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絶対無敵の盾  作者: ムク文鳥
魔獣決戦編
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穴の中

 パイライト帝国の帝城のあった場所。

 事前の情報通りにその場に城はなく、代りに巨大な穴が地面にぽっかりと開いているだけ。

 その穴を、ソリオたちは『栄光なる我が息子号』のモニター越しに見つめていた。

 甦った異界の魔獣。その魔獣と戦う決心を固めたソリオたちだが、まずは冒険者としての依頼を片付けなければならない。

 そのため、こうしてパイライト帝国の帝城のあった場所へと赴いてきたのだ。

「うっわー、本当にでっかい穴ッスね……」

「全くだ。このままこの船で入れるぐらいじゃね?」

「だが、中で何が待っているのかも不明だ。船のまま入り込むのは危険だろうな」

「そうだね。俺とヴェル、そしてコルトでまずは穴の中に降りてみよう。残りはこのまま船で待機。何かあった時に備えて」

「私も同行致しましょうか?」

 『真っ直ぐコガネ』のリーダーであるソリオの決定だが、オーリスは不満らしく自ら同行を申し出る。

「いや、オーリスは船に残って欲しい。そして、スペーシアとポルテの護衛を頼むよ」

 スペーシアとポルテは二人とも後方支援要員である。そのため、彼女たちがその実力を発揮するには、彼女たちの壁となる前衛が必要なのだ。

 オーリスは当然そのことを理解している。だが、今のオーリスはちょっとおかしな理解をしてしまった。

 彼はソリオに言われると、スペーシアへと振り返った。いや、より正確に言えば、彼の視線は真っ直ぐにスペーシアのお腹へと向けられている。

「はっ!! スペーシア様とポルテくん、そしてスペーシア様のお腹の中の御子は、このオーリスが命に代えましても守り抜いて見せます!」

 今にも片膝ついて頭を垂れそうな勢いのオーリスに、『真っ直ぐコガネ』の他のメンバーたちは苦笑を浮かべた。

「な、なんか……オーリスの旦那、初めて会った時に戻っちまったなぁ……」

「それだけソリオに子供ができたことが嬉しかったのねぇ……そりゃあ、私たちだって嬉しく思っているけど」

「姉貴。また旦那が『死んでお詫びを』ってやらねえように目ぇ光らせといてくれよ?」

「うん、やってみる。でもオーリスさん、今度は前よりテンション高そうだから、少し自信ないなぁ……」

 ポルテとヴェルファイアの姉弟は、ぼそぼそと小声で囁き合った。




 『栄光なる我が息子号』の甲板にでたソリオとヴェルファイアとポルテ。

 彼らは甲板から身を乗り出し、真下に広がる巨大な穴を見下ろした。

「改めて見ると、やっぱりでかい穴だな……」

「本当ッスね。あれ? ソリオ様、あれって何スかね?」

 コルトが指差した方へと目を向ければ、穴の縁からこちらに向かって手を振っている者たちがいた。

「もしかして、パイライト帝国のお偉いさんじゃね?」

 国の中枢である城が消えたのだ。ヴェルファイアの言う通り、パイライト帝国としても、穴の中を調査する必要はあるだろう。

「うん、そうかもしれないね。よし、まずはあの人たちと接触してみよう」

 ソリオは自分とヴェルファイア、そしてコルトに飛行の紋章術を施す。

 そしてそのまま空中に身を踊らせると、ゆっくりとした速度で地上で手を振っている者たちを目指して降下していった。

 地上が近づくにつれ、手を振っていた者たちの詳細が分かってくる。

 どうやらパイライト帝国の軍の者らしく、何度もこの国と帝城を訪れているソリオたちには見慣れた軍服を着た者たちだった。

 その数は20名弱。そして、先頭で手を振っている軍人にソリオは見覚えがあった。

「ソリオ殿! 丁度良い時に来てくれたな!」

 着地したソリオに、先頭に立っていた騎士が破顔する。

 彼はグランディス皇帝の護衛の近衛騎士の一人であり、グランディスが気に入っている『真っ直ぐコガネ』とは、当然ながら面識があった。

 背が低くがっちりとした体格で、豊かな髭を生やしたその騎士は岩妖族(ドワーフ)である。

「アコードさんっ!! 無事だったんですねっ!!」

「ああ。実は城が消えた日、偶然にも俺は非番でな。城下の家にいたため、城の消失に巻き込まれなかったんだ」

 ソリオとアコードという岩妖族は、にっこりと笑いながら握手を交わす。

「それで、アコードさんはどうしてここに?」

「もちろん、陛下の安否を確認するためさ。実は突然この穴っぽこが開いてからというもの、何とか中に降りる方法を考えていたんだ。残された騎士の中には翼を持つ種族もいるにはいるが、どうしたって数が少ない。それに俺たち騎士や兵士は、このような未知の危険にはどうしたって不慣れだ。それでも陛下の安否を確認する必要はあるし、穴っぽこは大きすぎるし……と悩んでいたところ、君たちの飛空船が近づいて来るのが見えたので急いで駆けつけたというわけだ」

「俺たちもこの国の帝城が消えたと聞いて、それが本当か確かめに来ました」

 本当は隣国マラカイト王国の貴族であるアゲート侯爵からの依頼であるが、他国の貴族が帝城を調べるようにと依頼したとなると、例え友好国であろうとも問題となりかねない。

 だが、グランディス皇帝とも個人的に交友のあるソリオたちならば、個人的に真相を確かめに来ていても不思議ではないだろう。特に『真っ直ぐコガネ』にはスペーシアもいる。生家とは縁を切っているとはいえ、彼女はこの国の皇族の出身なのだから。

 そもそも、ソリオたちにもアゲート侯爵にも、他国の秘密を盗み出すような魂胆はない。

 しかし、パイライト帝国から見れば、他国の貴族が冒険者を使って諜報活動を行ったと言われても否定できないのだ。

「では、俺たちに協力してもらえるか?」

「はい。俺たちにできることなら何でも言ってください」

 協力を約束したソリオとアコードは、改めてもう一度お互いの右手を握り合った。




 ソリオが灯した魔法の明りを光源にして、ソリオとヴェルファイア、コルトはゆっくりと、しかし危なげもなく穴の中を降下していく。

 それに対して、ソリオたちのやや上から同じように降下する者たちは、端から見てもおっかなびっくりなのがありありと分かる。

「アコードさん! 大丈夫ですか?」

「お、おう! し、しかし……空を飛ぶとは、こんなにも不安定なものなのか……?」

 下から聞こえてきたソリオの問いかけに、アコードは手足をばたばらさせながら必死にバランスを取っている。

「いやー、分かるッスよ。あっしらもこの魔法に慣れるまではそんな感じだったッスからね」

「風の精霊師(エレメンタラー)の使う魔法なら、もう少し安定して降下できるって話だけどな。でも、その魔術では降下速度を調節することしかできねえらしい」

 風精と契約した精霊術師も、空中を移動する魔術を使うことができる。

 だが、その魔術は降下速度を調節するだけで、自在に空中を動き回れるようなものではない。

 だが、ソリオの飛行の紋章術はかなりの速度と機動性をもって空を自在に飛び回れる。それこそ、飛竜と空中戦を演じることができるレベルでだ。

 その反面、空中で姿勢を制御するのが難しい。ソリオもヴェルファイアもコルトも、何度も訓練したからこそこの魔法で自在に空を飛べるようになったのだ。

「しかし……凄いよね、これ。一体どうやったら、こんな磨いたみたいに綺麗になるんだろう?」

 ソリオは降下しながら、穴の側壁を注意深く観察した。

 側壁の表面は、彼が言ったように磨いたようになめらかで、明りが十分であれば、覗き込んだ顔が映り込むほどだ。

「確か……ザフィーラの旦那は封印が解けたことでここにあった土が空間ごと異空間に取り込まれたとか言っていたけどよ……正直、俺にはあの旦那が何を言っているのかさっぱりなんだよな」

「うん、実はあっしもッス!」

 コルトが何の意味もなく、親指をずびしっとおっ立ててヴェルファイアに応える。

「いや、そこは自慢するところじゃ……って、コルトだからな。仕方ないよな」

 ヴェルファイアが大袈裟な仕草で肩を落とす。それを見て、バランス取りに必死だったアコードも、無駄な力が抜けたのか、その後は何とか降下を続けることができた。

 そして、ソリオの灯した明りの中に、崩れた帝城の残骸が見えた。

 ソリオとヴェルファイア、そしてコルトとアコードは互いに頷き合った後、その残骸の方へと降下して行った。




 音もなく着したソリオたち。

 彼らは穴の底に降り立つと、周囲を見回す。

 辺りには城の残骸と思しき瓦礫が散乱している。そして、所々に見える赤黒い染み。その染みが何なのか、ソリオたちには考えるまでもなく理解できた。

「アコードさん。予定通り二手に別れて生存者を探しましょう」

「心得た。生存者が少数ならば直接我々で、多数ならば君たちの空飛船で地上へ運ぶのだな?」

 降下しながら相談したこれからの活動方針。それはアコードが口にした通りのものだ。

 ソリオとヴェルファイア、そしてコルトとアコードが組となって地底の様子を探索する。

 罠のようなものはないだろうが、もしかすると異界の魔獣がいるかもしれない。

 そのため、決して単独では行動せず、また、無理なことは絶対にしないというのが彼らの決めた活動方針であった。

 彼らが二手に別れて探索を開始しようとした時。

 不意に瓦礫の影から何かが飛び出してきた。

 咄嗟に武器を構え、迎撃体勢を取るソリオたち。だが、緊張したその顔はすぐに喜色に塗り替えられた。

「……た、助けて……」

 瓦礫の影から飛び出してきたのは、制服に身を包んだ一人の女性。頭の部分からひょこんと獣の耳が飛び出しているので、おそらくは獣人系の種族だろう。

 そしてその制服から、後宮に務める侍女のようであった。

 ちなみに、パイライト帝国における「後宮」とは、いわゆる皇帝の「ハーレム」ではなく、皇帝とその家族が暮らす場所を意味する。

「侍女殿! 貴女だけか? 他の者は……陛下はご無事かっ!?」

 今にも倒れそうな侍女を抱き抱え、アコードは他の生き残りがいないかを尋ねる。

 しかし、侍女はアコードの顔を見て安心したのか、ほぅと安堵の息を吐くとそのまま気を失ってしまった。

 アコードはそっと侍女を地面に横たえると、厳しい表情でソリオたちを振り返った。

「……これで、他にも生存者がいる可能性が強くなった。一刻も早く、他の生存者を見つけねば──」

「いや、それには及ばん」

 アコードの言葉を遮るように、突然四人の耳に飛び込んで来た声。その声に、ソリオたちは聞き覚えがあった。

「へ、陛下っ!? ご、ご無事でございましたかっ!?」

 喜色満面で声を上げるアコード。

 そしてそれは、ソリオたちも同じ思いだった。

 ソリオが灯した魔法の明りの中に姿を見せたのは、砂ぼこりなどで薄汚れてはいるものの、パイライト帝国現皇帝、グランディス・インテグラ・パイライトに間違いなかった。




 『無敵の盾』更新。


 今回は少し早めに書き上がりました。

 毎回こうだといいのだけどなぁ(笑)。


 そう言えば、もう随分と前に当面目標として設定した「各評価点1000点オーバー」ですが、いまだに達成されておりません(笑)。

 調べてみたところ、当面目標を設定したのって去年の9月なんですよね。もう一年以上経ってたや。

 果たして、完結までに達成されるやら。

 最後まで達成目指してがんばろう。



 では、これからもよろしくお願いします。


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