戦に翻弄された女人
トゥラザ家の三兄弟と遠縁の娘シュクレラの話しです。
長兄ランドゥルイには想い人がいた。20数年前ランドゥルイがようやく成人の儀を済ませた頃、その女人は他国に嫁ぐ事が急に決まった。
トゥラザ家の遠縁の娘、シュクレラはランドゥルイより2つ年上だった。
シュクレラの家は北のマヒュメラ国境から西のナハトバ堺目まで広大な領地を守っていたが、跡継ぎだったシュクレラの兄を戦死させてから父親が戦争に反対を唱え始めカシュトゥム国王から見放された。
領地も召し上げられそうになっていた所をトゥラザ家三兄弟の父が国王に直訴してなんとか維持出来る事となった。
「ランドゥルイごめんなさい。貴方達にも我が家が迷惑をかけてしまってるわね。」
「レラは気にするな。俺はレラの父上は間違ってないと思っている。兄上が亡くなってレラの母君が病に伏してからレラの父上もレラも良くやってると思う。」
「ランドゥルイありがとう。」
顔を手で覆って肩を震わせる愛しい女人にどうする事も出来ず、ランドゥルイは自分の拳をきつく握りしめた。
シュクレラの嫁ぎ先は北のマヒュメラの国王だった。
年寄りのマヒュメラの国王には何人も妻がおり、年若いシュクレラなど無用だったのだが、マヒュメラ国に攻め込まないようにといわば人質的意味合いの婚姻であった。もし戦争になれば真っ先に殺される運命の人だった。
戦争に反対するシュクレラの家を貴族達に見せしめにするため、シュクレラをマヒュメラに差し出したカシュトゥムの王はシュクレラの父をナハトバ国のネモスに差し向けた。戦う事をよしとしなかったシュクレラの父だったが、部下を幾人も失い心身共にすり減っていた。
トゥラザの三兄弟もその父親と共にネモスとの戦いに参戦していた。
「父上、今なんと?」
「マヒュメラで内乱があり国王がナハトバに追放されたらしい。」
「何故!?我が国ではないのですか!!」
「マヒュメラ新王はナハトバに老王と后達を共に売ったのだ。好きにしろと。」
ナハトバ国は北のマヒュメラと犬猿の仲でずっと戦が続いていた。原因はマヒュメラの老王がナハトバ領地を奪おうと幾度と無く侵攻していたからだった。
「危ないランドゥルイ!」
ナハトバの歩兵は怖いくらいよく鍛えられていた。
騎馬を得意とするカシュトゥムの戦法に周囲を固めて迫ってくる。
ハジェーラは弓の名手で騎馬の上から的確に敵を射落としてした。若干14歳の美少年と名高いハジェーラの活躍は群を抜いてカシュトゥム国王に届いていた。
「シュクレラ、シュクレラ。」
シュクレラの父は正気を失いながらネモスに突撃して行った。シュクレラの父がネモスに倒されるのと同時に一人の子供がネモスに短剣で切り込みネモスの頬を掠めた。
「小僧名前を名乗れ!」
「アレクス・トゥラザだ!覚えておけジジイ!」
ランドゥルイは風のように馬を走らせアレクスをネモスから掠め取った。
「命を捨てるな!機を見て戦え!」
「兄上は悔しくないのか!!レラ姉様はナハトバに殺されてしまう!!」
アレクスも怖くない訳はないのだ。血の着いた短剣を震える手で持ち泣きながら睨む弟を見てランドゥルイの気持ちも張り裂けそうだった。
三兄弟の父親がレラの父の亡骸を持ち帰り慎重に退却するのを見届けて、ナハトバの猛将ネモスが勝どきの声を上げた。
ネモスにこれ以上踏み込ませない為にカシュトゥムはナハトバへ速やかに和平交渉を進めた。
トゥラザの三兄弟の活躍にカシュトゥムの国王は満足し、シュクレラの父親の領地をそっくりそのまま三兄弟の父に譲った。
そして次男ハジェーラを王宮付きの騎士に召し上げた。
三男は普通騎士団預かりになるのだが、騎士団所属の西のナハトバ山脈領地の領主に任命された。ネモスに刃を向けた勇猛さが国王の気に入ったようだった。
アレクスはふと思い出した。
「レラ姉様はどうしたのだろうか。」
蒼い瞳の優しく美しい女人だった。




