蒼い瞳の若き妻と夫
ネモスと若い妻の馴れ初めのお話しです。
古都ナハトバへ追放されたマヒュメラの老王と后達はナハトバ国王の前に引っ立てられた。
マヒュメラの老王は命乞いする間も与えられず処刑されマヒュメラとの国境城壁に吊るされた。
后達はナハトバ国王の慈悲を受け、独り身の家臣達に引き取られる事となった。
美しく着飾った后達は我先にと家臣達に媚びへつらい引き取られたが、ただ一人だけ喪服を着た若い后だけが残された。
どこか修道院へ入れようかとなったが他国の元后を受け入れる修道院はどこも無く国王も困り果てていた所、ネモスに妻がいないのをいいことに褒美として押し付けた。
困ったのはネモスだった。
ナハトバの騎士団育成もなにもかもが彼一人の肩にのしかかっていたからだ。妻など貰い受けてかまっている暇など無いのだ。
今までそう言ってのらりくらり婚姻の申し出を断ってきたが、今回ばかりはそうもいかず若い喪服の妻を娶る事になった。
ネモスは戦いについては天才的な才能を発揮していたが、事恋愛に関しては愚鈍で何も分からなかったので自分に結婚は一生あり得ない事だと思っていた。
「姫、私は本当に結婚に向いてない男なのです。もし、貴女さえ良ければ私の部下と縁を持って頂いても構わないのです。」そうネモスが若い喪服の妻に言った途端、傷を負ってた頬に平手打ちを受けた。
「仮にも妻となった私に他に情人を持てなどと、なんてひどい旦那様なんでしょう。許せません。」
大粒の涙をこぼしながらネモスを叩いた手を震わせている喪服の妻をネモスは初めてまじまじと見つめた。
蒼い瞳の若く気高い美しい妻にネモスはこの時初めて恋に落ちたのだった。
戦にしか脳の無いネモスとやっかみ半分で噂されていたネモスは騎士団育成やナハトバ東部のカシュトゥム沿い山脈麓を領地として貰い受け、全ての仕事をこなしながら若い妻に一生懸命仕えていた。
ネモスの領地では民が「ナハトバ猛将のネモスは若く美しい妻に骨抜きにされている。」と親しみを込めて噂されていたが、とうとうその若い妻に子供が出来ると猛将の跡継ぎが生まれる事を民は期待を込めて喜んだ。
子供は春に産まれたが、それと引き換えに妻は命を落としてしまった。
息を引き取る前に妻はネモスに願った。
「この娘を育てられずに逝く私を許して下さい。貴方がこの先寂しくならないように、この娘の全てを愛して下さい。その愛が貴方の心を満たしてくれるはずです。」
事切れた妻の身体を抱き締めてネモスは泣き続けたが、赤子の娘がひときわ大きく泣くので自身が泣いてばかりいられないと気付かされた。
ネモスは騎士団育成と子育てにかかりきりになって、眠る間も無かった。逆に眠る間もない位の忙しさがネモスに寂しさを与える事もなく、また騎士団の中で育てられた娘は皆の愛情を受けてすくすくと育ち、その真っすぐな愛情をネモスに向けた。
無償の愛情をしみじみと感じたネモスは今までの騎士の育成に対して自分の過ちを知った。
誰にでも無償の愛情を注ぐ相手も注がれる家族もどこかにいるのだと。もし、今何も無くともその出会いはこれからの先にあり、その幸せを決して奪ってはいけないのだと。
それからのネモスの生き甲斐は騎士団員達が立派に巣立ち、決して戦で命を落とさない剣の技術を身につけさせる事と愛しい愛娘グアネラの幸せだった。




