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絶対無敵の盾  作者: ムク文鳥
隣国訪問編
62/97

冒険者の墓場


 険しい山と山に挟まれた、小さな平地。そこに、その村はあった。

 その村へと繋がる街道は、細くて荒れている。小型の馬車が何とか通れるぐらいの幅しかなく、それ程人通りも多くはない街道には、雑草が所々に青々と茂っていた。

 そんな街道の途中、小高い丘の上から前方に存在するその村を見下ろしている人影があった。

 その影は全部で六つ。

 その内の一つがたたっと少し駆け出し、他の五つを振り返った。

「あれが俺が育った村、ヘマタイト村だよっ!!」

 びしっと前方の村を指差すのは、冒険者『真っ直ぐコガネ』のリーダー格であるソリオ。

 彼の言葉に、その他の『真っ直ぐコガネ』のメンバーは、興味深そうにあれこれと囁き合いながら前方の村を見やる。

 唯一、ソリオの養父にして村の住人であるスイフトだけが、村ではなく楽しそうな義息を目を細めて眺めていた。




 街道に沿って丘を下れば、目の前には僅かながらも畑が見てくる。

 畑の中にはぽつぽつと村人らしき姿も見え、彼らは農作業の傍ら、街道を歩く六人に視線を向けた。

「あれ? ありゃあ、スイフトとソリオじゃねえか?」

「んー、どれどれ? あ、本当だ。スイフトとソリオだ」

 ソリオたちに気づいた農夫たちが、親しげな笑顔と共に手を振る。

「うぉーい、ソリオー! もう嫁を見つけて帰ってきたのかー?」

「違うよ、じっちゃん。俺の戦旗(バトルフラッグ)が壊れちゃったから、直しに来たんだ」

「なんでい、そうかい。てっきり後ろの森妖族(エルフ)の娘っ子が、おまえの嫁かと思ったんだがなぁ」

「あはは。違う違う。コルトは冒険者仲間だけど、嫁じゃないからね」

 ソリオと村の住民たちが、楽しそうなやり取りを交わすその後ろで。

 件の森妖族の娘っ子が、なぜかその身体をくねくねとくねらせていた。

「いやぁ、照れるッスな。もしかして、あっしとソリオ様はお似合いの二人なんスかね?」

 ぐふふふふ、と儚げな外見とは(そぐ)わない笑いを零すコルト。ヴェルファイアとポルテは「また始まった」とばかりに完全に無視していたが、それを無視できない者が一人いた。

 その者は背後からコルトの小振りな頭蓋骨──まさに頭蓋骨──をがっしと片手で握ると、そのままぷらーんと持ち上げてぎりちぎちと頭蓋骨を握り締めた。

「…………骸骨(スケルトン)の分際で……調子に乗るなよ……? 貴様がソリオ様の伴侶を名乗るなど片腹痛い……」

「あ、い、いや、あ、あのね、オーリスの兄貴? じょ、冗談ッスよ、冗談。あ、あっしは忠実なるソリオ様の子分であって、伴侶なんてそんな畏れ多いことは考えてもいないッスから……っ!!」

 オーリスに片手でぷらーんと釣り下げられたコルトは、見えない背後に向かって必死に弁明する。

 最初は、オーリスもコルトのことをソリオの恋人か何かでは、と疑ったこともある。

 少なくとも、見た目は儚げな美少女であるコルト。オーリスも外見的にはソリオに相応しいと思っていたが、彼女の正体を聞いた瞬間そんな考えは霧散した。

 彼もまた、始めはコルトが骸骨であることを信じられなかった。コルトが幻覚の指輪を外してその正体を露にした時、大きな口をあんぐりと開けて驚いたものである。

 クリソコラ文明時代の騎士である彼も、ここまで感情豊かな骸骨など見たことはなかったのだ。

 以来、オーリスはコルトを自分と同じ──でも、自分よりは格下な──ソリオの部下として扱うようになった。

 ちなみに、ヴェルファイアとポルテはソリオの友人として、また冒険者仲間としてオーリスも一目置いているらしい。

 そんな仲間たちと一緒に、ソリオは久しぶりに故郷とも呼べる村へと足を踏み入れたのだった。




「これはまた、随分と痛んどるな」

「どう、じっちゃん? 直りそう?」

 ソリオの戦旗を前にして、人馬族(ケンタウロス)の老人は渋い顔で腕を組んだ。

「無論、直せないことはない。だが、直すのに五日か六日はかかるな」

「そっか。お願いできる?」

「任せておけ。他ならぬ弟子の頼みだ。師匠として受けないわけにはいかんよ」

 にやりと男臭い笑みを浮かべて、人馬族の老人はソリオの戦旗の修理を請け負った。

「それで……修理の費用の方ですけど、お幾らですか?」

 恐る恐ると言った感じでそう尋ねたのは、ソリオの肩の辺りをふわふわ飛んでいるポルテだ。

 『真っ直ぐコガネ』の財務担当としては、ここでの出費が気にかかるのだろう。

「あははは。安心せい、小翅族(ピクシー)の嬢ちゃん。師匠が弟子から金を取るなんて恥ずかしい真似はできんでな。ソリオの戦旗の修理はタダで構わんぞ」

「本当ですかっ!?」

 ぱっと笑顔を浮かべるポルテを、人馬族の老人は嬉しそうに眺める。それはまるで、孫娘を可愛がる祖父のようだった。

「じゃあ、じっちゃん。お願いするね」

「うむ、任せておけ。直ったらお前の家に届けるでな」

 戦旗の修理を快く請けてくれた老人の家を後にしたソリオとポルテ。二人は連れ立ってゆっくりとヘマタイト村の中を歩く。

 村のあちこちですれ違う住民たちは、皆笑顔でソリオとポルテに声をかけてくる。どうやら、ソリオが冒険者仲間と共にこの村に帰ってきたことは、既に村中に広まっているようだ。

「でも……本当に以前聞いた通りの村ね」

 村の中を見回しながら、ポルテが感心しているのか呆れているのかよく分からない風に呟く。

「だろ? 俺もよく知らないけど、どういう訳かこの村は年寄りばかりが暮らす村なんだ」

 村の中を通り過ぎる人、畑で農作業をする人、親しげにソリオたちに声をかけてくる人。種族は様々だが、皆一様に年配の者たちばかりだった。

 以前、ソリオとポルテが初めて出会った時に、ソリオが自分の出身の村は老人ばかりだと言っていたが、実際にここまで老人ばかりだとはポルテも思っていなかった。




 ソリオとポルテがソリオの育った家であるスイフトの家の近くまで来た時、村の中を散歩していたヴェルファイアとコルトと丁度合流した。

 ちなみに、オーリスは家の中でスイフトに質問攻めにあっている。

 クリソコラ文明期の研究者であるスイフトにとって、クリソコラの時代をよく知るオーリスは生きた財宝に等しい。

 オーリスもソリオを育ててくれたスイフトの頼みとあって、断るに断われなかった。本心を言えば、オーリスもソリオと一緒に行動したかったに違いない。

「よう、ソリオ。本当にこの村は爺さん婆さんばかりだな!」

「一体、どういう村なんスか、ここ?」

「でも、いい人たちばかりだけどな」

「そうッスね。余所者のはずのあっしらにも、昔からの住民みたいに接してくれるッスよね」

「ここの者たちは皆大らかだからな。それに、ソリオの冒険者仲間だと知っているから余計だろうな」

 そう言いながら家の中から出てきたのは、ソリオの養父であるスイフトだ。その背後には、少し疲れた顔のオーリスの姿もある。

「ただいま、おやじ。オーリスの話はどうだった?」

「いや、実に興味深い。まさか、クリソコラの時代の人間と直に話ができるとは思わなかった」

 疲れた顔のオーリスとは正反対に、スイフトの顔は実に満ち足りたものだった。

 帰って来たソリオたちを出迎えたスイフトたちは、共に家の中に戻る。

 それ程大きな家ではないが、それでも『真っ直ぐコガネ』全員を受け入れることができた。

「なあ、ソリオのおやじさん。どうしてこの村はこんなに年配の御仁ばっかりなんだ?」

「それはな、ヴェルファイアくん。この村は別名『冒険者の墓場』と呼ばれているからだ」




 冒険者とは、自らの身体と技術を資本に、時に膨大な財宝を見つけ出す者たちである。

 もしくは、冒険を通して手に入れた名声を以て、貴族や国に士官する者もいる。

 だが、当然ながら全ての冒険者が成功するわけではない。その多くは怪我などで引退を余儀なくされるし、冒険中に命を落とす者も少なくはない。

 だが、冒険者の中にはその一生を冒険者で終える者もいる。

 組織に属することを嫌い、自由を一生の友と選んだ者たち。何よりも自由を愛する永遠の自由人たる冒険者。

 しかし、そんな者たちでも、老いという運命からは逃れられない。

 自由と冒険を何より愛しながら、年齢を重ねて衰え冒険を続けたくても続けられなくなった冒険者の一人が、同じように年老いた冒険者たちにとある提案した。

「我々が長い歳月をかけて培った技術を用いて、辺境の開拓を最後の冒険としようではないか。例え年老いたとはいえ、長年培ってきた技術や蓄えた知識は無駄ではない。それらを用いて、新たな村を作ろう」

 その提案に同意した数人の老冒険者が、領主──先代アゲート侯爵──の後援を受けて、開拓を開始した。

「──それがこのヘマタイト村という訳だ」

 スイフトの説明を、『真っ直ぐコガネ』の面々は黙って聞いていた。

「その後もこの村の噂を聞き、年老いた冒険者たちがこの村に集まるようになった。それゆえ、ここは『冒険者の墓場』などとも言われている」

「じゃあ、おやじはどうしてこの村に?」

 義息の質問に、スイフトは穏やかな表情を浮かべる。

「私がこの村に居着いた理由は、一人の賢者を訪ねたのが切欠だった」

 冒険者をしていたスイフトは、冒険を通じてクリソコラ文明期の文化に魅了されていった。かの文明の文化を研究する内に、同じようにクリソコラ文明の研究をしているとある賢者がいると聞き、その賢者をを訪ねたことがあった。

 その賢者が当時暮らしていたのが、ここヘマタイト村である。

 その後、冒険者を引退したスイフトは、その賢者と共にクリソコラの研究をするためにこの村に移り住んだ。

「私にとっては師にも等しい人だったが、丁度ソリオと出会う少し前に、天寿を全うして神の元へと旅立ったよ」

「そんなことがあったんだ……俺、その話初めて聞いたよ」

「そうだったか?」

 そんな親子のやり取りを余所に、ヴェルファイアたちもようやく納得したという表情を浮かべていた。

「なるほどなぁ。随分とソリオが冒険に必要な技術にあれこれと精通していると思ったら……」

「……引退した冒険者である、この村のお爺ちゃんやお婆ちゃんたちに教わっていたからだったンスね」

「村の人たちが私たちに親しみを持ってくれたのも、私たちが冒険者だからだったのね」

 引退した冒険者である村人たちにとって、現役の冒険者であるヴェルファイアたちは孫のようなものなのだろう。

 だから村人たちは、ソリオの冒険者仲間である彼らに親しく接してくれたのだ。

「でも、引退した冒険者が集まる村なんて、すぐに噂になるんじゃないッスかね? あっしら、そんな噂聞いたこともないッスよ?」

「引退した冒険者とはいえ、それ程高い名声を得た者はこの村にはいないからだろうな。冒険者として高い名声を受けた者は、大抵は国や貴族に士官するか、冒険者の店の店主となって後輩たちの指導をする立場となる者が多い。冒険者としての名声は得ていないが、高い実力を誇った者たち。そんな者たちがこの村には集まるようだ」

 決して有名ではなくとも、高い技術や深い知識を持つ冒険者はいる。

 そんな冒険者が冒険から身を引いた時、ヘマタイト村の存在を聞きつけてこの村へとやって来る。そのため、どうしたってこの村には高齢者が多くなるのだった。

 無論、冒険者の中には結婚して家庭を築く者も多い。そんな家族を持つ者たちはこの村へはやって来ないだろう。それため、この村では新たな子供が生まれるようなこともないのだ。

 そのことが、この村が老人ばかりの村となっている理由だった。

 冒険者の墓場。天国に最も近い村。

 それがソリオの故郷である、ヘマタイト村だった。



 『無敵の盾』更新。


 ようやく更新できました。予定では先週中に更新するつもりでしたが、いろいろとあって遅くなってしまいました。

 そんな訳で、ソリオの里帰りでした。彼の故郷に関しては、物語の冒頭でちらっと出てきただけなので、すっかり忘れている人も多いのではないでしょうか。

 これでソリオがあれこれと技術や知識を持っていた伏線を回収できました(笑)。

 さて、次回はいよいよ隣国へ入ります。


 では、これからもよろしくお願いします。


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