3-2 ヒーロー≠主人公/運命はまだ動かない
【カードゲーム[スターバトラー]のルール!】
・モンスターは下級・中級・上級の3種類あるよ!
下級は無条件で毎ターン1体出せるよ!
中級上級は出すのに一手間かかるよ!
・下級は出たターン攻撃できないよ!
・戦闘で同級は相打ちになるよ!
格下には一方的に殴り勝てるよ!
・初期ライフは5つだよ!
モンスターに殴られてライフが0になると死ぬよ!
〜前回のあらすじ〜
ヒーローがワンキルした。
銀閣寺ヒイロによってひったくり犯が無事撃退・捕縛された事で騒動は収まった。
少し離れた場所で観戦していた三井サトルは指折り数える。今のバトルのあり得ない点を。
「あーっと、手札に[ヒーロー招集]と[ヒーロー見参!]が揃ってて、デッキトップに5種類のバニラが必要っスよねェ?」
「一応、1体までなら手札から出せるから少しは緩和されるよ」
「あー、そうか。……いやそもそもデッキトップにそんなにバニラが偏るもんスかねェ?」
「普通無理だろうね。これが運命だよ三井君」
銀閣寺ヒイロ──アニメ[スターバトラー(無印)]20話で登場したサブキャラで、戦法は殆ど今見た通り。速攻で5体のヒーローを並べて攻撃に入るが主人公によって攻撃を妨害され、返しのターンで敗北。それ以降アニメで出番は無かった。
それはつまり、銀閣寺ヒイロがカードバトルをしたのならその一戦の再現が起きるという事に他ならない。何故ならその一戦しかデータが無いのだから。
ある意味では、状況の再現性のみの話で言えばメインキャラよりバトル回数の少ないサブキャラの方が運命の影響を強く受けているとも言える。
こんなデッキ普通ならとても回せるものでは無いが、"それを回せた実績がある"銀閣寺ヒイロだけはこの世界においてこのデッキを回せるのだ。理不尽ではあるが。
「ああいうのが、アニメキャラなんスねェ……」
「たった一話出ただけで、ああなるんだ。
この手の運命が干渉している人はそれだけじゃないよ。例えば主人公が何気なく倒したプロバトラーはプロチームで無敗記録を持っていたけれど、この世界では"メインキャラ以外には基本勝てる"運命を背負っている。プロチームのメンバーはアニメでは後ろに映っていただけでバトル描写なんて一度も無いのに。
そういった相対的な強さも運命の範囲内になる訳だ」
ちなみにアニメ本編で一度もバトルしていないプロチームのメンバーは、この世界では当時現代での環境デッキを握っていたりする。というかその内の一人が【レックスジャンプ】使いにされている。
よくゲーム化などの際に本編で全然バトルしていなかったりまだ使用カードが現実でカード化されていなかったりするキャラクターが一時的にやたら強いデッキを使う事になっていたりする現象と同じである。
ちなみにヒロイン青葉ウミは[スターバトラー]のゲーム化作品において殆どでただ水属性という共通点しかない【筋肉ペンギン】デッキを使う事が主流となっており、本編では一度も使って無いのに(そもそも青葉ウミのバトル回が無さすぎる事もあって)【筋肉ペンギン】使いの人と認知する人がやたらいたりする。
……脇道に逸れすぎた。
「やあ!!! 五稜さん!!! 連絡ありがとう!!!」
「わぁ銀閣寺君びっくりした。耳元はやめてね」
「おっとごめんなさい!!!!!!」
耳元で声を掛けてくれる銀閣寺ヒイロ。単体破壊攻撃やめてね。
警察が到着し犯人の連行が済んだようで、清々しい笑顔のヒーローは五稜ソウマと握手する。ちょっと間違えたら手が弾け飛ぶ気もするが、ヒーローはそんな事しない。
……しないはず。
「いやしかし、今回は普通の犯罪者だったが!!!
最近は物騒だね五稜さん!!!」
「物騒? どうかしたのかい銀閣寺君」
「俺はフリーの正義の味方だが、警察さんに頼られる時もある。とくにカードバトル要員としてね!!!
どうにも最近はやたら強いカードを使うバトラーが多いんだ。俺でもヒヤッとする時があるよ!!!」
使用カードの変遷。
基本的に"カードが強い"運命を受けていない一般人はそこまで強いデッキを持っていない。
だとするなら──五稜ソウマと三井サトルは目線を合わせる。
「さっきのひったくり、もしかするとソレかもしれない」
「なんと!!! 良く良く考えてみれば1ターンで終わってしまったから彼のデッキはよく分からなかったな!!!」
「俺だって何度かこの世界でカードバトルしてきたがよォ〜……ちゃんとしたコンセプトが通ってるデッキってのァ中々見れてねェぜ」
この世界の一般人のデッキと言えば、初心者にありがちな強そうなカードを集めたごった煮デッキ(それでも三井サトルはボッコボコにされたが)。
一方であのひったくりは、それなりに現実でも有名だった[スクーターデビル][泥棒の予告状]を採用した……およそ【原付ハンデス】と呼ばれるデッキタイプを握っていた。考えてみれば、ただの名無しのひったくりが使うには少々しっかりしすぎている。
「銀閣寺君。君は──」
「荒翠市第二警察署に連行されているはずだ!!!
俺は先に行きます!!!」
「ああ、任せた。僕達もこれを積んだら向かうよ」
言い切る前に走り出す銀閣寺ヒイロ。反応からしてどうにもここ暫く警察の中では有名な問題だったのだろう。
五稜ソウマと三井サトルは急ぎカード入り段ボールを運びながら車へ向かう。
「店長。これは一体どういう事っスか?」
「分からない……けど、僕の想像通りなら恐らくあのひったくりは警察署まで辿り着く事は無い!」
今のこの世界において、あからさまな異変。これはきっと何かの運命が大きく動いている。
銀閣寺ヒイロはあくまで五稜ソウマの指示で警察署に向かった。つまり運命の想定していない道を歩んでいる。
「原因不明の強カード。大抵は誰か悪い人に渡されたものだ。恐らくカードか使用者のどちらかが処分される!」
「するってェと急がなきゃならねェっスね!」
「いや、急ぎすぎちゃ行けない! 僕達は運命に選ばれていないけれど、この世界は運命で動いている。
あまり正規ルートを追い詰めると最悪な事態になる!」
あっという間に段ボールを車に積んで、三井サトルがハンドルを握る。とても似合うがペーパードライバーらしい。意外。
「……なるほど。あのヒーローが運命無視して警察署に着いてるって事ァ、警察署に着いちまったらひったくりはデッキを取り上げられる事になる。
だがそれは想定された運命の挙動とは異なる。だから警察署までのどこかで逃げる事になる……って事っスね?」
「そう。それに加えて今は僕達が後ろから追っている。警察署に着かず僕らにも捕まらない処分の方法、分かる?」
「……爆発、とかっスよねェ〜。成程追い詰めちゃいけねェってそういう事っスかよォ〜……!」
今日は休日。往来には多数の人、多数の車。
アニメというものはモブに厳しい。どんなに派手に爆発しても、名前のないキャラならどれだけ被害を被っても本筋には影響しない……!
「だからやんわり追う。そうすればどこかでひったくりが逃亡する流れになるはずだ。そこを僕が降りて追う。
あくまで状況の確認だけだ。ひったくりもカードも今回は見逃す。そういうスタンスなら運命は僕達を排斥しない」
「んだらば左側車線でゆっくりっスねェ〜……ってパトあんじゃねェか!」
パトカーが既に停まっていた。
外部からドアを破壊されてひったくり犯が飛び出し逃亡した様だ。
「……後は任せた、三井君!」
「っス。いってらっせェ〜……!」
急ぎ車から飛び降りる。
──五稜ソウマは焦っていた。
──◇──
この世界の刻は止まっている。
ヒロイン青葉ウミは──主人公達は、高校2年生。今は秋。
その状態を、もうずっと続けている。
物語の世界は、物語が進まないと時が進まない。
運命が物語を紡がなくなったこの世界では、永遠に歳をとる事は無い。
それでも、変化はあった。
それこそ三井サトルのように、現実世界から新たな異世界転移者が現れたりもした。
──運命もまた、世界が動くのを望んでいる。
五稜ソウマはそう解釈していた。
あまりに異世界転移者に厳しいこの世界に、それでも我々を割り込ませようとするその真意は──。
「──五稜ソウマだな」
路地裏。
ひったくり犯が逃げた先を覗くが、秒でバレて捕まった。
麻縄でぐるぐる巻きである。一般紙オタクでしかない五稜ソウマに対抗する術無し。
多数の黒服に囲まれて、情けなく地面に正座させられていた。
──視界の端には気絶していたひったくり犯。とりあえず最悪の事態には陥っていないようだ。
黒服のリーダー……黒コートの男が五稜ソウマの前にしゃがむ。巨大ナナフシの如き細身長身。その目に深く刻まれた隈を隠すように、絵の具で目元を粗雑にペイントしている。
非常に目が悪い上に超高身長。故に覗き込むように顔を近付ける。確認したのは、五稜ソウマを識別出来ないほどに目が悪いからだ。
五稜ソウマは黙って誤魔化せないかとも考えたが──顔見知りだ。流石に無理か。
「別に君たちの邪魔をするつもりはないよ。そこの人に渡したカードを回収にでも来たんだろう?
なら何も邪魔はしない。……いや流石に始末まで行くと見過ごせなくなるから、カードだけ回収してくれないかなぁ?」
「そうか。ならそこの男はこの場に捨て置く。
それで、お前は何の用だったのか」
話が早い──警察の到着まで時間も無い。向こうも急いでいるのだろう。
五稜ソウマは一つ、頭を回す。
この目の前にいる男は──黒スーツ。ちゃんと正式な名前があるのだが、アニメ放送段階では一貫して黒スーツ呼びだったのでそう呼ぶ。これだけ特徴的な外見であるにも関わらず名無しである。
そして彼がこの場に居るという事は──。
「ブラックがまた動き出したのかな」
──[スターバトラー(無印)]ラスボス、引いては悪の組織"ブラック財団"。
黒スーツはその"ブラック財団"の抱えるカードバトラーの一人──手っ取り早く言えば用心棒である。
それが動いているという事は、同様に"ブラック財団"が動き始めた証左である。
「答える必要は無い。無いのだが……答える」
「え、いいの」
「これは外部顧問の入れ知恵だ。……ボスからの指示ならともかく、あの様なポッと出の若者の提言なぞ……!」
わなわなと震える黒コート。うーん流石の狂信者。
黒コートは序盤のやられ役から終盤までずっと(新カード販促要員として)出てきたキャラクターであり、"ブラック財団"に忠誠を誓う異常者である。
……外部顧問、というのは、[スターバトラー(無印)]には存在しない。
「故に答える。これは実験だ。
外部顧問の指導によってデッキを変えられるのか。これによって戦力の増強を図っている。
……貴様のお陰で外部顧問も慎重になっている。気分爽快だ」
「それはどうも。……次は何をするつもり?」
「探し物だ。それだけしか教えん」
黒スーツは五稜ソウマを縛る麻縄を解いて、闇に消えた。
──運命が動き出す。
五稜ソウマはひったくり犯を抱えて、表通りへと向かった。
それでも、日付は動かない。明日もまた、秋である。




