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絶対無敵の盾  作者: ムク文鳥
隣国訪問編
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皇帝との邂逅


 ソリオたち『真っ直ぐコガネ』が一先ず案内されたのは、皇城の客室の一つだった。

 さすがに一国の頂点である皇帝が、突然市井の冒険者と正式に会うわけにはいかない。そのため、グランディス皇帝とソリオたちの謁見は非公式なものとなる。

 そのため、ソリオとグランディス皇帝との顔合わせは、謁見の間ではなく皇帝個人の私室の一つで行われることとなった。

 案内された客室で一休みしていたソリオたちは、皇帝と会う準備が整ったと呼びに来たカングーという侍従に先導され、皇城の広い廊下を歩いていく。

「……どこまで行くんだろうな? しっかし、広いなんてもんじゃねえな、この城……」

「本当ッスね。もう自分、さっきまでいた客室に戻れないッスよ? 今、一人になったら確実に迷子になる自信があるッス」

 これまでにクリノクロア伯爵やアゲート侯爵の居城に入ったことがある『真っ直ぐコガネ』だが、この皇城の広さはその二つの城よりも遥かに広大だった。

 ぼそぼそと心細そうに会話をするヴェルファイアとコルトだったが、ソリオとポルテもそれどころではない。

「す、凄いね。クリソコラ時代の美術品がこんなに……」

「こ、これ全部合わせたら幾らくらいになるのかしら……?」

 歩く廊下の所々に飾られている絵画や壷などの美術品。どう見ても相当古くて高価なものばかりだ。

 しかも、それらの美術品が実に品良く配置されている。単に金にものを言わせて買い集めたわけではなく、しっかりと調度品として最も良い見栄えのする配置が考えられていた。

 単なる成り上がりの成金などではなく、歴史のある名家であることを実感せずにはいられない。クリソコラ文明期から続く家柄というのも、思わず納得してしまう風格を感じる。

「結局、オーリスの兄貴はこの国の皇帝陛下に仕えたンスか?」

 コルトが少し前を歩くオーリスに尋ねると、彼は背後のソリオたちへと振り返った。

「グランディス皇帝に近衛にならないかと誘われ、それは断ったのですが……せめてしばらく自分の城に客分として逗留してくれないかと言われまして。私がこの城に逗留し、一時的に近衛として働く交換条件として、グランディス皇帝にはソリオ様の情報を集めてもらいました。私個人よりも一国の頂点に立つグランディス皇帝の方が、ソリオ様に関する情報も入手しやすいかと考えたものですから。もっとも、さすがのグランディス皇帝も隣の国の駆け出し冒険者のことまでは掴めなかったようで、私がソリオ様の噂を耳にしたのはつい最近でした」

 オーリスが耳にした噂は、クリノクロア伯爵の所の事件であった。屍人(ソンビ)の群れを撃退した若き冒険者たち。その中に人間族(ヒューマン)の少年がいて、その少年は失われた魔法技術である紋章術を使うと言う。

 その噂を聞いたオーリスは、その噂の真偽を確かめながら隣国であるマラカイト王国へと旅立ったのだ。

「なるほど。それであのタイミングで俺たちの前に現れたってわけか」

「はい。まさかプレジデント様の時間を超える魔術が、場所の誤差だけではなく七年もの時間的誤差が生じていたとは思ってもおらず……ソリオ様を長い間お一人にさせてしまい、誠に申し訳ありませんでした」

「それなら気にしていないって言っただろ? 幸いにもおやじやヘマタイト村の爺ちゃん婆ちゃんたちには良くしてもらったからね」

「はい。本当にスイフト殿たちには感謝しております」

「まあ、二千年に比べたら、七年ぐらいは僅かな誤差だと俺は思うぜ?」

「そうッスよね! 二千年も前なんて、自分には想像もつかないッスよ!」

「……あのね……コルトはその二千年前からずっと生きてきたでしょ?……あ、生きてはいないか。骸骨(スケルトン)だもんね」

 頭痛を抑え込むように、自分の額に指を当てながらポルテが言う。

 そして『真っ直ぐコガネ』の一同は、ポルテのその言葉を聞いて互いに顔を見合わせ、静かにくすくすと笑い合った。

 さすがに一国の中心とも言うべきこの場所では、大声で笑うのは憚られたらしい。




 侍従のカングーに案内され、ソリオたちはとある部屋の前まで来た。

 カングーが扉をノックし、「オーリス様とそのお連れの方々です」と部屋の中へと告げれば、中から年配の男性の声で「入れ」と短い返事があった。

 カングーは扉を開け、中に向かって一礼した後、その場をすっと退いてソリオたちへと場を空ける。

 慣れた様子のオーリスに導かれて、ソリオたちも恐る恐る部屋の中へと足を踏み入れる。

 部屋の中は、ソリオたちが想像していたよりも遥かに質素だった。

 調度品と言えば、テーブルや椅子、暖炉といった最低限必要なものだけ。余分な美術品や芸術品などは一切ない。

 そんな椅子の一つに、大柄な人間族の男性が座っていた。

 年齢は四十代といったところか。大柄な身体に見合ったがっちりとした体型の、迫力というか威圧感が半端ない人物だ。

「ほほう? こいつがおまえの言っていた、俺のご先祖様ってわけか?」

「そうだ。こちらのお方こそ、貴様のような傍系ではない、クリソコラ皇家直系の嫡男であらせられる、ソリオ様だ」

 ずいっと身体を前のめりにさせ、その男はじろじろとソリオを見つめた。

 無遠慮で鋭い視線が、ソリオの全身に突き刺さる。

 男性は徐ろに立ち上がった。その背丈は鬼人族(オーガ)であるヴェルファイアにさえ匹敵する。

 男性はゆっくりとソリオに向かって歩いてくる。

 ソリオは引き攣った笑みをどうにか維持しつつ、近づいてくる男性をじっと見つめていた。

 間違いなく、この男性がこのパイライト帝国の現皇帝、グランディス・インテグラ・パイライトだろう。

 そんな一国の頂点に立つ男が、厳しい視線をぴたりとソリオに固定したまま、ゆっくりと近づいてくるのだ。心の弱い者ならば、間違いなくこの場から逃げ出すだろう。

 そして、男──グランディスはソリオの目の前まで来た。身長差からソリオを見下ろすグランディスの目に、それまでとは違った種類の光が浮かんだのを、ソリオは見逃さなかった。

 次の瞬間、二人は同時に動き出す。

 グランディスが腰に佩いていた長剣を引き抜くと、そのまま抜き打ちの要領でソリオへと斬りかかる。

 だが、グランディスの剣がソリオに届くことはなかった。ソリオに届くその直前、彼の代名詞とも言うべき光り輝く盾がその刃を阻んだのだ。

「ほう? それが噂の紋章術か? だが、よく俺の抜き打ちに反応できたな?」

「オーリスから聞いていたから……いえ、聞いていましたから。きっと皇帝陛下は、俺にも同じようなことをするんじゃないかって予想してたんだ……じゃなくて、予想していました」

「なるほど……さすがは俺のご先祖様だ。なかなかやるじゃねえか」

 それまでの厳しい表情を崩し、グランディスはにやりと笑う。

「気に入った! 俺の手下になれ!」

 剣を鞘に納めたグランディスが宣言する。と、同時に、音もなくグランディスの背後に立ったオーリスの拳が、そのグランディスの脳天に直撃した。




 言うまでもなく、目の前の男性はパイライト帝国の頂点に君臨する人物である。

 そんな人物を──どれだけ性格的に問題のある人物であろうとも──、背後からいきなり殴りつけていい訳がない。

 もしもこの場にグランディスを守る近衛兵がいれば、間違いなく『真っ直ぐコガネ』はその場で取り押さえられ、遠くない未来に首と胴が別れ別れになるに違いない。

 幸いにして、部屋の中にいるのはソリオたち以外には、件の皇帝陛下とその侍従であるカングーのみ。

 カングーは部屋の隅で特に動じることなく、じっと自分の主とソリオたちのやり取りを見つめているのみ。

「お、おい、オーリスの旦那っ!! いくらなんでもそれはまずいんじゃねえのかっ!?」

 ヴェルファイアはおろおろとしながら、オーリスと頭を押さえて踞るグランディス、そして微動だにしないカングーを何度も見比べている。

「あー、気にするな、鬼人族の坊主。こいつは出会った時からこんな調子だからな」

 立ち上がったグランディスは、頭を殴られたことなどなかったかのように大笑いする。

「それよりも貴様は何のつもりだ? ソリオ様を貴様の部下にするだと? 貴様は自分の立場を理解しているのか? それよりも、万が一にでもソリオ様が怪我をしてみろ。その首、この場で叩き落とすぞ?」

「おー、恐え恐え。相変わらずご先祖様のことになると他のことは目に入らなくなるなぁ、おまえは」

 がははははと豪快に笑いながら、グランディスはばんばんとオーリスの肩を叩く。

「本来、貴様などソリオ様の足元にも及ばない、親戚と言うのもおこがましいほどの傍系なのだぞ? もしもクリソコラ帝国が健在ならば、貴様などソリオ様の臣下でしかないのだ。それを忘れるな?」

「い、いやいや、オーリスっ!! 昔はともかく、今の俺はただの冒険者だからっ!! この国の皇帝陛下が臣下だなんて絶対にないからっ!! 皇帝陛下の方がずーっと偉いからっ!!」

 あまりにも不遜なことを言うオーリスを、ソリオが慌てて窘める。そんなソリオの背後では、彼の仲間たちも真っ青な顔で──某骸骨は除く──何度も頷いていた。

「がははははははっ!! そんなに気にするんじゃねえよ、ご先祖様。公の場ならともかく、今は俺の私的な時間だ。そんなに緊張すんなって。それに、俺はこいつのことを対等なダチだと思っているんでな。ご先祖様だってダチに……例えば、後ろの鬼人族の坊主に少しぐらい殴られたって本気で怒ったりはしないだろ? それと一緒だよ」

「え? ダチって……オーリスが友達ってことですか?」

「おう、そうさ。こいつと会って以来、こいつからは昔のことを……クリソコラの時代のことをいろいろと聞かされてなぁ。クリソコラの末裔を名乗っている以上、こいつの話は興味があったしな。それよりもになによりも、俺に遠慮しないところがいい」

「当たり前だ。貴様などソリオ様から見ればただの傍系に過ぎないと言っただろう。そんな相手にソリオ様の第一の騎士であるこの私が、どうして遠慮などしなければならないのだ?」

「な? こいつは常にこの調子なんだよ。だからおもしれえんだ」

 またもや豪快に笑うグランディス。そんな現皇帝と一緒に並んでいるオーリスを何度も見比べて、ポルテは溜め息と共に両肩をがくりと落とした。

「……つまり……オーリスさんは相変わらずソリオ第一ってことなのね……」




 その後、ようやく腰を落ち着けた『真っ直ぐコガネ』とグランディス。

 改めてオーリスはソリオたちをグランディスに紹介し、グランディスは気さくにヴェルファイアたちと握手などをしたりする。

 『真っ直ぐコガネ』がこれまで経験してきた、数々の冒険譚などを語ってきかせると、グランディスはまるで子供のように目を輝かせて聞き入っていた。

「くそぅ……いいなぁ、冒険者。俺も気ままに冒険の旅とかしてみてぇ……」

 しみじみといった口調でグランディスがそう零すと、いやいや、アナタ皇帝でしょ? とソリオたちは揃って心の中で突っ込みを入れる。

 そして彼らの冒険譚は、ソリオの冒険の目的へと触れる。

「ほう。ご先祖様は嫁を探しているのか?」

「はい。俺と同じ人間族で、同じぐらいの年齢の女の子を……」

 グランディスは四角い顎をごつい手の平で撫で付けると、改めてソリオを見つめた。

「確か……ご先祖様は今、十六歳だったか?」

「そうだ。八歳の時にお父上である魔道皇の時を超える魔術で今の時代へ飛ばされ……それから、八年でございましたね?」

「うん。正確な自分の年齢を知ったのは、つい最近だけどね」

 過去の記憶がなかったソリオは、自分の正確な年齢も覚えていなかった。そのため、彼を拾って育ててきたスイフトが、だいたいこれぐらいだろうと当て推量で年齢を決めていたのだ。

「そうか……」

 そう言って、グランディスは椅子の背もたれへとその大柄な身体を預けた。

「およ? もしかして、皇帝陛下はソリオ様と同じぐらいの年齢の女の子に心当たりがおありになる? も、もしかして、皇帝陛下の娘だったりしてっ!? ってことは……ソリオ様がこの国の皇族の仲間入りっ!?」

 一人で勝手に推理し、一人で勝手に盛り上がっているのはもちろんコルトである。

「まあ……な。残念ながら、俺の娘じゃないけどな。それでも一応は皇族の端くれ……ちょっと傍系ではあるがな」

 グランディスがこう言うと、『真っ直ぐコガネ』の面々は興味を引かれたようで一斉に身を乗り出した。

「……正確に言うと、元皇族だな。今は家名を捨てて神殿で暮らしているんだよ」

「え? それってまさか……」

 皇族や王族が、未婚のまま神殿に入る例は極めて稀である。王族や皇族というだけで政治的な利用価値はあるのだ。その価値を捨ててまで神殿に入るということは、それだけの理由がある。

「その娘の名前はスペーシア。姓は神殿に入った時に捨てたので、ただのスペーシアだ。年齢は確か、今年で十七歳だったな」

 グランディスは一同の顔を見回すと、にやりと笑みを浮かべてこう続けた。

「スペーシアはな、代行者から特別な加護を受けた存在……選別者(ディバイン)なんだよ」




 『無敵の盾』更新。


 今回も更新が遅れてしまって申し訳ありません。

 そして、いよいよ本作の正ヒロインが登場しそうです。今回、名前だけ出ましたけど(笑)。

 併せて、以前にちらっとだけ出た選別者も登場。

 どなたかが感想で予想されていたように、正ヒロインは選別者として登場します。

 あ、でも、聖女とか呼ばれてはいません。聖女は他の作品で登場させたので。もっとも、最近は影で魔王と呼ばれていますが(笑)。



 では、これからもよろしくお願いします。


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