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絶対無敵の盾  作者: ムク文鳥
魔獣決戦編
80/97

救助活動


「無事かどうかはともかく、こうして生きてはいるな」

 自嘲気味な笑みを浮かべるのは、間違いなくパイライト帝国現皇帝、グランディス・インテグラ・パイライト。

 その姿を見て、ソリオたち『真っ直ぐコガネ』も近衛騎士のアコードも、安心の溜め息を零した。

「とはいえ、城がこれだけの高さを落ちたのだ。流石に無傷という訳にはいかんよ」

 そう続けたグランディスは、全身至る所に傷を負っている。左手がぶらんと垂れ下がっているのは、骨でも折れているのだろう。

「城が落ちた際、数人の近衛たちが俺を庇ってくれてな。その中には精霊術師(エレメンタラー)もいて、そいつらのお陰でこうして生き長らえることができた」

「……じゃあ、その近衛の人たちは……?」

「……奴等は職務に殉じた。実に立派な騎士たちだった」

 グランディスを庇ったという近衛たちは、彼を庇ったことで命を落としたのだろう。ソリオたちもグランディスも、悲痛な表情で天を仰いだ。

「……だが、奴等のお陰で生き長らえた以上、俺は皇帝としての責務を果たす。それが俺の代わりに死んだ連中に対する何よりの手向けとなるだろう。それに……」

 グランディスは周囲を見回す。辺りには瓦礫の山しか見えないが、その影には彼のように助かった者もいるに違いない。

「ソリオがいるってことはスペーシアもいるな?」

「はい。彼女もこの上に来ています」

「そうか。では、冒険者『真っ直ぐコガネ』に依頼する。この穴の中から生存者を見つけ出し、救出した上で治療を頼む」

「了解です」

 ソリオとヴェルファイア、そしてコルトは揃って頷いた。

「コルト。悪いけど大至急『栄光なる我が息子号』まで戻って、船ごとこの穴に入るように伝えてくれ」

「分かったッス!」

「では、上で待っている俺の部下たちも一緒に船で降ろしてくれないか? 少しでも人手があった方が探索も進むだろう」

 アコードの言葉に頷き、ソリオは改めてコルトに飛行の術を施す。

「おっしゃあああああっ!! あっしは今、電光になるっ!!」

 それを待って、コルトは猛スピードで真っ直ぐ上へと上昇して行った。




 穴の中にその巨体を沈めた『栄光なる我が息子号』は、積み上がった瓦礫より僅かに高い位置にその船体を停止させた。

 そこからは、ソリオの飛行の紋章術を受けた騎士たちや、『真っ直ぐコガネ』の面々が負傷者を船の中へと運び入れていく。

 穴の中にはかなりの死傷者がいた。

 城が一つ落ちたのだから、当然と言えば当然だろう。そして、運良く生き長らえた者より、運悪く命を落とした者の数の方が、やはり多かった。

 だが、パイライト帝国として幸いだったのは、皇帝であるグランディスが存命だったことだろう。

 そして、彼の家族もまた、侍女などに庇われて命を落とさずに済んでいた。

 『栄光なる我が息子号』に収容された負傷者は、スペーシアが神聖術を施して怪我を癒していく。

 彼女の神聖術は実に強力で、かなりの重傷者もその命を救うことができた。

 これまで、ソリオの盾のためになかなか彼女の神聖術を目にする機会のなかった『真っ直ぐコガネ』の面々も、改めて選別者(ディヴァイン)としての彼女の実力の高さを目の当たりにしていた。

「結果的に、スペーシアをソリオたちの元にやって正解だったな。こうして実に迅速に駆けつけてくれて、治療を施してくれている」

 真っ先にスペーシアによって治療を受けたグランディスは、治癒を受ける城の役人や侍女などの使用人たちを眺めていた。

 もちろん、全ての怪我人にスペーシアの神聖術を施すわけではない。傷の軽い者は、従来通りの手当てを受け、負傷者の探索などに協力している。

 そして、負傷者の探索の場面でも『真っ直ぐコガネ』は大いに活躍していた。




「……反応あった。そっちの大きな瓦礫の影に一人倒れている。まだ息があるから、崩さないように気をつけて」

「おう、この下だな! オーリスの旦那!」

「うむ、手伝おうヴェルくん」

 ソリオが指差した瓦礫を、ヴェルファイアとオーリスが二人がかりで退けようと試みる。

「どう? 動きそう? もし無理そうなら、《軽量化》の紋章術をかけるけど?」

「その必要はありません。この程度の瓦礫ならば、私とヴェルくんとで動かせます」

 オーリスとヴェルファイアが協力して瓦礫を退けると、ソリオが言ったように役人らしき人物が倒れていた。

「お、ソリオの言った通りだ。すげえな、その《生命感知》って紋章術はよ」

 感心しつつも、ヴェルファイアが倒れている役人を助け出す。意識はないようだが、命に別状はなさそうだ。

「コルト! 大至急、この人を『栄光なる我が息子号』に運んで!」

「了解ッス!」

 コルトが気を失っている役人を抱え上げ、ふわりと空に舞い上がる。そして、そのまま『栄光なる我が息子号』へとその役人を運んで行く。

「よし、あっちはコルトに任せて、こっちは他の負傷者を探そう」

 ソリオは再び宙に指を滑らせ、幾つかの紋章を描く。

〈生命〉〈探索〉〈広域〉

 それぞれ意味を持つ紋章が重ね合わさり、《生命感知》が発動する。

 その紋章術は、文字通り生命反応を感知する魔法である。範囲内にある生命に反応し、その位置を術者であるソリオに教えてくれる。

 このような救助活動には、もってこいの魔法であろう。

 だが、命を落としてしまった者はこの魔法で探すことはできない。

 遺体となってしまっても極力探し出せ、というのがグランディスの方針であり、そちらの探索はアコードの指揮の元、彼の部下の騎士たちで行われていた。

 やはり、残念ながら生存者よりも命を落としてしまった者の方がかなり多い。余程運が良かった者だけが、何とか助かったようだ。

 《生命感知》が発動し、見えない魔素の網がソリオを中心に広がっていく。そして、その網の中に幾つかの生命反応をソリオは確かに感じた。

「よし、また反応があった。ヴェル、オーリス、また頼むよ」

「おう! 力仕事なら任せておけって!」

「はっ! ソリオ様のご命令とあらばこのオーリス、命に代えましても!」

 ヴェルファイアとオーリスは、ソリオの指示に従って瓦礫の下敷きになっている負傷者を助け出していく。

 こうして、普通では考えられない速度と精度で、負傷者たちは次々に発見救助され、神聖術による治療を受けて命を取り留めることに成功するのだった。




 こうして、全ての負傷者とできる限りの死者の遺体を引き上げた『栄光なる我が息子号』は、一旦穴の外へと出た。

 穴の外にはパイライト帝国の騎士や兵士、貴族たちが待ち構えており、負傷者や遺体を速やかに収容していく。

 もちろん、その陣頭指揮を取っているのはグランディスである。

 多くのパイライトの市民たちや騎士貴族が、皇帝の生存に歓声を上げていた。

 中には彼の生存を快く思わない者も皆無ではないだろうが、やはり国の要である皇帝の生存は、多くの人々の心に明りを灯したようだ。

 城下町の高級旅館を一時的に接収し、仮の住まいと定めた皇帝とその家族は、怪我や気づかれからその日は早めに休むことにした。

 同じ宿への逗留を勧められた『真っ直ぐコガネ』も、救助活動の疲労で同じく早めに就寝する。

 特にソリオとスペーシアの二人は、魔法を使いまくったために疲労も激しかった。

 それでも二人でひとつの客室に、手を繋いだまま引き上げる二人の背中を、仲間たちは微笑ましく眺めていたが。

 そしてその翌日。『真っ直ぐコガネ』は改めて宿屋の最も広い一室でグランディス皇帝と面会し、彼らが知る今回の帝城崩落の事実を彼に告げた。

「なるほど……俺たちのご先祖絡みの事件ってわけだな」

 ソリオたちから事情を聞いたグランディスは、腕を組みながらそう言った。

「それで、おまえたちはその異界の魔獣とやらを討つつもりだと?」

「はい。俺は父親や母親と同じように、目覚めた異界の魔獣と戦うつもりです」

 ソリオの返事を聞き、グランディスはそうか、とだけ告げると目を閉じて何やら考え込む。

 だが、彼はすぐに目を開けるとソリオに向かってにやりと笑う。

「よし! 俺も一枚噛ませろ。その魔獣とやらがご先祖と関係があるならば、俺にとっても他人事じゃないからな。俺にできることがあったら、何でも言ってくれ。それに今回はおまえたちには本当に世話になった。その恩返しの意味も含めて、我がパイライト帝国は全力で『真っ直ぐコガネ』を支援することを約束する!」

 グランディスは部屋に居合わせた帝国の重鎮たちを見回す。

 彼らは皇帝の視線を受けて、一様に頭を下げた。どうやら、彼らも皇帝の決定に反対するつもりはないようだ。

 帝国の象徴とも言うべき帝城を崩されたこともあるし、彼らとしても目覚めた魔獣を放っておくことはできないのだろう。

「では、まずはその魔獣を見つけることからだな」

「そうですね。聞くところによると、魔獣はかなり大きいようです。発見するのはそれ程難しくはないでしょう」

 ソリオの言葉に、グランディスが重々しく頷く。

「アコード! すぐに騎士と兵を編成し、いくつかの偵察隊を四方に送れ! 目的は異界の魔獣の発見だ。相手がどんな姿をしているのか分からん。決して痕跡を見逃すな!」

「御意!」

 壁際に控えていたアコードは、皇帝の言葉に応えてすぐに部屋を飛び出して行った。

 グランディスはその後も幾つかの指示を部下に飛ばし、次々に態勢を整えていく。

「さて、後は報告待ちだな」

 指示を出し終えたグランディスは、にやりと笑いながらソリオとスペーシアを見た。

「そういや聞いたぜ、ソリオ。おめでたらしいじゃねえか?」

 グランディスにそう言われて、思わず赤面するソリオとスペーシア。

「今回の魔獣事件が片づいたら、改めて祝いをしようじゃねえか。俺もソリオたちとは他人じゃねえし、今回は本当に色々と世話にもなった。その返礼ってわけじゃねえが盛大に祝わせてもらうぜ?」

 そう言って、グランディスは親指を突き立てながら、まるでソリオのようににかりと笑った。


 『無敵の盾』更新。


 舞台はちゃくちゃくと整いつつあります。

 次は異界の魔獣側の描写を入れたいと考えていたり。


 そういえば、前回の更新の時に当面目標について触れましたが、その後に数多くの評価ポイントの投下などの支援をいただきました。

 ポイントを入れてくださった方、またはブックマークに登録してくださった方、本当にありがとうございました。

 ようやくゴールが見え隠れしてきました。最後まで絶対に書き続けてお礼の代りとしたいと思います。



 では、これからも改めてよろしくお願いします。


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