第4話 HPLC(画像あり)
「迅殿、そのLCというのは何なのです?」
分析装置を見上げながらガレスが尋ねた。目の前には白い箱がいくつも並んでいる。騎士からすれば、魔道具にも見えない不思議な機械だろう。
迅は装置の電源を入れながら答えた。
「正式には高速液体クロマトグラフィーっていうんだ」
「……全く分かりません」
「だろうな」
迅は苦笑し、近くにあった紙とペンを手に取った。
「例えばだ。ここに赤い石と青い石が混ざってるとする」
紙の上に丸をいくつも描く。
「はい」
「見ればどっちがどっちか分かるよな?」
「当然です」
「じゃあ、砂粒みたいに細かく砕いて全部混ぜたら?」
ガレスは少し考え込んだ。
「……区別できませんね」
「正解。毒ってのはそういうもんだ。ワインに混ざれば目には見えないし、匂いも味も分からない。だけど、確実に存在してる」
ガレスが頷く。ここまでは理解できるらしい。
「そこでLCの出番だ」
「LCは何をするのです?」
「分離するんだ」
「分離?」
「そうだ。こいつは超優秀な選別係なんだよ」
迅は分析装置を軽く叩いた。
「選別係、ですか?」
「王都の入場口を想像してみろ。足の速い奴は先に通るし、遅い奴は後ろになる。そうだろ?」
「そうですね」
「LCの中も似たようなもんだ」
迅は装置に取り付けられたカラムを指差した。
「ここは長い通路みたいなもんで、液体と一緒に色んな成分が流れていく。厳密には違うけど、成分たちがその中を走ってると思えばいい」
「成分が走るのですか?」
「まあ、実際には液体に流されるんだけどな。成分によって通路との相性が違うから、すぐに出てくる奴もいれば、なかなか出てこない奴もいる。つまり、最初は全部混ざっていても、出口では順番に出てくるわけだ」
「なるほど……」
ガレスが感心したように呟いた。少しずつ理解し始めたらしい。
「つまり、ワインの中に十種類の成分があったとしても、それぞれを分けて確認できる。そういうことだ」
「では、毒も見つかるのですか?」
「見つかる可能性は高い。人間には全部同じワインに見えても、機械なら違いを見つけ出せるからな」
分析の話になると、迅は自然と熱が入った。
「人間は簡単に騙される。目も鼻も、思い込み一つで判断を間違える。だけど機械は違う。あるものをあると言うし、ないものをないと言う。だから俺は機械を信じるんだ」
王から渡された十本のワイン。そのうち九本には毒が入っており、一本だけが安全だ。
常識的に考えれば、ただの運試しだろう。だが迅にとっては違う。目の前にあるのは、単なる分析対象に過ぎなかった。
迅はにやりと笑った。
「見つけるんじゃない。証明するんだ」
そう言って分析装置のモニターを起動する。
「どれが安全なワインなのかをな」
迅は最初のワイン瓶を手に取った。
異世界での、最初の化学分析が始まる。




