022 酒場にて
結局夕食は酒場で済ませた。
時間が遅すぎたせいか、町自体は電飾などでかなり明るいのだが、ほとんどのお店は閉まっていた。
大陸の最高権力者を、酒場に連れて行くのは少しためらいがあったがリリィが「行きたい!」なんて言うものだから、とりあえず少しは警戒しながら入店した。――――<アイロー酒場>
「もう一回ですっ!!」
リリィは騒がしい店内に響くほどの大声を上げた。
テーブルを叩き、立ち上がったリリィの対面には酒で顔が真っ赤な大柄の男が座っている。
男は酒を一口グイッと煽ると
「ハッハッハッ!いや~快勝快勝!!嬢ちゃんは単調で分かりやすいなぁ!」
「次は!次は負けません!コツはつかめました!!」
「これで4度目だぜ!まぁ何回でもかかって来な!」
二人は盤上の駒を並べなおすと、今回5度目のチェスを始めた。
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「なにやってんだか…」
俺はため息を漏らしつつ、焼酎を一口含む。
隣でアイスコーヒーをストローで吸っていたシュリアスは笑いながら
「まぁ、リリシアも肝が据わっていたって事だろう」
「お前に始めて会った時もまったく物怖じしなかったしなぁ…」
「何を言うか…私の邪悪な雰囲気にあんなに恐れていたじゃないか」
「お前…」
夕食にサンドウィッチなどを適当に摘んだ俺たちは、すぐに帰ろうかと思ったがリリィが店奥でチェスを打っている男たちを見つけ、自分から飛び込んで言ったので俺たちは彼女が気が済むのを待っているわけだ。
に、してもシュリアスの言うとおりだ。
リリィの肝の座り方は誰に似たのか…おそらく前国王だろう。あいつはやばかった(顔見知り)
それに、王国から少し離れたこの地ではリリィのことを知っている人は少ないだろう。よっていつもの手加減もないし、酒場ともなればシュリアス並に弱いやつはいない訳で、現在もかなり劣勢らしい。苦い顔であたふためいている。
周りにいる男たちもそれを見て笑っている。どうやら楽しんでもらえてるみたいだ。
リリィの周りを癒す効果は未だ健在なのか、それとも見た目のわりにやわらかい人が多いのか、まぁ両方だろう。
それが現在のウィーグルのいい所でもあるのだし、これがリリィの治めている大陸なのだと考えると本当にいい国だなぁと思えてしまう。
「おまえ、この大陸征服としてたんだぞ…今どう思うよ?」
別に意味はないが酒での話し位は聞いてもらおう。
「どうって…まぁ逆に奪いたくなったものだ」
ほう。やっぱ意味あったわ。こいつも一遍とっちめてやろうか
睨み付けてやると
「冗談だ」
「笑えねぇよ、元皇帝」
「まぁ、私には作れないなぁとは思うが」
だろうよ。
シュリアスが、ウィーグルを征服していったい何をしたかったのかは知らんが、今のようにはならなかっただろう。俺ですら無理だ。と思ったが、俺は一応今この大陸の二番目の権力を持っているんでした。
「リリィってすげぇんだな…何もしてないけど」
「だな。何もしていないが」
一緒に起きて、一緒に食べて、一緒に遊んで、一緒に寝るだけの生活をしている俺が言うのもあれだが、本当にこれでいいのだろうか。
でも、城の人は「政治は任せてください!」というだけで、たまにリリィには印を押す仕事が回ってくるくらいだ。
最近はリリィの周りを和ませる力がちょっと怖いくらいだ。
「おい、にいちゃん。ちょっといいかぁ!」
リリィと対局していた男が離れたところから呼んできたので、何かと彼の方へ行くと
「寝ちまったみてぇだ」
ナイトの駒を握りしめ、リリィは机に突っ伏している。
「今日はもう連れ帰ってやんな」
「あぁ、遊んでくれてありがとな」
少し寝たとはいえ、子供にはきつかったようだ。壁に掛けられた時計に目をやると時刻は2時を回ったところだ。
「なぁに、俺達も珍しい体験が出来たってもんよぉ。まさかリリシア王女様と遊べるなんてよぉ!」
「え、知ってたのか?」
まぁ、王女様だしなぁ…知ってる人は知ってるか…えぇ、でもこんな人まで知ってるとは…
まさか、他にも気づいても知らないふりをしてくれた人はいたのか?
「まぁ、次は昼にでも来てくれ!俺たちはいつでもここにいるかよぉ!」
近くにいた男も声を上げて言う。働けよ。
「あぁ、またいつか来るよ」
リリィを背負い、会計を済ませて店を出る。
さて、帰るか。




