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絶対無敵の盾  作者: ムク文鳥
生立編
20/97

旧友

 コーラルの街の目抜き通りを、ソリオとスイフトは肩を並べて歩いていく。目的地はもちろん、スイフトの知り合いだというヴォクシーという人物の元である。

 その少し後ろには、ポルテやヴェルファイア、コルトの姿もある。スイフトがソリオの仲間も一緒にと誘ったからだ。

「でも、よくおやじは俺が「幸運のそよ風」亭にいることが分かったよね?」

「ああ、それなら、村に出入りしている行商人から聞いたのだ。おまえには「幸運のそよ風」亭を勧めたから、そこにいる可能性が高い、とな」

「あ、なるほど」

 田舎の村から出てきたソリオが、コーラルで最初に訪れた冒険者の店が「幸運のそよ風」亭である。彼がそこを選んだ理由は、養父が言ったように顔見知りの行商人に勧められたからだった。

「それより……」

 スイフトは、後ろからついてくる『真っ直ぐコガネ』を肩越しに見ると、再び横を歩く義息(むすこ)へと目を向けた。

「村から出てまだどれだけも経っていないというのに、もう嫁を見つけたのか。おまえがそんなに女に手が早かったとは……父さん、全く知らなかったぞ?」

「へ?」

 きょとんとした表情で、養父の顔を見上げるソリオ。

 スイフトは森妖族(エルフ)の中ではかなり長身で、今のソリオよりも身長が高い。そのため、ソリオがスイフトの顔を見ようとすると、どうしても見上げなければならない。

「とぼけるな。あの森妖族の娘のことだ。見た目もかなりの美人だが、性格もしっかりしていてなかなか良さそうな娘じゃないか」

 そういえば、コルトが養父に対して、何か場違いな挨拶をしていたっけ。

 そのことを思い出して、ソリオは顔を真っ赤にして慌てた。

「ち、ち、違……っ!! コルトはそんなんじゃないってっ!!」

「そうなのか? 先程あの娘から末永くよろしくお願いしますと言われたから、てっきりそうだと……ん? そう言えば、奴隷とかなんとかとも言っていたな……」

 スイフトは義息の顔をじっと見つめる。その視線は、先程までの穏やかなものではなく、じっとりとした生暖かいものだったが。

「西の隣国のパイライト帝国では奴隷制度が認められており、他国の者でも奴隷を買うことができるが……ソリオ。おまえも若いからそういうことに興味があるのは仕方ない。だが、奴隷を買ってまでとは少々感心できんな」

「だから違うってばっ!! あいつは──コルトは本当にそんなんじゃないんだってっ!! そもそも、俺に奴隷を買う金なんてないよっ!!」




「仲、良さそうッスね、ソリオ様とお義父様」

「そうね」

「そうだな」

 少し離れた所を歩く親子の後ろ姿。

 ヴェルファイアたちはそれを、微笑ましげに見つめながら歩いていた。

 今、その二人は何やら言い合っているようだ。周りが騒々しくて何を言い合っているのかまでは分からないが、決して険悪な様子はなく、逆に仲が良いからこそ遠慮なく言い合っている、そんな感じだ。

「……血の繋がりなんてなくても、父子(おやこ)なんだな、あの二人は」

 ソリオの養父が、高名な(つるぎ)の賢者・スイフト・ジェダイトであると知った時は確かに驚いた。

 だが、こうして見ていると、二人はどこにでもいる普通の父子と大差はない。

 三人は、ああして気軽に言い合える父親のいるソリオを、少し羨ましく思う。

 ポルテとヴェルファイアは同じ孤児院で育った孤児同士。二人は親の顔も知らない。

 コルトも物心ついた時には既に奴隷だった。父と母のことは朧気にしか覚えていないが、以前に主人だった人物から聞いたところによると、両親もまた奴隷だったらしい。奴隷同士の間に生まれたコルトは、生まれながらの奴隷であった。

 だから、血の繋がりはなくても父がいるソリオを、少しだけ羨ましく思う。でも決して妬ましくはない。彼らの心はそれほど弱くはないのだ。

「……何、言い合っているンスかね?」

「さあ? でも、きっとくだらないことよ」

「そうだな。父子だからな」

 少し前で言い合いをしながら歩く二人の背中を、三人は微笑ましげに見つめながらその後をついて行った。




 やがて、目的地と思われる場所に到着した。

 その場所を、スイフト以外の『真っ直ぐコガネ』はあんぐりと口を開けたまま呆然と見上げた。

「お、おやじ……ほ、本当にここで間違いないのか……?」

「ああ、間違いない。ここがヴォクシーの家だ」

 スイフトにそう言われ、『真っ直ぐコガネ』は再び目の前に(そび)える建物を見上げる。

「…………家、じゃなくて城だろ、これ……」

 目の前の建物を見上げ、ヴェルファイアが呆然としたまま呟いた。

 そう。それは確かに城だった。しかも、その城が聳えるのはコーラルの街の北端部。隣接するモルガナイト湖の湖畔に程近い場所。

 すなわち。

 この城は、コーラルを含むこの地方を治める領主、アゲート侯爵の居城に他ならないのだ。

 当然、コーラルで生まれ育ったポルテとヴェルファイアは、ここが領主の居城であることを知っている。尤も、知っているだけで、これまで近づいたことさえなかったが。

 『真っ直ぐコガネ』が呆然としている間に、スイフトは門番と覚しき兵士に声をかけていた。

「失礼。私はスイフト・ジェダイトという者だが、領主殿に呼ばれて参じた。取り次ぎを願う」

「剣の賢者、スイフト・ジェダイト様ですね? アゲート閣下より聞き及んでおります。とうぞ、こちら。ところで、後ろの者たちはスイフト様のお連れでしょうか?」

「ああ。私の義息とその仲間の冒険者たちだ。彼らも一緒に領主殿に目通りしたい。構わないかね?」

「では、閣下に確認して参りますので、少々お待ちいただきたい」

 言われた通りにしばらくその場で待っていると、先程の兵士が城の中から戻ってきた。

「閣下が皆とお会いになるとのことです。ご案内致しますので、私についてきてください」

 そう言って背中を見せる兵士に続き、城の中へと慣れた様子で足を踏み入れるスイフト。

 ソリオを含めた『真っ直ぐコガネ』は互いに見つめ合った後、意を決して剣の賢者と呼ばれるソリオの養父の後に続いた。




 一行が通されたのは、執務室と覚しき場所だった。

 その執務室の中で彼らを待っていたのは、上等な衣服に身を包んだ一人の薄緑の鱗を持った大柄の蜥蜴族(リザードマン)だ。

 鬼人族(オーガ)であるヴェルファイアよりも、頭一つ以上は大きい。その身長は優に二メートルを越えるだろう。

 その蜥蜴族は、ソリオたちが部屋に入ってきたのを見ると、その大きな口をにぃぃぃと横に歪めた。どうやら、笑っているらしい。

「おう、スイフト! しぶとく生きていたか?」

「ああ。おまえに呼ばれたから、こうしてわざわざ足を運んでやったんだ。感謝しろ」

 二人は互いに憎まれ口を叩き合うと、次にどちらからともなく笑みを浮かべ、がっしりと右手と右手を握り合う。

 そして、縦長の瞳孔をもつ蜥蜴族の瞳が、スイフトの後ろにいたソリオへと向けられた。

「坊主! おまえも達者のようだな!」

「ヴォクシーのおじさん……だよね? おじさんって領主様だったの?」

「ありゃ? 言っていなかったか? それでも、養父(おやじ)から聞いたことぐらいあるだろ?」

 コーラルの街を含めたこの地方の領主、ヴォクシー・アゲート侯爵の言葉に、ソリオは黙って首を横に振った。

「おいおい、スイフト。俺がどこの誰だかぐらい、義息に話しておけよな」

「そんな必要はあるまい。おまえの地位がなんであろうが、おまえが我が親友(とも)であることは変わらないのだ。だから、ソリオにはおまえは私の友人だ、とだけ説明したのだ」

 表情の読みにくい蜥蜴族の顔が、ソリオたちから見てもきょとんとしたのが分かった。

 その顔が、徐々に横へ伸びるように歪められる。それが蜥蜴族の喜びの表現だと、付き合いの長いスイフトだけは知っていた。

「おまえって奴は……本当、変わり者だよな」

「当たり前だ。おまえの親友(とも)なのだからな」

 ヴォクシー・アゲート侯爵は喜びの表情を消さぬまま、部下に酒を持ってこいと弾むような声で告げた。




「なあ、ソリオ。おまえって領主様と知り合いだったのか?」

「うん。養父(おやじ)の友達ってことで、時々家に遊びに来てたからね」

 尤も、おじさんの家に来たのはこれが初めてだけど、とソリオは続けた。

「じゃあ、ソリオはヴォクシー様がここらの領主様だとは本当に知らなかったのね?」

「確かに以前におじさんが遊びに来た時に、『実は俺は偉い侯爵様なんだぞ』って言っていたことはあったけど……あの時は養父(おやじ)もおじさんも随分と酒を飲んでいたからね。酒が入った時のおじさんの言葉は、八割が嘘だから適当に聞き流せって養父(おやじ)がいつも言っていたし」

 そもそも、辺境の田舎の村をたった一人で尋ねてくる人物が侯爵であり領主であるなど、普通は思いもしない。

 そんなことを話しながら、『真っ直ぐコガネ』は昔話で盛り上がる旧友たちを、酒宴の準備が整ったと使用人が知らせにくるまでぼけっと眺めていた。




 さすがに執務室で酒宴を催すわけにはいかず、場所を客間の一つに移動したソリオたちは、そこに用意されていた豪華な料理に目を輝かせた。

「さあ、遠慮はいらない。これは旧友と義息、そしてその義息の仲間たちを招いた私的な宴だ。礼儀だとか作法は気にしなくていい。思う存分、食って飲んでくれ! その代わりと言ったらなんだが、おまえたちの冒険譚を酒の肴に話してくれよ?」

 領主の館ということもあり、最初こそ遠慮していた『真っ直ぐコガネ』だったが、領主の気さくな人柄を知るにつれ、徐々に美味い食事と酒を楽しみ出していく。

 そして、言われた通りにこれまでの冒険を、スイフトとヴォクシーに話していった。

 コーラルの街の地下に広がる地下道。

 『最初の一歩の遺跡』で見つけた未踏の地下部分。

 そこでの冒険譚を、『真っ直ぐコガネ』はそれぞれ口々に、楽しそうに話していく。

 その際、コルトの正体についても包み隠さず話しておいた。スイフトとヴォクシーならば、コルトの正体を知っても悪いようにはしないとだろうと考えて。

 幻覚の指輪を外し、正体である骸骨(スケルトン)の姿を露にしたコルトを見た時、さすがのスイフトとヴォクシーもかなり驚いたようだ。

「……俺も今までに骸骨はたくさん戦ってきたが……喋る骸骨は初めて見たぜ」

「……うむ、実に興味深い。クリソコラ文明期には、このような不死者(アンデット)が他にもいたのだろうか? これまでどの文献にも見かけたことはないが……」

 スイフトとヴォクシーは、興味津々といった眼差しで骸骨となったコルトを観察する。

 特にスイフトは学者ということもあり、コルトを見つめる視線は異常に熱を帯びていた。

 そんな視線を受けて、コルトは骸骨の姿──ちなみに服は着ている──のまま、ぶるりと身悶える。

「ああ、熱い視線があっしの身体に突き刺さる……やっぱりあっしは罪な女なのね……」

「いや、コルトには突き刺さるような肉、ないから」

 いやいやと顔の前で立てた右手を左右に振るソリオ。そんなソリオの冷静な突っ込みに、他の面々は楽しそうに笑い声を上げた。



 『無敵の盾』二日連続で更新。


 今回の「生立編」も、予定ではあと一回ぐらい。

 生立編と銘打っておきながら、それほど主人公の生い立ちは明らかにされておりませんが。


 さて、次章は「吸血姫護衛編」を予定しております。。

 吸血族の令嬢の身辺警護を、『真っ直ぐコガネ』が請け負うお話。

 今、考えている吸血族──ヴァンパイアですが、ちょっと変わった生態にしようかと。おそらく、今まで誰も考えたことのない、全く新しいヴァンパイアではないかと自負しております。(←本当か?)


 次話は来週の更新になりますかね?


 では、次回もよろしくお願いします。



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