4-1 運命の歯車/カードショップが楽な訳ない
──カードショップ【五芒星】
物語が進まなくとも、生活は進む。
日は土曜日、時刻は7:55。
即ち【五芒星】開店直前。
店前には既に長蛇の列──今日ならば、どこのカードショップもこうであろう。
現代はともあれ、20年前のモラルで創られているこのアニメ世界では開店前行列など当たり前。特に、それを咎める風潮も無い。オンライン受付とかも無い。多くの住民は店頭で買うしかないのだ。
五稜ソウマはこの世界に根を下ろす天下のカードショップ店長。しかし異世界転移者である以上、運命に選ばれない。早い話が、売り切れ品薄は全部五稜ソウマの責任。運命は手伝ってくれない。
大抵の店は運命パワーでなんやかんや売り切れずに済んだりするものだが、五稜ソウマの【五芒星】だけはしっかりカードパックを確保していなくてはならない。
そもそも開店1年の若店舗。下手な売り方をしては潰れてもおかしくない。原作に無い【五芒星】は、あっても無くても物語に支障無いのだから。
──対策。
普段3〜5人体制のアルバイトを、時給1.5倍で釣って集めて20人体制に。
レジカウンター増設。会計担当を10人がかりに。近くのスーパーから伝説のレジ打ちおばさんにもご協力頂いた。なんと2台同時のレジ打ちが可能なのである。
開店から3時間、買取サービスの停止。
そして警備員の増員。何故か格闘の心得のある三井サトルもこちらに配置変更。
店外はレアカードを当てたいギラついた市民。
店内はその暴徒に立ち向かわんとギラつく歴戦の店員達。
三井サトルはその物々しい雰囲気に息を呑む。
「こりゃァ〜……凄い人気っスねェ〜」
「そりゃあそうだよ。
なんたって今日は"レギュラーパック"の発売日だ」
この世界のカードパックは、複数の企業が発行している。
だが一番人気は[スターバトラー]を生み出した御本尊【白瀬CG.s】。
数ヶ月に一度発売される"レギュラーパック"はこの盛り上がり様である。
──なお、現実のカードゲームにおいては有力カードの再録等を目的としたお祭りパックやら何やらが発行される事は少なくないが、この世界においてはカードの流通数が現実の比ではなく、そもそもパック自体の再販回数が凄まじい。一時的な品切れはともかく、狙いがあるならそのパックの再販を待った方が早い。
なので新カードが売られるレギュラーパックや構築済みデッキの需要は、現実より高めと言える。
「【白瀬CG.s】には全カード製作会社から新カードのデータを受け取り、発行許可判断を行っている。まぁつまり他社のカードパックの情報全部知ってる唯一の会社なんだから、そりゃいいカードも作れるよねって理屈だね」
運命の操作こそあるが、それでもカードそのものはここに存在している。この世界がちゃんとした世界として成立するために、住民達は合理に則った努力をしているのだ。
さてはともあれ、今から始まるのは蹂躙。
新進気鋭のカードショップが潰されないよう、全力を尽くすとしよう。
「【五芒星】──開店!!」
扉を開けて固定する。こうしないと扉が壊されるから。
大量のカードバトラーが店内に雪崩れ込む。文字通りの人海。
何のパックかは決まりきっているから言わない聞かない。時代も時代、レジは手打ちだ。カウンターに出される金額から凡その金額を逆算しBOX(1箱30パック入り)を揃え、3秒で追い返す。人海の荒波は収まる事はなく、客は店から飛び出し次の店へ。開店時間が比較的早い【五芒星】は最初の店に選ばれやすく、このラッシュの被害を一番受ける立場にある──。
「おひとり様、5BOXまで〜……」
扉と共に壁に押し付けられた五稜ソウマが力無くそう告げる。
──まぁ、カードバトラーはカードに命懸けでありつつカードに対しては真摯なので。犯罪には発展しないだろう。店長は圧死しそうだが。
──◇──
〜12:00〜
──◇──
「店長さん大丈夫?」
「だいぶ立体的になってきたっスよォ〜」
数時間壁に圧殺されていた五稜ソウマは三井サトルによって救出。客数もほどほどになったタイミングで、フリースペースの椅子を並べてそっと上に敷かれていた。やや膨らんできた。
第一陣は無事完売。次は15時の二次入荷、19時の三次入荷を待つのみ。そのくらいの時間にもなれば熱狂も落ち着くというもの。何故なら皆思い思いに当たったカードの確認とデッキ調整に移行するからだ。
この世界では供給が桁違いであるため、転売で儲けるのは難しい。一店舗の買い占めなどは起こりうるが……まぁ誰も彼もカードが好きな世界だ。その点については、店長として心配する事は無い。
そもそもアニメを基礎に造られた世界、アニメはカードの催促再販が目的な訳で、アニメで「転売で儲けよう!」みたいな内容の話が出来るわけもなく。そりゃ目立つ範囲に転売屋は居ないわけである。
とはいえ、小遣い稼ぎは起こる。
ここからは財布の寂しい学生達による一斉買取タイムが始まる。午前中のラッシュに対応したメンバーは午後は休みとしているので、五稜ソウマも三井サトルもそこは他のアルバイトに任せる事となるが……。
そういう事もあり、フリーとなっていた五稜ソウマと三井サトルは来店した青葉ウミの開封式に同席していた。彼らとて立派なカードゲーマー。カードパックの開封ほど楽しい事はない。
尚、通常カードショップではバラ売りのため事前にある程度のパックを剥いてレアカードを店頭に並べてから開店するのだが、運命の影響で偏ったカードしか出ない五稜ソウマが店長であるがため【五芒星】ではカード単体販売を行っていない。なので二人にとっても初開封である。
「[ディープオーシャン・カーレント]みてェなのまた当たるっスかねェ」
「レアカードなんて中々当たらないよぉ。でも徳を積んできたから、今日はいいの当たる気がする!」
「徳?」
「ちょっと遠出して水泳大会に優勝してきた!」
今日も競泳水着にカーディガンのウルトラ快活娘、青葉ウミ。水泳大会を験担ぎに使うのは彼女くらいなものである。
──三井サトルの発言と青葉ウミの受け取りは多少ズレている。
三井サトルとしては、先日青葉ウミが【五芒星】で当てたレアカード[ディープオーシャン・カーレント]について──その時代についての言及だ。
この時代はカードゲーム[スターバトラー]が始まってから3年目〜6年目の4年間放送されたアニメ[スターバトラー(無印)]の世界。
だが[ディープオーシャン・カーレント]は16年目に生まれたカード。この時代に手に入る筈が無いのである。
この現象は五稜ソウマも把握済み。異世界転移者の運命力が悲惨だったばかりに気付くのに遅れたが、過去にも同様の現象はあった。
五稜ソウマはこれに対し"実力ラインの引き上げ"説を提唱。
異世界転移者の介入によりこの世界のメインキャラが原作アニメの段階よりも強くカードを動かせるようになった結果、全体的にカードパワーを上昇させる事で均衡を取ろうと運命が頑張っている……のではないか。
だとして過剰に強くなった青葉ウミに更に強化が来るかという話だが……多分青葉ウミは原作でのバトル回数が少なすぎる故に本筋の運命を覆すポジションに無く、運命側も割と適当しているのかもしれない。
でないと、こんな事にはならない。
「……ドロソ、汎用妨害、ハンデス……知ったカードがバンバン出てくるっスねェ……」
「うーわ青葉君、それ絵違いの特別加工[流星群]だよ。
(現実だと最高販売額24万円、この世界では汎用カードにつき文字通り桁違い)
悪い事言わないからしまっておきなさいな。いやほんと」
「……店長さん、ほしい?」
「それ買い取ったら店潰れちゃうよ」
「ひェ」
──尚、青葉ウミは家族との約束で水泳が関わる大会で優勝するたびに月のお小遣いが一万円増える約束を取り付けており、以降爆速で優勝しまくったがため、そこまで買いたいものも無い金銭的無欲さも併さってお金には困っていない。
というかそういった性格でもないとカード買うだけで億万長者になれてしまう。これは運命グッジョブである。
結果、今回の青葉ウミ殺戮開封ショーでは基本的な汎用カードや有用なカード、【ディープアイ】に使えそうな水属性のカードなどなどが当たったものの未来のカードまでは出て来なかった。ともすらば、あの時[ディープオーシャン・カーレント]を当てたタイミングは何らかの運命が働く必要があったと言う事だろうか。
──◇──
〜19:00〜
──◇──
五稜ソウマは店を店員達に任せ、他店舗の視察に回っていた。
カードショップの開店時間がズレているならば、おおよその客の流れというものが生まれる。
故にカードショップ達は連携し、レギュラーパック発売日だけ開店時間をずらして市民の移動ルートを誘導する。提案者は五稜ソウマ。協力すれば確実に自分の店舗に客が大量に雪崩れ込んでくるし、街中を縦横無尽に駆け回られるよりは安全面でも安心できる。
そのため視察と称して協力のお礼に挨拶回りしているのであった。【五芒星】はまだ創立一年の弱小ショップであるため、人の繋がりは大切である。
創立一年。カードショップ開店のための資格所得にも一年──この世界は2年間、ずっと秋。
歯車が外れている。
世界は止まっている。
この世界に必要な事が起きず、必要な人が存在しない。
どん詰まりの行き止まり。この先に未来があるのかは、誰にも分からない。
(……ダメだ。こういうの良くないぞぉ)
秋ともなれば19時はもう日暮れ。暗がりを歩く五稜ソウマの思考は、悪い方へと落ち込んでいく。
五稜ソウマは運命に抗う。
この歪な世界を嘆いているから?
そんな高尚な理念なんて無い。
五稜ソウマの中にあるのは──贖罪。
あの時ああしなければ。
考えても時は戻らず──進まない。
あの日黒コートと出会ってから、これといった事も起きておらず。やはり運命は既に──
「ソウマさま」
抜け落ちた歯車がひとつ、はまる。
夜闇の中でも存在感が溶け込まない、太陽のような明るさを感じさせる金と赤黄の装飾に身を包むは──この世界だとしても異質な、踊り子。
フェイスベールで隠された口元はよく見えないが、声色は──安堵、そして疲弊。
「……君は」
「お久しぶりで、ござい……ます」
言い終わると同時に──踊り子は倒れる。
慌てて駆け寄る五稜ソウマ。
息はある──体温も、ある。
当然だが、しかし想定外だ。
彼女は──[星見の踊り子]。
アニメ[スターバトラー(無印)]において主人公が4年間使い続けてきたデッキ【スターゲイザー】の中核にしてヒロインカード──そのものである。




