノアールが短く促した。
「急げ、長くは持たん」
軋む音と共に扉がゆっくり開き始める。
その奥に潜む影を確かめるよりも先に、緊張が場を支配していた。




