006 ウィーグル書館
シュリアスとあーだこーだ世間話をしていると身支度に行ったリリィが帰ってきた。
「おまたせ!」
「おかえ...え?」
リリィさん。本借りに行くんですよ?
何ですその前日のウエディングドレスにしかみえない服は。
「リリィ…すごい格好だね」
「はじめてのデートですからっ!」
そういや、この娘もお年頃なのだ。
俺たちは結婚してからというもの一度も城から出ていない。
西館に行くだけでも彼女にとっては大事な時間なのだ。
でも、デートでウエディングはないと思います。
「そうか、でもとりあえずドレスは脱ごうな。」
ごめん、ツッコミたい衝動が押さえられなった。
そう指摘すると彼女は顔を赤くし
「ぬ…ぬげだなんて!…は、ハルさんは変態ですっ!…あ、でもわたしたちは夫婦…そのくらいは…」
おいおい。ちょっと待て。あらぬ誤解が。
俺の肩に手が置かれる。
「ハル。」
シュリアスだった。
「優しくするんだぞ。」
もう黙れよ。
妄想を膨らませてはわはわ言ってる王女様。
かつて大陸全土を絶望のどん底にまで叩きつけた皇帝様。
そして、この大陸では恐らく勇者と呼んで良いであろう俺。
そんな生活に俺は少しは胸を躍らせていたのかもしれない。
「ここが西館への通りになりま〜す!」
流石にウエディングドレスにから装飾の少ないドレスに着替えたリリィがノリノリで案内してくれる。
ここに来るまでに15分かかったぞ。この城ってどんだけ広いんだよ。
しばらく通りを歩くと大きな建物が見えてくる。
ふもとまで来ると自然と顔が上を向いてしまう。
「ここの1階から15階までは書館になりますっ!」
15階って…
1階だけで多分一生かかっても読めねぇぞ。
「んなことよりリリィは本好きなの?」
俺はこの娘の事を全然知らない。少しずつでも俺はリリィの事が知りたい。
「んー。おとうさんが生きてたときは本当にすることがなかったからね。本を読むしかすることがなかったんだよ。」
「...」
俺は母親について聞こうと思った。
しかしそれは本当に聞いてもいいことなのか。
リリィはおそらく俺に隠し事なんてしないだろう。
そんなリリィが俺に話したがらないのだ。俺だって空気は読める。
「ハル。はやくっ!」
リリィは先に扉に手をかけ俺を催促する。
よほど書館が好きなのか彼女の顔には笑顔が浮かんでいる。
父親を幼くして失い、母親は長らく会っていないであろうこの娘は俺が守るべきなのだなと改めて俺は心に誓った。
「シュリアス行くぞ。」
「了解。」
もはや空気と化していたシュリアスを俺は思い出したかのように呼んだ。
俺たちはリリィの後に続く。
扉をくぐると、途端にひんやりとした冷気が流れ込んでくる。
本は湿気にめっぽうよわいらしいので空調には気を使っているらしい。
初夏が近くなってきたこの国は暑さが見え始めたためかまじめに読書を楽しむ者もいれば、涼みに来ただけなのか机に突っ伏す者や、ひそひそと雑談を楽しむ人たちもちらほらいる。
小さいころ俺はこういう書館の空気が嫌いだった。
幼い頃というのは怒られることに対して敏感で「こんなことをすれば怒られるんじゃないだろうか」と妄想を膨らませたものだ。
小さい子たちが数人いる書館だが、単純にすごいと思えてしまう。
「ハル。なんでぼーっとしてるの?」
名前を呼ばれてはっと我にかえる。
気がつけばあたりに人が集まり何やらひそひそと話している。
そりゃそうだ。なんつったって王女様がいるんだからな。
国の最高権力者がいればそりゃ野次馬だって集まるな。
「ごめん。でなんだい?」
「ハルはどんな本が読みたいのかなーって。私があんないするよ!」
リリィは得意げに胸を張る。
長年本なんて読んでいなかったため最近どんな本が流行っているのかなんて全く想像がつかない。
「そうだな...俺もリリィと似た本を読もうかな。案内、お願いするよ。」
「まかせて!」
そういって走り出したリリィを書館の係員が即座に注意する。
「リリシア様。公共の場ではあまりはしゃぎすぎませんように。」
あの人も城の人間なのか。
注意されたリリシアは人が多いことにも気づいたらしく背筋をぴんと伸ばし、ぎこちなく歩き出した。
顔が赤いですよ、王女様。




