表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
絶対無敵の盾  作者: ムク文鳥
妖女覚醒編
49/97

光り輝く盾


 大空を高速で飛び交いながら、戦槌(ウォーハンマー)幅広剣(ブロードソード)がマンティコアの身体にダメージを刻み込んでいく。

 今もまた、加速したコルトが一直線に宙を駆け抜け、マンティコアの獅子の右前脚に刺突を繰り出した。

 高速で飛翔するコルトの一撃は、さすがのマンティコアでも躱すのは難しい。咄嗟に身体を捻ったものの、コルトの幅広剣の刃がマンティコアの脚を斬り裂いた。

 ぱっと空中に真紅の花が咲く。

 まさに獣のような苦悶の声を上げながら、マンティコアは突撃した勢いで離れていくコルトに怨嗟に満ちた目を向けた。

 既に爪や尻尾の攻撃圏内から離れたコルトに、マンティコアは炎を吐きかけようと大きく息を吸う。

 しかし、それを隙と捉えたヴェルファイアが、巨大な戦槌を振りかぶりつつ横から突撃を敢行する。

 マンティコアの巨体とすれ違う一瞬、ヴェルファイアの戦槌がマンティコアの頭部を確かに捕えた。

 どぱん、という派手な炸裂音と同時に、マンティコアの巨体がぐらりと空中でバランスを崩す。

 だが、強靭なマンティコアの肉体はこの一撃に絶え抜いて体勢を整え、なんとか墜落を免れる。

 コルト同様、ヴェルファイアもその間にマンティコアの攻撃圏内から離脱する。

 速度と小回り。機動性で完全にマンティコアを上回っている『真っ直ぐコガネ』は、空中戦では圧倒的に有利に戦闘を展開していた。




 一撃離脱。

 それが今、『真っ直ぐコガネ』が用いている戦法だ。

 以前から空中戦の訓練を行っていた彼らは、紋章術で空を飛びながら戦闘する際に、大きな問題があることにすぐに気づいた。

 それは、空中では下半身のふんばりが効かないことだ。

 当然ながら、空中では姿勢を安定させることは難しい。地面に足を着けていないので、下半身でふんばることができない。

 通常、地上での戦闘では、下半身は重要な役割を果たす。武器を用いて攻撃する際、踏み込みや腰の捻りは攻撃効果に大きく影響するし、敵の攻撃を受け止める時も下半身が強靭であれば、その攻撃に吹き飛ばされることもない。

 その下半身の力が、空中戦では活かすことができない。

 そこでソリオたちがあれこれと考えた結果、行き着いた答えがこの一撃離脱だった。

 紋章術による高速飛行で一気に間合いを詰め、一撃与えた後はそのまま速度を活かして離脱する。

 要は、速度を下半身のふんばりの代りにしようというものだ。

 取れる戦術はどうしても狭くなるが、遮るもののない空ではこの高速による一撃離脱は極めて有効だった。

 相手が何らかの遠隔攻撃を有していたり、交差戦法(カウンター)を狙ったりと対応策も多いが、『真っ直ぐコガネ』にはソリオがいる。彼が適宜敵の攻撃を完全に遮断してしまうため、ヴェルファイアやコルトは攻撃に専念できる。それが一撃離脱をより効果的なものにしていた。

 現に今、『真っ直ぐコガネ』はこの一撃離脱によって、マンティコアを完全に翻弄している。

 接敵した一瞬で効果的な攻撃を繰り出しながら、ヴェルファイアとコルトは改めてソリオの紋章術──それも防御の威力に感謝した。

 彼の造り出す盾がなければ、ここまで攻撃に専念することはできないのだから。

 マンティコアから少し離れた空中に浮かびながら、適宜紋章術を展開するソリオの姿をヴェルファイアとコルトは横目でありながらも頼もしそうに見る。

 まさに「要」。

 ソリオは『真っ直ぐコガネ』というチームとって、様々な意味で要となる存在だった。




 自分の周囲をぶんぶんと飛び交う羽虫に、(じゅう)の女王は激しく苛立っていた。

 こちらの爪や牙が届かない遠方から、高速で近付いては攻撃を繰り出し、再び遠方へと逃げていく羽虫ども。

 近付く瞬間を狙って爪を繰り出しても、羽虫の背後に控えた御子が紋章術で盾を造り出し、こちらの爪を阻んでしまう。

 爪に代わって炎を吐き出そうとも、やはり結果は一緒。御子は紋章術の展開が極めて早く、また、状況を正確に把握しつつ、こちらの攻撃に合わせて効果的に紋章術を展開してくる。

 このままではじり貧だ。

 彼女とて、膨大な魔素を体内に宿しているが、決して無限ではないのだ。

 最大の誤算は、羽虫どもが虫よろしく飛べるとは思いもしなかったことだろう。羽虫どもが空さえ飛べなければ、逆に自分が一方的に攻撃したいたはずなのだから。

 その事実に、獣の女王はがちがちと牙を鳴らす。

 そんなことを考えている内に、再び羽虫──雌の方──が高速で近付いてきて、手にした剣で彼女の前脚を斬り裂き、そのまま速度を活かして遠ざかって行った。

 既に羽虫の雌は遠く離れ、とてもではないが爪や尻尾は届かない。

 ならば、と炎を吐くために大きく息を吸い込む。

 と、炎を吐き出すより早く、今度は雄の方の羽虫が近付いてきて、彼女の側頭部に一撃を入れていった。

 側頭部に走った強い衝撃に、ぐらりと彼女の巨体が空中で傾ぐ。

 何とか翼を打ち震わせて落下だけは免れるものの、このままでは彼女の方が先に力尽きるのは間違いないだろう。

 ふと地上へと目を向ければ、彼女が生み出した巨猿たちはいつの間にか全て倒されており、地面に貼り付いた大勢の虫たちが腕を振り上げて喝采を上げている。

 もちろん、虫たちが喝采を向けているのは彼女ではない。彼女の周囲を忌々しく飛び交う虫どもに、だ。

「鬱陶しい地虫どもが……狩りの獲物として今しばらくは生かしておいてやろうかと思うたが……もう、煩わしいだけよの」

 自分の周りを飛び交う羽虫よりも、まずはざわざわと煩い地虫どもを焼き尽くそう。

 だがそのためには、まずは羽虫の方を一時的にでも遠ざけねばならないだろう。

 そうしなければ、何かと目敏いあの御子のことだ。地上の虫を狙う隙をしっかりと突いてくるに違いない。

 さて、どうやって羽虫を遠ざけたものか。

 纏わり付く二匹の羽虫をあしらいながら、獣の女王はあれこれと思案する。

 だが、その機会はすぐに訪れることになる。羽虫たちの方から、一時的に遠ざかってくれたのだ。




 不意に、空を飛翔する速度が低下したのを、ヴェルファイアとコルトははっきりと自覚した。

 二人には、それが何を意味するのか分かっていた。ソリオが施してくれた〈飛翔〉の紋章術の、持続時間が切れかかっているのだ。

「ソリオっ!!」

「分っているっ!! 一旦獣の女王から離れてっ!!」

 ソリオの指先が宙を踊り、すぐに今までよりも二回りは大きな盾を造り出した。

 獣の女王から離脱したヴェルファイアとコルトは、その巨大な盾の影へと急いで逃げ込む。

 巨大な盾は、〈飛翔〉の紋章術を再度かけ直す間の一時的な障壁だ。炎と物理の両方に対処可能だが、その反面強度はそれほどでもない。獣の女王の攻撃を一度防げば砕け散ってしまうだろう。

 だが、それで充分なのだ。一度だけ攻撃を防いでくれれば、その間に〈飛翔〉の紋章術をかけ直せばいいのだから。

 ソリオの指が再び〈飛翔〉の紋章(ルーン)を描く。三人の身体に紋章が浸透するように紋章が消えると、三人は再び飛行の力を取り戻した。

「ソリオ様、魔素の方はまだ大丈夫ッスか?」

「うん、再充填した魔水晶が大量にあるからね。まだまだ大丈夫だよ」

 ソリオは腰にぶら下げた布袋をじゃらりと鳴らす。

 その中にはソリオが言うように、彼が魔素を再充填した魔水晶が大量に入っている。その内のいくつかは既に空になっているが、余程大きな紋章術を発動させない限りまだまだ余裕はある。

「おっし、じゃあ、もうひとふんばりいくとするか!」

 ヴェルファイアが気合いを入れたその時。

 ソリオは、輝く盾の向こうで獣の女王が地上に向かい、大きく胸を反らせていることにようやく気づいた。

「まずいっ!! 地上に向かって炎を吐くつもりだっ!!」

 ソリオは慌てて盾の影から飛び出し、そのまま最高速度で獣の女王へと飛翔する。

 飛翔しながら地上の様子を確認すれば、地上にいるアゲート侯爵とその配下の兵士、そして冒険者たちは空にいる獣の女王へと罵声を投げかけている。どうやら、獣の女王が地上に向けて炎を吐こうとしていることに気づいていないようだ。

 中には獣の女王に向けて、矢や魔法を放っている者もいるが、それらは大した効果を挙げてはいない。

 そして、アゲート侯爵を初めとした何人かが、獣の女王の意図に気づく。

 慌てて逃げ出す者、更に攻撃を加える者など、ばらばらに行動し始める冒険者たち。

 だが、それでも獣の女王の行動を阻むことはできなかった。

 大きく限界まで胸を反らせて、獣の女王は息を吸い込む。

 その大きな予備動作が、これまで以上の威力の炎を吐こうとしていることを物語っている。

 ソリオは必死に飛びながら、指先でいくつもの紋章を描いていく。

〈対炎〉〈対炎〉〈対炎〉〈対炎〉

〈広範囲〉〈広範囲〉〈広範囲〉〈広範囲〉

 同じ効果の紋章を、いくつもいくつも描く。紋章術は同じ効果の紋章を重ねることで、威力を高めたり効果範囲を広げることができる。

 ただし、消費する魔素も重ねる数に比例して増えるので、無限に効果を拡大することは不可能なのだが。

 そして、激しく息を吸い込む獣の女王の呼吸音が、ぴたりと止む。

「間に────────」

 大きく反っていた身体を勢いよく元に戻しながら、剣呑な牙が生えそろった口から真紅の奔流が迸った。

「────────合えええええええええええええええええええええええええええっ!!」

 上空から流星のように降り注ぐ真紅の炎。

 その炎と地上の間に、ソリオの身体が飛び込んでいく。

 背後でヴェルファイアとコルトが何か言っている。地上でもアゲート侯爵や冒険者たちが何かを叫んでいる。

 だが、それらの言葉はソリオの耳に届かない。彼は一心不乱に──まさに真っ直ぐコガネのように一直線に空を翔る。

 獣の女王の口から放たれた劫火は大きく大きく広がり、怒涛のように地上へと迫る。

 空から赤い津波が地上を飲み込もうと迫った時。

 地上にいたアゲート侯爵、兵士、冒険者、そしてコーラルの街に住む住民たちは見た。




 街を真紅から守るように展開された、光り輝く巨大な盾を。



 『無敵の盾』更新。


 な、なんとか年内の更新が間に合った。

 これにて、年内の連載中のものの更新は全て終わりました。

 続きは来年っ!!


 本年中に『無敵の盾』に目を通してくださった全ての皆様、本当にありがとうございました。

 来年もよろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ