閑話 騎士と蛙とカマキリと
本日2話めのゲリラ投稿。
ヒュイス視点。短いです。
こちらは本日2話めの投稿になっています。
最新話よりお越しの方はひとつ前の話よりお読み下さい。
その日、俺は苛立っていた。
いつものように鍛錬場に言った帰り道、例の困ったちゃんの待ち伏せにあったんだ。
そいつは、あーだこーだ並べて立てて、時々上目遣いに擦り寄ってくるのが迷惑だ。殿下やアーシュリートはよくまともにこいつの相手が出来るなと感心する。
ようやくあいつを振り切って、普段出向かない場所にでた。多分、俺たちの寮とは逆の位置にある女子寮の裏庭だろうと当たりをつけた。
「やれやれ、疲れてるのに、遠回りかよ。ついてねぇ……」
その時である。
ぎゃーともふがーともつかない甲高い悲鳴が聞こえた。女子寮の方角だ。
――助けを求めている?
俺は急いで駆けつけようとして……女子寮の玄関前で固まった。
さすがにこれ以上中に入るわけにはいかない……いや、今は非常事態だぞ……落ち着け、さすがに女の園に許可無く入るのは……誰かが助けを求めているのだ。助けなくてどうする? ……しかし、中に入ってちょっとあれ的にまずい事があっても……役得だ、行け!……まずくないか? ……良いぞ、行け!……ちょっとだけなら……そうだ行け!……そうだな行くか……
躊躇いつつ一歩踏み出そうとした時。
「ゲコッ」
少なくても悲鳴ではない声がした。
「ゲコッ、ゲコゲコ」
そいつは、野太い声で鳴きながら、俺の顔めがけて飛んできた。一匹ならず後から後からビタンビタンと水っぽい音を立てて。
「ヒュイス様? ちょうど良かった。その子たち逃がさないで下さーい」
奥からアズリ妹の声がした。
*****
【旋風】を使って蟇蛙どもを集め、一匹一匹アズリ妹が持っていた箱に入れた。最後の一匹は特大の蝦蟇で、これだけ他のと貫禄が違う。
「おお、こいつはこの群れの主だな。懐かしぃわ。ガキん時は良くこいつらで遊んだぜ」
「ヒュイス様もですか? この子大きいですよね。きっと他の子より年上なんじゃないのかな」
「お前、蛙苦手じゃないのか?」
「はい、平気ですよ。だって、足はちゃんと四本ですから」と、にっこりと笑った。
「女は皆蛙は苦手だと思ってたよ」
何せ、女丈夫でならしているうちの母親や、男がケツ捲ってって逃げ出すようなうちの叔母でさえ、蛙は苦手で悲鳴をあげるのを何度か見ている。女っていうものは蛙が大嫌いなものなんだろ、と分かっている。
それが、彼女たちとは比べ物にならないぐらいか弱くて細っこいこいつが、平気そうににこにこ笑ってるなんておかしいだろ。
「そうですよね。私だって最初はちょっと気持ちわるかったです。でも兄に付き合って蛙を育てているうちに平気になりました。おたまじゃくしの頃は丸くてプクッとしてて可愛いし」
「おたまじゃくしも飼ってたのかよ……」
「はい。兄って悪戯のためには労力を厭わないんです」
へぇ悪戯か……、あの鉄仮面のアズリ兄、何やらかしてんだ?
興味を引いて尋ねたら、幼い頃の思い出話をいろいろ披露してくれたよ。悪戯っ子だったんだなアズリ兄。随分と仲良しだったんだなアーシュリート。少しだけ羨ましいわ。
「で、こいつら、どうしたんだよ。まさか、どっかの池から獲ってきたってわけじゃねぇだろ」
「ええと……プレゼントなんだと思います」
聞いてみれば、学校から帰ってきたら部屋の前に届け物が置いてあったんだそうだ。それを開けてみたら、こいつらが飛び出したってことらしい。これって、嫌がらせだよな? 本人サラッとしていて気にしていないようだけど。
ていうか、もうちょっと警戒心持った方が良いぞ、アズリ妹。変なものをあけちゃいけません。
「同室の子は倒れちゃうし、蛙達はあちこち散らばっちゃうしで大変だったんです。部屋の扉があいてたから半分以上は外行っちゃうし」
「そのままほっときゃ良いんじゃね」
「だって、この辺りに水場ないし、干からびちゃうんじゃないですか、この子たち。それに、もうすぐ冬なのに、こんな石だらけのお庭だと巣穴にならないんじゃ?」
「俺は蛙じゃないからよくわからんが、人間に飼われるよりマシじゃねぇの」
「はい。それは分かってます。お休みにでも水場を探して返してあげようかな、って」
「それまで、飼ってんの? 同室の子耐えられないんじゃね?」
「そうなんですよね……。サジェに我慢していうのは悪いし……ほんとどうしよう……」
しゅんと項垂れてるのが子犬みたいに見えて、思わずわしゃわしゃと撫でくりまわしてた。
「はい? あの、ヒュイス様?」
「え? あ、悪ぃ」
向こうも驚いて真っ赤だが、こっちもやばい。慌てて手を引っ込めた。
「あ、え、ええと。蛙ども俺が引き取ってやるよ。どうせ一人部屋だしな。で、俺んちに帰る時に連れ帰ってやる。俺の実家は湖の辺りにあるから、こいつらが干からびる心配はないさ」
「本当ですか? ありがとうございます。良かったね、君たち」
ゲコッと肯定するように蛙どもが鳴いた。
「こいつらも心配だろうから偶には顔見せに来いよ。待ってるぜ」
*****
次の日、預かった蛙どもをサロンの持って行って世話をしていると、カミーユが寄ってきた。
「精が出ますね、ヒュイス」
「カミーユか。なんか用か?」
「何でもありませんよ……ただ、ちょっと興味深かっただけです」
「蛙に?」
「……そうですね。蛙とあなたともう一人に」
「……相変わらず耳が早いな、カミーユ」
「お褒めいただきありがとうございます」
「こいつらはただ預かってるだけだ。あいつとはなんもねぇよ。大体、俺は女に興味ねぇし」
「そうですね。そうなんでしょう。今はね」
カミーユが意味深な事言っているが、知るか。
ふと、窓に珍しいものが止まっているのを見た。
――蛙の代わりにこれなら部屋で飼えるか? あいつに持って行ってやろうかな……。
「……ヒュイスは実に分かりやすい。それはやめた方が良いと思いますが……ああ、聞いてないですね、困ったものです」
俺は、捕まえた”それ”をあいつに渡した。そうしたら、
「か、カマキリ? う、嘘……い、いやー。来ないでーーー!!」
「セラ、大丈夫だから、落ち着いて……ヒュイス、少し反省してろ。【霜の檻】」
氷の結晶で作られた半透明の檻に約半日閉じ込められた……。へ、へックショ……風邪ひいたぜこのヤロー。カマキリ可愛いだろうよ!!
泣かせてすまん、アズリ妹……。
昨日入りきれなかった分を。なので短いです。
お読みいただきましてありがとうございました。
次話予定は1月30日午前0時で変更はありません。




