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三つ子の次女だけは見分けられる俺、居候したら長女と三女にも迫られる  作者: MUHIRO


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第8話 - 暗い部屋での誤解

スマートフォンの着信音で目が覚めた。

画面には『白石 紬』と表示されている。

時刻を確認すると、午前九時だった。


何とか通話に出ると、紬の焦った声が聞こえてきた。


『もしもし!織くん、大丈夫!?』


紬の心配そうな声さえ、頭に響いて痛かった。


「大丈夫かどうか分からない……頭も喉も痛い」


『分かった。すぐ行くね。本当に危なそうだったら、救急車を呼んでね』


通話を終えてから、もう一度水を飲んだ。


次に意識がはっきりしたのは、インターホンの音が聞こえたときだった。

水を飲んだところまでは覚えているが、そのあと、いつの間にか眠ってしまったらしい。


壁に手をつきながら、何とか玄関までたどり着く。

扉を開けようとしたところで、紬が勢いよく扉を開いた。


その拍子に体勢を崩し、倒れそうになる。

すぐに紬が腕を伸ばし、俺の体を支えてくれた。


「織くん、大丈夫!?体、すごく熱いよ!」


「……そっか。……とりあえず、上がって」


紬に支えられながらリビングへ戻り、ソファに座らされた。


「今日、日曜日だから、近くの病院はお休みかも。とにかく調べるから、先に熱を測って!」


紬から体温計を渡され、脇に挟んで測ってみた。


四十度ちょうど。


「熱、だいぶ上がってるじゃん……。どうしよう。どうすればいいんだろう……」


紬は体温計の表示を見つめたまま、不安そうにつぶやいた。


「とにかく、ゼリーを食べて。そのあと薬を飲んでね。その間に病院を調べてみるから」


紬からゼリー飲料を渡された。

一口飲んでみたが、ゼリーの塊が喉を通るたびに痛みが走る。


その様子を見ていた紬は、何も言わずにゼリー飲料を受け取り、容器を何度か揉んだ。

再び渡されたものを飲んでみると、塊がほとんどなくなっていて、さっきよりもずっと飲みやすかった。


何とか全部飲み干し、薬を飲んでからベッドに横になった。


紬は今日も買い物をしてきたらしい。

袋から氷枕と氷を取り出し、クーラーボックスらしい銀色の箱からは冷却シートを出していた。


「織くん、頭上げられる?」


返事をするのもしんどくて、黙ったまま少しだけ頭を持ち上げた。

すると、頭の下にひんやりとした氷枕が差し込まれた。


「次は首の左右と両脇に冷却シートを貼るね。ごめん、スウェットをめくるよ」


紬の手がスウェットに触れたところで、思わずその手を止めた。


「……ごめん。恥ずかしいから自分でやる。少し向こうを向いててくれる?」


紬は何も言わず、台所の方へ歩いていった。

その間に、首の左右と両脇に冷却シートを貼った。


ひんやりとした感触が心地よく、少しだけ体が楽になった気がした。

そのまま、また意識が遠のいていった。


◇ ◇ ◇


部屋の中を風が通り抜けていく。

それに、妙に明るい。

そんな夢を見ているのだと思った。


けれど、どうやら夢ではないらしい。

紬が窓を開けて、部屋の空気を入れ替えてくれているようだ。


差し込む日差しがまぶしくて、目を開けていられなかった。


「あ、織くん。目が覚めた?まぶしいかな?」


紬が顔をのぞき込んでくる。

そのおかげで日差しが遮られ、ようやく目を開けることができた。


「……ごめん。できればカーテンを閉めてほしい。光がちょっとつらい」


「分かった。ちょっと待っててね」


紬はすぐにカーテンを閉め、部屋の電気も消してくれた。

カーテンの隙間から漏れるわずかな光だけでも、部屋の様子は十分に分かった。


「汗がすごいから、体を拭こう。温かいタオルと冷たいタオル、両方用意したから」


そう言って、紬はまた俺のスウェットを脱がそうと手を伸ばしてきた。


「……ありがとう。でも、自分でやるよ。悪いけど、少しだけ席を外してくれる?」


タオルを受け取るとき、紬がさっきよりもずいぶん薄着になっていることに気づいた。

俺は氷枕と冷却シートの冷たさを感じる一方で、体は熱く、室温が適切なのかもよく分からない。

ただ、紬の格好を見る限り、どうやらこの部屋はかなり暑いらしい。


紬が部屋を出たことを確認してから、スウェットを脱いだ。


そのとき、インターホンが鳴った。


「織くん、私が出るからね」


紬の声に続いて、玄関の扉が開く音が聞こえた。


ふらつきながらも、何とか体を拭こうとする。


すると、玄関の方から男の大声が聞こえてきた。


「紬、ここで何をしているんだ?なんだ、その格好は!部屋も真っ暗じゃないか!まさか……」


玄関の方から、大きな足音が近づいてくる。

しかし、体が思うように動かない。


「なんだ、この男は!裸じゃないか!三人とも入ってくるな!」


あまりの大声に、頭の奥まで痛みが響いた。

体を起こしているのも限界で、そのまま後ろに倒れてしまう。


男が近づいてくる気配はするが、抵抗する力も残っていない。

目も開けられず、周囲の音だけが耳に入ってくる。


「お父さん!織くん、熱があるの!変なことなんてしてないから!」


誰かが体に触れているのは分かったが、何をされているのかまでは分からなかった。


「とりあえず服は着せた。紬、入ってこい」


「お父さん、乱暴にしないで!織くん、体調を崩して高熱が出てるの!」


「織くん、大丈夫ですか?聞こえますか?」


誰かがそばに近づいてくる気配がした。

紬とは話し方が違う。

たぶん、結だろう。


返事をしようとしても、声が出ない。


「紬、これまで熱は何度あった?」


さっきまで怒鳴っていた男の声色が、一変したのが分かった。


「さっき測ったときは四十度あった!薬も飲んでるし、氷枕と冷却シートを使って、呼吸もちゃんとしてたから様子を見てたの!」


「どうして先にそう言わなかった!」


「言ったよ!お父さんが聞いてくれなかったんでしょ!」


お父さん……。

どうやら、この男は紬たちの父親らしい。


一瞬、言葉を失ったのか、父親から返事が聞こえなくなった。


「……すまない」


短く謝る声がした。


「救急車を呼ぶ。綴、玄関の鍵を開けて、救急隊の人に場所を案内してくれ」


「分かった」


「結は紬と一緒にいて、呼びかけに反応があるか見ていてくれ。無理に立たせないで」


「織くん、私です。結です。聞こえますか?」


何とか少しだけ目を開けることができた。

ぼやけた視界に、リボンで結ばれた紬の髪が映る。


「ねえ、起きてよ。織くん……」


紬はいつも冗談を言って、明るく笑っている女の子だ。

けれど、今聞こえてくるその声は、かすかに震えていた。


遠くから救急車のサイレンが聞こえ、次第に近づいてくる。


その音を聞いて、ようやく自分が思っていた以上に深刻な状態なのだと気づいた。


* * *


病院の待合室で、織くんの容体がよくなることを祈りながら待っていた。


私のせいだ。

私がもっと早く救急車を呼んでいれば、こんなことにはならなかったかもしれない。


そんなことを考えていると、お父さんがそっと私の手を包んでくれた。


「お前のせいじゃないぞ。高校生のお前が判断できなかったとしても、仕方のないことだ。ただ、できれば相談してほしかった」


「ごめんなさい……」


日曜日ということもあってか、病院内はそれほど騒がしくなかった。

そのせいか、看護師さんたちが行き交う姿がやけに目につく。


誰かがこちらに来るたびに、織くんのことかもしれないと顔を上げてしまう。

早く、織くんがどうなっているのか教えてほしかった。


そういえば、お父さんたちはどうして織くんの家に来たんだろう。


織くんのことばかり考えていると、不安が募るばかりだった。

少しでも気を紛らわせたくて、私はお父さんに話しかけた。


「どうして、織くんの家が分かったの?」


「ああ、綴が教えてくれたんだ。紬のことを心配してな」


「え?」


驚いて綴を見ると、さっと目をそらされた。

どこか気まずそうで、表情も硬い。


「はぁ……。金曜日の夜から、あなたの様子がおかしかったのよ。帰ってくるのが遅かったのに連絡もしなかったし、帰ってきたと思ったら、ずっとそわそわしてたし」


「そうだったかな……」


「ええ。それに、土曜日なのに早起きして、お母さんからお金をもらって出かけるし。怪しかったから……その……後をつけたのよ」


実の姉に尾行されていたなんて。

そんなこと、夢にも思わなかった。


「その……心配だったから。でも、昨日は余計なことをしたと思って、そのまま帰ったの。それで、前に貸した漫画を返してもらおうと思ってあなたの部屋に入ったら、机の上に絹道くんの住所が書かれた紙があって……」


綴は少し言いづらそうに言葉を続けた。


「もしかしてと思って住所を調べてみたら、昨日あなたが入っていった場所と同じだったから……」


「……そっか。心配させてたんだね……」


「うん。昨日も帰りが遅くて、今朝も早く出かけたから、また後をつけたの。それで、どうしようか迷ったんだけど、お父さんに連絡して……」


綴は申し訳なさそうに目を伏せた。


「……ごめんなさい」


綴は小さく頭を下げた。


「ううん。ありがとう。綴が心配してくれたおかげで、織くんを病院に連れてこられたんだよ。お父さんが来てくれなかったら、私はきっと救急車を呼べなかったと思うから……」


そう言って、私も綴に向き直り、頭を下げた。


「心配させてごめんなさい。それから、心配してくれてありがとう」


綴は織くんのことを苦手そうにしていたから、相談できなかった。

でも、結には相談するべきだったと思う。


ただ、結は織くんに一目で見分けてもらえる。

私はそれが羨ましくて、結に嫉妬していたのかもしれない。


もし、そんな私の気持ちが邪魔をして、織くんの容態を悪化させてしまったのだとしたら……。

これから、どんな顔をして織くんに会えばいいんだろう。

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