表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絶対無敵の盾  作者: ムク文鳥
隣国訪問編
71/97

私、嫁ぎます


 大空へと舞い上がった『栄光なる(グローリー)我が息子(ソリオ)号』。

 眼下に広がる大地を、ソリオたち『真っ直ぐコガネ』は、呆然と艦の艦橋から見下ろしていた。

「…………確かに、これまでクリソコラの遺跡で、空飛ぶ船を見つけた冒険者の話は聞いたことがあったけどよ……それれらの話の半分は眉唾もので、残る半分は御伽噺だとばかり思っていたが……」

 まさか、自分がその空飛ぶ船に乗ることになろうとは。

 ヴェルファイアは余りにも突然なことに、操舵席で舵輪を握り締めながら呟いた。

 だが、『真っ直ぐコガネ』が呆然としていたのは、僅かな時間のみ。

 次第に彼らの顔には喜色が浮かび、次いで好奇の色が浮かんでくる。

 未知なる体験への憧れこそが、冒険者たちの最大の原動力なのだから。

「あああっ!!」

 そんな中、冒険者の心境とは唯一縁遠いスペーシアが、突然悲痛な叫び声を上げた。

 一体何事かと、ソリオたちが彼女の視線の先を追えば、そこには瓦解した神殿──パイライト帝国皇家が代々守り続けてきた聖地──の姿があった。

「あの神殿はこの船の地上への出口の上に建っていましたからね。この船が空へと飛び立てば、崩れるのは当然です」

「ちょ、ちょっとザフィーラさんっ!?」

 ソリオが真っ青な顔色でザフィーラへと詰め寄る。だが、当のザフィーラはにこりと笑顔を浮かべるのみ。

「そもそも、あの神殿はこの船を守るためのもの。ですが、こうしてこの船は本来の持ち主の手に渡りました。つまり、神殿は用済みです」

「そうじゃなくてっ!! 何落ち着いているのさっ!? それじゃあ、あの神殿にいた神官の人たちは……」

「ご安心ください、ソリオ殿下。神殿の者たちには、事前に退去するように申し伝えておきました。神殿が役目を果たし終えた以上、彼らの役目もまた終わったのです」

「そ、それでは神殿の者たちはこれから……」

 共に生活してきた者たちの今後を心配したのか、スペーシアがヴェールの奥から不安そうな声で尋ねた。

「そこも心配はいりません。ことの次第を説明した書状を持たせて、彼らには帝都へと向かわせました。彼らの今後は、皇帝陛下が考えてくれるでしょう」

 ザフィーラの話を聞き、安堵の息を零すスペーシア。

「では、ソリオ殿下。これからのこの船……『栄光なる我が息子号』の行き先をお決めください」

「え? 俺が決めるの?」

「もちろんです。この船は殿下のもの。どのように扱おうが、どこへ行こうが殿下のご自由に」

 優雅に腰を折るザフィーラ。当のソリオは自由にと言われて面食らっていたが、何かを思いついたようで早速操舵手のヴェルファイアに向かって指示を出した。

「じゃあ、帝都へ行こう。皇帝陛下と約束したからね。地下の遺跡でお宝が見つかったら、それを見せに行くってさ」

「おう、そういやそうだったな」

「了解ッス!」

「ソリオ様のお心のままに」

「でも、大丈夫かしら? こんな大きな空飛ぶ船で、いきなり皇帝陛下のいる所へ押しかけても……」

 もしかすると、敵襲と勘違いされて迎撃されるのでは、と心配するポルテ。だが、彼女のそんな心配を弟分が笑い飛ばした。

「大丈夫だろ? あの皇帝陛下ならガキみたいに目を輝かせて『俺にこの船をくれ! 代わりに帝位をやるから!』って言いそうだぜ」




「俺にこの船をくれ! 代わりにこの国の帝位をご先祖様に譲るから!」

 新しい玩具を与えられた子供のように目を輝かせながら、現パイライト帝国皇帝であるグランディス・インテグラ・パイライトがその台詞を口にした時、ソリオを始めとした『真っ直ぐコガネ』の面々は、揃いも揃って「あちゃー」といった表情を浮かべた。

「……本当に言ったぜ、この皇帝様はよ……」

「いやー、ここまでくるといっそ清々しいッスな」

「いや、駄目でしょ? 皇帝って地位にいる人がそんなんじゃ駄目だよね?」

「私、この国の将来がちょっと心配だわ……」

 唯一、『真っ直ぐコガネ』の中で表情を変えなかったオーリスが、つかつかと無言のままグランディスに近づくと、何の遠慮もなくその拳を皇帝の頭上にごいんと振り下ろした。

「この馬鹿者が! 自分の立場をもう一度よく考えろ!」

 一見するとその場で処刑されても言い逃れできないような所行だが、グランディスの周囲にいる近衛や側近たちが揃いも揃って頷いているところを見ると、彼のこのような言動はいつものことらしい。




 『栄光なる我が息子号』が帝都に近づいた時、当然ながら帝都は大騒ぎだった。

 呆然と空に浮かぶ巨船を見上げる者。

 飛び道具を構え、精霊術を準備して身構える者。

 あたふたと単に狼狽える者。

 翼ある種族の中には、空に舞い上がって間近で『栄光なる我が息子号』を見に来る者までいたりした。

 だが、それも無理無からぬと言えるだろう。

 外洋を航る大型の帆船よりも更に巨大な船が、威風堂々と空に浮かんでいるのだ。それを見て平然としていられる者などそうはいない。

 そして『栄光なる我が息子号』は、帝都中央の皇帝の居城の傍で停止する。

 そこから数人のヒトが空を舞いながらゆっくりと降りて来るのを、城の兵士や街の住民は確かに見た。

 ソリオの紋章術で飛行しながら、地上に降りた『真っ直ぐコガネ』。

「我らは冒険者『真っ直ぐコガネ』である! グランディス皇帝陛下との約束に従い、聖地の地下に眠っていた『宝』を持ってきた! 至急、取り次ぎを願いたい!」

 さすがにいきなり皇城の中に降りることはせず、正門の前に降りたソリオたち。『真っ直ぐコガネ』を代表して、オーリスが堂々とした口調で口上を述べる。

 集まった兵士や騎士の中にオーリスのことを見知った者がいたこともあり、『真っ直ぐコガネ』と「空を飛ぶ巨船」のことは瞬く間にグランディス皇帝の耳に届いた。

 しばらく正門前で待っているとすぐに皇帝その人が現れ、『真っ直ぐコガネ』は皇帝直々に城の中へと招き入れられるのだった。




 オーリスに諌められて落ち着いたグランディスは、改めて『栄光なる我が息子号』についての詳細をソリオたちから聞いた。

「なるほどなぁ。聖地の地下にはご先祖様への遺産が隠されていたわけか。で、ご先祖様のその……なんてったっけか? イデンシ……なんとかって奴に反応して、地下の遺跡の扉は開いたと」

 場所は皇城の応接室の一つ。

 この場にいるのはグランディス皇帝と数人の側近、『真っ直ぐコガネ』、そしてスペーシア。

 ザフィーラはこの場にはおらず、『栄光なる我が息子号』に残っている。

「はい。大僧正様がおっしゃるには、我が皇家の者ではそのイデンシジョウホウ……とやらが不足しているとのことでした。魔道皇と竜王、かつての偉大なる二人の王の血脈に繋がる者だけが、遺跡への扉を開くことができたのだそうです」

 流石に皇帝の前ということもあり、今のスペーシアはヴェールをしていない。

 初めて彼女の素顔を見たソリオ以外の『真っ直ぐコガネ』の面々は、スペーシアの整った容貌に感嘆の溜め息を漏らす。だが、彼らは彼女の爬虫類のような瞳孔を見ても、それほど驚いた様子は見せなかった。

「まあ、その辺の難しい話はいい。どうせ俺では理解できないだろう。それより、ご先祖様よ?」

 グランディスはにやりと笑みを浮かべる。

「あの船を俺に譲っちゃくれないか? 無論、タダとは言わねえよ。言い値で買い取ろう。どうだ?」

 グランディスのこの申し出に、ソリオはすぐさま首を横に振った。

「いえ、あれは……あの船は、俺の両親が俺に遺してくれたものですから。いくら大金を積まれようとも、絶対に手放すつもりはありません」

 きっぱりとそう言い切るソリオに、グランディスは重い溜め息を吐いた。

「まあ、そうだろうな。仕方ねえ、あの船は諦めるか。だけど……」

 再び、笑みを浮かべるグランディス。

「乗せてくれるぐらいはいいだろ?」

「はい、喜んで。いつでもお乗せしますよ」

 ソリオとグランディスは、互いの拳と拳をぶつけ合う。

「よし。近い内に時間を作るから、それまでこの城に滞在してくれ。部屋を準備させよう」

 グランディスは側近にそのことを申し伝える。

 一礼し、準備のために応接室を退室する側近。

 その姿が扉の向こうに消えるのを見届けたグランディスは、その視線をスペーシアへと向けた。

「さて、スペーシアよ」

「はい」

「神殿が……聖地はその役目を果たし終えた。今後、我が皇家があの地を守っていく理由は失われたわけだ」

 それまでとは打って変わり、グランディスの真剣な視線がスペーシアの金の瞳を真っ正面から射抜く。

「神殿に入る時に家名を捨てたお前は、既に皇族ではない。そして今、その聖地の長としての立場も失った。…………これからおまえはどうする?」

 グランディスの言う通り、今のスペーシアには何もない。

 皇族としての地位も、聖地の長としての立場も、全て失っているのだ。ここにいるのは、スペーシアという名前の一人の人間族(ヒューマン)の少女に過ぎない。

「陛下がおっしゃられるように、今の私にはほとんど何も遺されておりません。ですが……私にはまだ、『選別者(ディバイン)』としての能力(ちから)が残っております」

 スペーシアはにこりと微笑むと、その視線をグランディスからソリオへと移した。

「ソリオ様。ソリオ様や皆様のお許しが得られるのであれば、私は冒険者として『真っ直ぐコガネ』の末席に加えていただきたく思います。確かに私には皆様のように戦う力はありません。ですが、私の選別者としての能力は、必ず皆様のお役に立つでしょう」

 選別者──回復効果のある魔術である「神聖術」を唯一使える存在。

 その選別者がチームに加われば、それがどれだけ冒険の役に立つかなど考えるまでもないだろう。

 現に、スペーシアの『真っ直ぐコガネ』加入宣言に、ソリオたちは全員喜びの表情を見せている。

 だが、その喜色はすぐに色褪せることになる。

 頬を桜色に染め、その頬を両手で押さえながら。

 ちらちらとソリオを見つめるスペーシアが、次に放ったその言葉で。

「そ、それに……やはり妻たる者、夫の傍にいるべきだと思いますし……」

 かくん、と。

 『真っ直ぐコガネ』の面々の顎が落ちた。




 ぐいんぐいんとその場で腰を捻るスペーシア。

 そんな「花も恥じらう乙女」な彼女を、『真っ直ぐコガネ』は呆然と見つめていた。

 いや、彼らだけではなく、グランディス皇帝までが同じようにぽかんとしている。

「………………ちょ、ちょっと待って。その『妻』とか『夫』とか……どういう意味かな……?」

「もちろん、言葉通りの意味です……そ、その……私とソリオ様の……」

「い、いや、だから……問題はどうして突然俺とスペーシアさんが『妻』とか『夫』とか……まるで将来結婚することが決まったような言い方をするのかってことで……」

 しどろもどろなソリオ。その背後では、ポルテはきょとんとした顔をしているし、オーリスは改めてスペーシアを値踏みするように見ているし、ヴェルファイアとコルトはにしししと意味深な笑みを浮かべているし。

 結構混沌とした状況である。

 だが、当のスペーシアは意外だとばかりの表情を浮かべて。

「あら、だって私は……最早ソリオ様の元へ嫁ぐしかないではないですか」

 と、はっきりと言い切った。





 『無敵の盾』更新。


 今回、遂にスペーシアが爆発しました(笑)。

 今後は、これまでの当作に登場したような、一癖あるようなキャラになるとおもわれます。

 でも、某《聖女》様とは違う方向性にしないとな(笑)。



 では、これからもよろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ