008 水海老
この城はかなり広い。
リリィと3時間くらい歩き回ったがまだ半分も回っていなかったという。
途中でリリィが「疲れた〜」と言ったので肩車してやったりしながら会談室、王間、展望台などいろいろなところを回った。
今までインドアだったリリィは体力が少ないのか途中俺の背中で寝てしまったのでそのままおぶって部屋に帰るとシュリアスが
「…激しかったのだな」
と言ったのでとりあえず柱に縛り付けた。
下ネタしかいえねェのかお前は。
夕方に差し掛かり昼食を取っていなかったことに気づく。俺の背中の方でグゥーっとなったどうやらリリィが目を覚ましたようだ。リリィは眠そうな目であたりを見渡すと
「ごはん〜…」
と言ったので、そのまま背負って食事場に向かった。食事場近くまで来るとリリィが「ここからは自分で歩く」と言ったので下ろしたところいきなり胸を張って王女様らしく優雅に歩き出した。
メイドさんとすれ違い軽く会釈をしたところで成る程なと気付いた。威厳って大切。
もっともこの城の人はリリィに威厳は求めていないようだ。むしろ癒しを求めているみたいだ。
俺もリリィの後に続く。そしてシュリアス食事場に入ってくる。おまえよく縄抜けれたな。さすが元皇帝。
席に着くころには目を覚ましていたリリィと明日は何をするや今日の夜の事を話していると食事が運ばれてくる。
「おまたせしました。」
年配の表情が柔らかいメイドが食事を運んでくる。
年上の人が敬語を使ってくることは未だに慣れないが、リリィの方は「エルザさん!今晩は何ですか?」ときちんと敬語で返していた。
「今晩はリリシア様の好物の水海老のカシ(果物を原材料とした味噌のようなもの)煮ですよ。」
話を聞く限り、リリィとは付き合いが長いらしい。今後俺もお世話になるのだろう。名前は覚えておこう。
「リリィって水海老好きなの?」
水海老とはウィーグル大陸全土で獲れる海老の事だ。色は茶色に近く、割とマイナーな食材だ。特徴は苦い。とにかく苦い。それを好む者もいるらしいが、俺は割と苦手だったりする。
「エルザさんの作ってくれるカシと合うんだよ。」
とリリィは説明してくれる。カシって普通に作れるんだな。
と、そこで俺の隣に座っていたシュリアス(どうやって抜け出した?)が顔を真っ青にしていることに気づく。
「どうしたよ?」と小声で声をかけると、
「わ、わたしは実は水海老はあまり好まんのだ...」
と弱々しく言った。よし今度から嫌がらせで使うか。
※食べ物で遊んではいけません。
「大丈夫か?変えてもらうか?」と問いてみると。
「私とて元は皇帝...水海老位余裕...」
いやあの、汗にじんでますよ。でも本人が言っているのだ。そこはシュリアスに任せよう。
「では、冷める前にお召し上がりください。」というエルザさんの声とともに俺たちも声をそろえて「「いただきます」」と言うと食べ始める。
水海老…最後に食ったのは何年前だっけか…まぁ、俺だって舌は肥えた。苦味も美味しく感じるだろう。
恐る恐る一口食べてみる。
「苦くない…」
水海老の独特の苦味はどこへ行ったのか。
プリッとした海老に絡まったのは甘辛いカシ。果実の酸味とここまで合うとは…流石王家直属の料理人…
「おい、シュリアスこれはお前も好きなんじゃねぇか?」
と、隣に目をやるとなぜかシュリアスは泣いていた。
「うまい…感激…」
ポツリと呟くと思い出したかのように次々とシュリアスは食を進める。
「水海老は暑いところで捕れるので、使う前に一度カチカチに凍らせると苦味は消えるんですよ。」
とエルザさんが教えてくれる。一手間加えるとはまさにこの事なのだろう。
リリィも美味しそうに食べている。
「口の周りついてるぞ」
「へ?」
指摘してやるとリリィはポカンと声を漏らした。手元のナプキンで対面に座るリリィの口元を拭いてやる。
「むぐ…むぐ…あ。ハルわたし子供じゃないよ!」
エルザさんもいるから強がりたいのだろうかリリィはむすっと口を膨らませる。
「ひゅーひゅーお熱いですな。」
ちょっと黙っていようかシュリアスくん。
それを見てエルザさんも微笑ましそうに笑っている。
水海老。リリィの大好物で俺とシュリアスも好きになった。




