2-3 禁止制限の重要性/恋は運命を変える
後攻1ターン目に[ディープアイ・シュトローム]着地。
その後無抵抗な三井サトル相手にボッコボコ。
これはひどい。
デザイナーズコンボでこれである。これぞ[スターバトラー]黒歴史の一つ、通称"水合戦"である。
じゃんけんに勝って水ぶっかけた方の勝ち。あまりにも酷い。
打点なんて何の問題にもならない。どうせ死ぬまで相手は何も出来ないのだから。
これが、第1回禁止制限改定にてテーマ内に1枚制限3枚・禁止カード3枚を排出した原初のガチデッキ【ディープアイ】である。
「バトルありがとうございましたっ!
店長さんに教えて貰ってから絶好調ー! えへへ」
「……店長ォ?」
「いやはやははは。お疲れ様三井君」
三井サトルは店長に怨惨のと懐疑を向けている。そりゃ仕方ない。
青葉ウミがここまで強いのは、幾つかの理由がある。
まず第一に、見ての通りデッキ自体がバカ強い。
何でこうなったかと言えば、アニメ放送開始と共に発売されたパックの水属性枠が【ディープアイ】で、青葉ウミが水属性使いとして登場したのはアニメ放送開始から三ヶ月後だったからである。
後の開発者インタビューにて、本来水属性はラスボスが使う予定だったが、普通に考えてラスボスは最後にしか登場しないのだから何年間水属性を強化出来なくなるんだよという話になり、急遽バトルをしない予定のヒロインに割り当てたとの事。
そもそも男児向けホビーアニメであるので、ヒロインの出番は少ない。そして真っ当に動かせば強すぎるため、基本的に青葉ウミはカードバトルの出番に恵まれなかった。
実際五稜ソウマがこの世界に来て出会った時点でも、持っているデッキは強いものの初心者同然でまともにカードを使いこなせていない状態であった。
──これが第二の理由。五稜ソウマの干渉である。
完全に贔屓である。この男、性癖に忠実。
さて、この世界はカードゲームアニメの世界ではなく、カードゲームアニメの設定に準拠した現実世界である。齟齬を調整するために運命が働いている、というのが五稜ソウマの説。
実際普通に回せばバカクソ強すぎる【ディープアイ】を、"カードバトルより水泳が好きだからマトモに使い方を覚えていない"キャラ設定で調整してバランスを保っていたのである。
そこに、ちゃんとしたデッキの回し方を教えてしまうと──さぁ困った。化け物の誕生である。
異世界転移者のように常敗の運命を負わせようにも、彼女はヒロイン。しっかり[スターバトラー(無印)]四年間ご健在で生き抜いていらっしゃる。
よって、禁止制限カード盛り盛り常勝無敗絶対美人究極カードバトラー青葉ウミが誕生したのである。
「店長のせいじゃないっスかァ」
「ははははは。いや本当どうしようね?」
幸いにも、この青葉ウミが急激にカードバトルが上手くなった事で何か問題が起きた事はない。
そもそも使い方を知ったとて、青葉ウミは従来通りそんなにカードバトルはしないのだ。多分その辺も運命が頑張っている。
「店長さん。もう5パック買います!」
「おや。足りなかったかい?」
「ううん、ちゃんと買わないと潰れちゃうかもしれないでしょ?」
高校生に気遣われた。少し肩を落とす五稜ソウマだが、しかしそんなしっかりした所も好きだった。
青葉ウミは笑顔でパックを受け取って、フリースペースのテーブルに早足で向かった。
「……いやー。生で見るとやべェっすねェ。
そして強い。俺もちゃんと禁止カード積もう」
「問題は僕たちの運命力で禁止カードが手に入るかって話だけどね。大抵バラで買ったらとんでもない値段するよ」
「世知辛ェ〜……。店長は[悪徳商人の善意]と[流星群]どうやって確保したんスかァ?」
「[流星群]は持ち込みだよ。現代だと1枚制限に復帰したから持ってたんだ。
[悪徳商人の善意]はこっちの世界で買った。そういう事するためにショップ開いたようなもんだからね」
「……おいくらで?」
「多分三井君がガチデッキ作るのに買った一番高いカードに0を3つくらい付けるくらい」
「どしェ〜……」
「どうしても必要な時は僕のを使い回そうね」
「店長マジ神っスよォ〜……!」
同じ境遇である異世界転移者である事に加えて、若く聡明な三井サトルは年上に好かれる所があった。
……しかし。ふと三井サトルは思い立つ。
「店長ォ〜。俺初代のアニメは観て無かったんで知らないっスけど、青葉ちゃんって……どうなるんスか?」
「君、手ぇ出そうとしてないだろうね。指切るよ」
「こわすぎ。純粋に興味っスよォ。
ほら、俺たちって要はここに居る人達の未来を知ってるようなもんスよね? なんつーか、俺が無意識に変なことして青葉ちゃんの本来の未来に干渉しちまうかもしれねェし……ここは一つ詳しい店長に注意事項とか聞いておきてェって言うかァ〜」
あまりにも聡明。まだこの世界に来て間も無い三井サトルだが、五稜ソウマは自分と重ねて反省する。
自分は彼くらいのタイミングの時どれだけ浮かれポンチだった事か。
「偉いなぁ三井君は。
あんまり気にする事は無いよ。ほら、男児向けホビーアニメだったから……あんまり恋愛関係の話は、同時のアニメじゃ触れなかったんだ。
当時はヒロインは添え物って感じの価値観があってね。ちゃんとカードバトルするだけ珍しいものだったんだよ」
「はえー。誰かに惚れたりしてたんスか?」
「ううん。まったくもって」
「……本当にヒロインなんスかァ?」
「味方の女性キャラが彼女しか居なかったから……繰り上げ式でヒロイン扱いだね」
当時のホビーアニメは大概そんなものである。
ある種、特定のカップリングが公式に設定されなかったからこそ二次創作とかが捗ったのかもしれないが……。
ともあれ、五稜ソウマは初恋の相手の近くで労働出来る事を神に感謝しつつ、青葉ウミに戦い方を教えた責任を背負い彼女の身の安全を確保しようとしているのだ。
「てーんちょーさーん!
綺麗なカードが出てきたよー。これなぁに?」
「うんうんどうしたのかな青葉さん近いよ」
話していた張本人青葉ウミが五稜ソウマの後ろから飛びついてくる。
こっちはカウンターなのだが、もう2年の付き合いにもなると彼女のパーソナルスペース内である。
青葉ウミが見せてきたカードを二人で覗き──硬直。
「店長ォ〜。こいつァ俺でも知ってるっスよォ〜……。
コレが元ネタだったんスねェ〜……?」
[ディープオーシャン・カーレント]
水属性悪魔種の上級モンスター。
5年前の第27回禁止制限改定にて禁止カードを10種類一気に1枚制限に緩和し話題となった時、それらの再録先として販売されたパック[スターバトラーEX 過去からの挑戦状]にて新規収録された、【ディープアイ】のリメイクオマージュモンスター。
諸々詳細は省くが、端的に言って全然反省しておらず以後5年に渡り【深海ロックビート】という呼び名の水属性ロックデッキの金字塔として名を残す事になる。血迷って1枚制限になった[ディープアイ・シュトローム]諸共登場2年後の第31回禁止制限改定にて再規制。シュトロームは禁止に出戻り、カーレントは1枚制限となった。それでもまだまだロックデッキとしては健在である。
……つまりこの時代で言えば10年後くらいの未来で【ディープアイ】と組んで大暴れした化け物。当然、無規制の青葉ウミのデッキにも入る。
五稜ソウマは天を仰ぐ。
「……これは……青葉君が自分で引いただけだから。
うん、今からどのくらい強いかだけ説明するけど、デッキに入れるかどうかは青葉君次第だから……!」
葛藤。しかし正直、【ディープアイ】全盛期のこの時代に未来のオマージュカードがあったら入れてみたい。使ってみて欲しい……!
気持ちは三井サトルにも伝わった。なるほど、こんな感じで青葉ウミに戦い方を教えてしまったんだなぁ、と納得する。
よろよろとフリースペース卓へと向かう五稜ソウマと青葉ウミを見送りながら、三井サトルは考える。
(……原作で明確な相手どころか恋愛感情を向ける相手が居ないなら、運命でも勝手に青葉さんの恋愛対象を決めたりできねェよな。
じゃあここに居る子はただの女子高生な訳で、そんな青葉さんにやたら好意的で優しくて戦い方も教えてくれる良い感じのツラした超人気職の将来安定お兄さんがいたらよォ〜)
ふと、フリースペース卓の方に視線を向ける。
色々と感情を抑え込んで必死に教えている五稜ソウマの隣で、青葉ウミが三井サトルの方を振り向き──僅かに赤らんだ表情で、口元に人差し指を当てた。
(あァ〜〜〜寿命が伸びるぜェ〜〜〜)
──三井サトル20歳、今日この時を以て気ぶり見守り勢に転身する。
それは羽化と呼ぶべき進展であった。




