3-1 ヒーロー≠主人公/坊主めくり全日本代表
【カードゲーム[スターバトラー]のルール!】
・モンスターは下級・中級・上級の3種類あるよ!
下級は無条件で毎ターン1体出せるよ!
中級上級は出すのに一手間かかるよ!
・下級は出たターン攻撃できないよ!
・戦闘で同級は相打ちになるよ!
格下には一方的に殴り勝てるよ!
・初期ライフは5つだよ!
モンスターに殴られてライフが0になると死ぬよ!
──荒翠市 中央繁華街 複合商業施設
カードショップの仕事。それ即ち、カードの入荷である。
需要は全市民全国民にある。カードショップは常にカードパックを切らしてはならず、特に五稜ソウマのカードショップ【五芒星】はパックが主な収入源となっているため死活問題である。
本来ならば高額カードやレアカードを単体で取り扱うショーケース販売などがある。
だがこの世界ではそもそものカード種類が多すぎるため汎用カードくらいしか需要が無く、レアカードの汎用カードは軒並み超高額商品。そこに加えて五稜ソウマは運命干渉によっていくらパックを開封しても【サイクルビート】に使えるようなものかそれ以外はカスみてぇなラインナップになってしまい、自引きで商品を取り扱う事が出来ないのだ。
故に【五芒星】はカードパック販売に比重を寄せており、それでも顧客のサポートとして低レアリティの汎用カードや防御・妨害カードを集めて販売していたりしている。
この世界ではカードショップの数もカードパックを発行する会社も現実とは桁違いに多い。そのためショップ経営者向けの競りが行われたりもするのだ。
……という訳で、五稜ソウマは荷物持ちとして三井サトルを連れてカードパックの競売に参加した。戦果は上々。何より今日は力自慢の三井サトルが付いている。
「大丈夫かい三井君」
「……楽勝っスよォ〜……!」
空元気である。流石に地上の車まで素手で運ぶ訳にはいかないので台車を使っているが、段ボールにして実に7箱。五稜ソウマの1箱と合わせて8箱分が戦果である。
「……しかし……どうにも前時代的っつ〜か……かなり物理的っスねェ〜。
カードバトルは質量持ちの立体映像ってのによォ〜……」
「まぁここ、20年前に作られたアニメの世界だからね。近未来設定で携帯はスマホみたいなものになっているけれど、ちょいちょい時代を感じさせる肉体資本主義が垣間見えるよね。
でもまぁほら、一般的な異世界転生と違って……トイレは洋式水洗式だから。それだけは救いだよね」
「それマジっス。近現代舞台の異世界転生あるあるっスよねェ。
スマホ……VRフォンでしたっけ。こいつァほぼ立体映像で重力0っスけど、パソコンの方はまだ分厚いの、時代っスよねェ」
「アニメで一瞬でも映ってたらこの世界の常識になっちゃうからね。まだ電話ボックス現役だし」
異世界転生あるあるである。
ましてや二人は現代の身体のままやってきた異世界転移。こちらの常識に慣れる時間が無さすぎてカルチャーショックを受ける事もしばしばである。
と、道路沿いに歩いていると──悲鳴が耳に入る。
「ひったくりよぉぉぉ!!!
カードで正々堂々奪わんかいゴラァァァア!!!」
悪鬼羅刹の形相を浮かべる奥様。小綺麗な鞄を奪い逃走する原付のひったくり。
なんともこの世界には珍しい、カードバトルを前提としない犯罪。いや感心している場合ではないが。
原付はこっちに向かって爆走──三井サトルの手を掴み、五稜ソウマは原付を見送る。
「何で止めるんスかァ。俺なら蹴りでカウンター喰らわせられるっスよォ!」
「凄いね君。その身体能力はまた今度活躍してもらうとして──こういう時はこうするんだよ」
VRフォンから、ある人に連絡をかける。
この世界で生きていくに於いては、違和感を感じ取る事が必定だ。
「普通にこの世界でも犯罪なんていくらでも起こりうるけれど、出来る事ならば直接干渉しない事だ。
アレを止めたら十中八九カードバトルに発展するし、この騒動が誰かの運命に関わっていて僕たちが負けたら、犯人に逃げる大義名分を与えてしまうだろう?」
しかしそれは見捨てる訳ではない。
この荒翠市には──ヒーローが居る。
「待つんだ悪党!!!」
落雷(演出)と共に現れる、純白のヒーロー。
白い学ランの青少年が、道路の真ん中に立っていた。
「どきやがれガキ!」
「どかない!!! 止まるんだ!!!」
原付とはいえ全速力で衝突すれば怪我は必須。
だが──ヒーローは、正面からひったくりを受け止めた。
「よし、偉いぞ!!! よく止まったな!!!」
「いやお前が止めたんだよ! 離せガキ!」
ただの腕力である。
幾らか犯人と問答するヒーローだが、どうにも会話が噛み合っていない。
「彼こそは銀閣寺ヒイロ君。この街のヒーローだ」
「連絡して何秒っスか」
「ヒーローだから日中なら荒翠市のどこにも10秒で来るよ。正義の力で握力100kgあるし1tまでなら持ち上げられる」
「出るアニメ間違ってねェ?」
この手の雑なキャラ設定は、ホビーアニメあるあるだろう。
即ち1話限定のゲストキャラ。
出番が少ないがちゃんとメインキャラであるヒロイン青葉ウミとはさらに事情が異なるポジションに居るが──たった1話しか出ていないからこその濃ゆい味付け。だからこそ設定に空白があり、ある種の自由枠として動かせる。
銀閣寺ヒイロは個人的な正義を振り翳す超人。
主人公に敗れてからはその力を市民のために使う、正真正銘のヒーローとなっている。
色々縁あって五稜ソウマは彼の連絡先を入手していた。
当の銀閣寺ヒイロはなんやかんやとひったくりと言い争っていたが、どうにも(やはり)カードバトルで決着となったようだ。
「丁度いいや。観戦しよう三井君。いいものが見れるよ」
街中でカードバトルが始まれば野次馬か集まり観戦する。この世界では当然の事である。今回はひったくりを逃がさないために取り囲む思惑もあるが……だからといって道路のど真ん中でやらなくても。
「「カードバトル!」」
──◇────◇────◇──
[大絶賛逃亡中]ひったくり犯
【???】
Life◇◇◇◇◇ hand5
──VS──
[超正義執行マン]銀閣寺ヒイロ
【???】
Life◇◇◇◇◇ hand5
──◇────◇────◇──
──[turn1.ひったくり犯]──
「先行は貰うぜ! 俺は[スクーターデビル]を出すぜ!」
現れるはスクーターに乗った不良っぽい悪魔。
下級の悪魔種モンスター。名無しのひったくりが使うには随分と有名なカードであった。
「攻撃時に相手の手札をランダムに1枚捨てさせる下級モンスター。昔はお手軽なハンデスだから結構重宝したんだよね。【原付ハンデス】かな」
「原付乗ってる奴が【原付ハンデス】使うんスねェ」
「……笑ってはいけないよ三井君……」
「……っス。良くない、良くない……」
カードゲームアニメではままある事ではあるが、名は体を表すならぬデッキが体を表すような人も少なくない。名前とデッキがドストレートに関連してたり。
まぁ[スクーターデビル]は比較的汎用性の高いカード。おかしくないおかしくない。
「更に[泥棒の予告状]発動!
今、相手の手札を見て、次の相手ターン開始時にランダムに1枚手札を破壊するぜ」
「泥棒が泥棒使ってるゥ!」
「ブフッ! ……良くないよ三井君……!」
使うカードはなかなか優秀。なんなら[泥棒の予告状]はハンデス戦法で弱点となる相手のトップ解決を仕留められるため、一時期は規制された経験もあるほどだ。
だが五稜ソウマと三井サトルはそれどころじゃない。あまりにも原付のひったくりが使うデッキすぎて笑ってしまう。これもまた運命か。
「……なんだこの手札?」
「もういいか???」
「お、おう」
銀閣寺ヒイロの手札を覗いたひったくりは怪訝な顔をするが、変わらず自信満々なヒーローは大きな声で確認する。感嘆符みたいに疑問符を重ねるな。
「とりあえずターンエンドだ。次のターンで手札を枯らしてやるぜ……!」
[turn.1]
──◇────◇────◇──
[大絶賛逃亡中]ひったくり犯
【原付ハンデス】
Life◇◇◇◇◇ hand4
[スクーターデビル]下級/闇/悪魔
──VS──
[超正義執行マン]銀閣寺ヒイロ
【???】
Life◇◇◇◇◇ hand5
──◇────◇────◇──
──[turn2.銀閣寺ヒイロ]──
「俺のターン!!!!!!」
「うるさっ」
勢い良くカードを引く銀閣寺ヒイロ。勢い余って手札が飛んでいく……のではなく、[泥棒の予告状]の遅延ハンデスである。
早速出鼻を挫かれた銀閣寺ヒイロだが、怯まない。
それは元来の性格もあるが、このデッキを握り続けてきたことで得られた感性だろう。
五稜ソウマが知る中でもトップクラスに運命任せなデッキの使い手。これが運命に選ばれたキャラクターというものの理不尽である。
「行くぜ!!! 俺は[ヒーロー招集]を発動!!!
1枚ドローして──効果を持たないモンスターならタダで出す!!!
来たぜヒーロー!!! [氷歌戦隊バニラレッド]現着!!!」
現れるは戦隊ヒーロー。赤色だが、センターではない。
効果を持たないモンスター──通称バニラ。
[スターバトラー]においては中級・上級の速攻攻撃はルールであり効果ではないので、これで中級・上級を踏み倒せばルール上即座に戦闘可能である。
だがライフを削る攻撃点数はモンスターそれぞれの持つ効果であるため、下級だろうと上級だろうとバニラである以上は1点分のダメージにしかならない。
──ともあれ、[ヒーロー招集]はここからだ。
「[ヒーロー招集]は失敗するまで続くぜ!!!
ドロー![氷歌戦隊バニラグリーン]!
ドロー!![氷歌戦隊バニラパープル]!!
ドロー!!![氷歌戦隊バニライエロー]!!!
ドロー!!!![氷歌戦隊バニラブルー]!!!!」
「いやいやいやいやどういう事だよ!」
「ドロー!!!![氷歌戦隊バニラパープル]!!!!
ドロー!!!![氷歌戦隊バニラグリーン]!!!!
ドロー!!!![氷歌戦隊バニラグリーン]!!!!
ドロー!!!![氷歌戦隊バニラブルー]!!!!」
「いやいやいやいや止まらないのかよ!」
怒涛のヒーロー9連出撃。つまりデッキの上から9枚連続でバニラモンスター。普通は事故も良いところである。
ちなみに[スターバトラー]に盤面制限は無い。引けるだけ並べ放題。
今日は特に上振れてるご様子。
だとすると、これは決まるか。
銀閣寺ヒイロは最後のカードを天に掲げる。
──正義の鉄槌が振り下ろされる。
「トドメだ!!! [ヒーロー見参!]発っ動っ!!!!
効果を持たないモンスターが5種類以上いる場合、このターン場に出た下級モンスター全てに速攻能力を付与するぞ!!!」
被っていても気にしない。正義の味方[氷歌戦隊]。グリーンに至っては3人いるが、気にしていない。
圧倒的物量。[スターバトラー]は下級モンスターであろうと、極論5回殴られたら死ぬのだ。
「行くぜ!!! 正義・執行!!!!!!!!!!!」
「ほげぇぇぇぇぇ!」
──◇────◇──
──銀閣寺ヒイロ win
──◇────◇──
吹き飛ばされるひったくり犯。
見事な1ターンキル。これはひどい。




