1-2 運命に抗う者/強いのはデッキか人か
【カードゲーム[スターバトラー]のルール!】
・モンスターは下級・中級・上級の3種類あるよ!
下級は無条件で毎ターン1体出せるよ!
中級上級は出すのに一手間かかるよ!
・下級は出たターン攻撃できないよ!
・戦闘で同級は相打ちになるよ!
格下には一方的に殴り勝てるよ!
・初期ライフは5つだよ!
モンスターに殴られてライフが0になると死ぬよ!
──デッキ名【除去シグナル】
カードゲーム[スターバトラー]開始より1年後に登場した、順番にサーチし続ける下級機械種の信号機トリオ[シグナルグリーン][シグナルイエロー][シグナルレッド]を利用した下級モンスター主軸のビートダウンデッキ。
減らない手札や下級モンスターの安定供給を利用して、残ったデッキスペースにこれでもかと除去魔法を詰め込み、相手の盤面を破壊しながらちまちま殴る古のデッキ。
当時から10年ほどの長期間、その設計思想はあらゆるカードに引き継がれ、カード自体は入れ替わりつつも【サイクルビート】というデッキタイプとして常に環境の選択肢の一つとして居座り続けていたが、カード環境の高速化に伴い力不足となり、現代では環境に顔を出す事も無くなった。[シグナルレッド]含む信号機トリオの最後の再録は12年前である。
時代を考えるならば、使っていてもおかしくはない。かなり堅実で安定したデッキで、この時代に存在していても不思議ではない。
だが、異世界転移者がわざわざ使うかは疑問である。
異世界転移の特典──デッキケース一つ分(ギッチギチに詰めて200枚くらい)のカードの持ち込みを、わざわざこんな骨董品で埋めるだろうか。
或いは、この世界で作ったデッキの可能性。どうにも小慣れている感のあるこの優男──五稜ソウマならば、それはあり得る。
だが五稜ソウマは三井サトルが異世界転移者だと当たりをつけて話しかけてきた。どんな理不尽な現代デッキが出てくるか分からないのに、わざわざそんな化石デッキで様子見をしに来るだろうか?
──空腹も疲労も引っ込んだ。得体の知れない相手に、三井サトルは警戒していた。
[turn.2]
──◇────◇────◇──
[通りすがりの男]五稜ソウマ
【サイクルビート】
Life◇◇◇◇◇ hand6
[シグナルレッド]下級/地/機械
──VS──
[異世界モヒカン]三井サトル
【レックスジャンプ】
Life◇◇◇◇◇ hand2
[孤高のダイナ-レックス]中級/地/獣
──◇────◇────◇──
──[turn3.三井サトル]──
「ターンを貰うぜ……ドロー」
兎にも角にも。
五稜ソウマの狙いはどうあれ、デッキの地力では【レックスジャンプ】が遥かに上回っている。
このターンからが本領発揮。必要なカードは既に三井サトルの手札に揃っている。
「魔法発動──[タイムマシン]!
[タイムマシン]の効果で中級恐竜を墓地に送り──デッキから上級恐竜を呼び出す!」
現れるは超科学の機械。
[孤高のダイナ-レックス]がその中に押し込められると──光り、弾け、恐竜は時を渡る。
【レックスジャンプ】の本領。
それは現代に返り咲く太古の支配者。
「[恐竜時王ダイムパラドレックス]──降臨だ!」
ダイナレックスより更に巨大に。
全身に機械を纏う二足恐獣は轟咆を上げる。
上級地属性獣種。
全てを踏み荒らす最終兵器の登場である。
「派手だねぇ。
やっぱりかっこいいなぁパラドレックス」
「ダイムパラドレックス場に出た時、他の全てのモンスターは破壊される! 妨害はあるか?」
「無いよ。[シグナルレッド]は破壊されるね」
恐竜時王が一歩踏み締めるだけで赤信号は無惨に爆散。
その強さはこの無慈悲なる全体除去──だけでは無い。
「攻撃だ[恐竜時王ダイムパラドレックス]!
相手のライフを3点削り取れ!」
中級以上のモンスターが持つ速効攻撃能力。
そして5つしかないライフを一度に3つ削る火力。
恐王の大顎が五稜ソウマを狙う──
「攻撃に対して、手札から妨害!
魔法 [簡易シールド]で攻撃を停止させるよ!」
五稜ソウマの前に現れる盾。
相手の攻撃に反応して使える魔法で、昔から今まで活躍する文字通りの防御札。
だが──恐竜王はそれすら許さない。
「ダイムパラドレックスは攻撃が終わるまでに一度だけ、如何なる効果も無効に出来るんだぜェ!」
盾が砕ける。
全体除去、速攻3点、更に効果無効化。
全てにおいて協力無比な恐竜王が、その大顎で五稜ソウマを噛み砕く──!
「……いてて。流石だなぁ」
流石にそのままリアルにダメージが入る訳ではない。パラドレックスの顎をすり抜け、少し吹き飛ばされた五稜ソウマが立ち上がる。アニメ演出の都合があるだろうが、こんな事繰り返していたら大怪我は必須である。
相変わらず笑っているソウマの手には──3枚のカード。
「2枚目の妨害を使わせて貰ったよ。魔法[逆転準備]!
上級モンスターの攻撃で失ったライフ分、カードをドローさせて貰った」
「上級の攻撃ィ……? んなピンポイントな」
発動の順番の都合上、ダメージを受ける前に使う[簡易シールド]が先に消費されるのは分かる。
だが、不可解なのはカードのチョイスである。
現代でも昔でも、皆が皆上級モンスターで殴り合っている訳ではない。正に五稜ソウマの【サイクルビート】のように下級で殴り抜けるデッキも少なく無いし、何より除去性能の高い【除去シグナル】ならば上級モンスターを着地させて攻撃を通す事自体が稀だ。
なのにわざわざピンポイントで、そんなカードを選んで使っているのは、何故か?
「ターンは終わりかな?」
「……おう。ターンエンドだ」
不気味さが拭えない。
どうにも五稜ソウマの考えが読めない。
何もなければあと1ターン、もう一度ダイムパラドレックスが殴れば終わりなのだが──。
[turn.3]
──◇────◇────◇──
[通りすがりの男]五稜ソウマ
【サイクルビート】
Life◇◇◆◆◆ hand7
──VS──
[異世界モヒカン]三井サトル
【レックスジャンプ】
Life◇◇◇◇◇ hand2
[恐竜時王ダイムパラドレックス]上級/地/獣
──◇────◇────◇──
──[turn.4 五稜ソウマ]──
「じゃあ僕のターン。ドロー……とりあえず[シグナルグリーン]を出して、効果で[シグナルイエロー]を手札に加えるよ」
青信号から黄信号。信号機のループサーチ。
それがデッキのコンセプトであるのはそうなのだが、巨大なる恐竜王の前に下級機械が悠長なものである。
あのデッキが【除去シグナル】だとするなら。
あれだけ手札があるのなら。
三井サトルは今想定できる範囲での脅威を模索する。
「よし、まずは魔法[二方得無し]発動!
お互いに一枚、手札を捨てるよ。僕は[シグナルイエロー]を」
「……俺は[先頭狼]を捨てるぜ」
手札除去──手札が余りやすい【除去シグナル】ならば順当。
【レックスジャンプ】は元より一度ダイムパラドレックスを着地させれば後は殴るだけのデッキ。[先頭狼]のような初動札は手札に必要無い。
「三井さん。この世界に来て、パラドレックスを何回出せた?」
「今回が初めてだよ。それがどうした」
「うんうん。そうか……じゃあ少し講釈を失礼するよ。
魔法[スクラップシュート]発動。手札から地属性機械種を捨ててダイムパラドレックスを破壊するよ!」
容易く機械の残骸に呑まれる恐竜王。ダイムパラドレックス自身には破壊耐性は無い。
だが、その隙すら【レックスジャンプ】には無い。
「墓地の[タイムマシン]はゲーム中一度だけパラドレックスの破壊を無効に出来る。耐えてやったぜェ!」
鉄屑の激流を受けて尚無傷。故に最強。恐竜王は依然健在。
五稜ソウマは……一つ、指を立てる。
「【レックスジャンプ】が環境入りしていたのは、直前の禁止制限改定で汎用的な除去札が一斉に規制された事も一つの要因だった。
時代に合う強いデッキを持ち込んだのは正しい判断だったけれど、禁止制限を確認していなかったのは良くなかったね」
──禁止制限改定。
年二回施行されるそのイベントでは、以後のカードゲーム[スターバトラー]の公式ルールにおいて特定のカードが使用禁止になったり使用枚数を制限されたりする。
【レックスジャンプ】は[スターバトラー]5〜6年目の禁止制限リストに準拠したデッキ。
だが──それは現実のルールの話。
「こっちの世界に禁止制限は無い。魔法[流星群]!
相手のモンスターを全て破壊するよ!」
「──ハァ!? 禁止カードだろ!」
星が降り注ぐ襲。三井サトルには妨害の手段が無い。
──[流星群]はお手軽な除去カードとして[スターバトラー]サービス開始からずっと使われてきたが、その強さから3年目には禁止カードとなってしまった。一枚制限に復帰したのは第27回禁止制限改定──実に10年以上禁止されていたパワーカードである。
「禁止パワーはまだまだあるよ──魔法[悪徳商人の善意]!
特にコストとか払わず2枚ドローするよ!」
「しちゃダメだろ!」
こちらも第3回禁止制限改定で禁止となった、ノーコストで2枚ドローする凶悪カード。こちらは現代に至るまで未だ禁止カードである。
「魔法[シグナルサイレン]発動!
墓地のシグナルモンスターを2体復活させるよ。[シグナルイエロー]と[シグナルレッド]を蘇生して、それぞれの効果で次のシグナルを手札に加える」
黄信号から赤信号。赤信号から緑信号。遂に場に揃う仲良し信号機トリオは、かごめかごめとくるくる回る。
三井サトルは【除去シグナル】では使われていない、あるカードを思い出した。
先程から、自分と同じ異世界転移者の割には五稜ソウマだけいいカードを引きすぎている……気がする。
相手の幸運を僻むのはカードゲーマーの常だとして、それにしたってちょっと都合が良すぎる気がする。
だとしたら、もしかして。
流石にそれは無いか、と願ってしまう。
五稜ソウマはその動揺を見抜いたか──小さく頷く。
「へぇ。まさかこのカードまで知ってるの?
さては君、ただのガチ勢じゃないね?」
「いや、たまたま見かけたんだよ。ショップの安売りコーナーで……ってか、まさか、オイ!」
そのカードは、発動条件がやたら厳しく、理論上手札が5枚必要なロマン砲。
五稜ソウマの手札は──丁度5枚。
──サイレンが鳴る。信号機が点滅する──
「手札1枚を捨てて、魔法発動──[シグナルスクランブル]!
場に3種のシグナルモンスターが存在する場合、手札から3種のシグナルモンスターを出してから、場の全ての下級モンスターに出たターン攻撃できる速攻能力を付与する!」
手札から飛び出す、新たな信号機トリオ。
盤面に並ぶ6体の信号機。
──都合が良すぎる。信じられない。
三井サトルは怒りよりも、疑念が勝った。
「ここは[スターバトラー]のアニメの世界。現実側の都合で造られた世界。
でも、生きている僕らが入り込めてしまった以上は──この世界の人は生きている、って事になるよね。
この世界は独立した一つの世界だ」
空腹も疲労も現実。
この世界は、この世界として成り立っている。
人が創った設定の上で、世界として成立するためにあらゆる因果が捻じ曲げられている。
でなければ、自分達のような現実の人間がここに居られるはずは無い。
「カードで全てが決まる世界なのだとしたら、常勝無敗が成立するような世界だとしたら。
運に左右されてはならないと思わないかい?
都合良く最適解を引けるキャラクター。予定調和の逆転劇。それは現実の都合ではなく、この世界のリアルになる。
……そう。運命だよ。
この世界では強い人はカードで勝てるようになっている。そう決められているんだ」
現実の[スターバトラー]は、いやカードゲームというものは、40枚の山札から無作為に選ばれた5枚から初める都合どうしても運の要素が絡んでくる。
だから多くのサーチカードやドローカードを投入して安定率を高めたデッキが強くなる。少しでも運の要素を排除したデッキが強くなる。
だが。それはカードゲームの話。
[スターバトラー]が世界の中心にあるこの世界で、そんな運に左右される事はあってはならない。
強い人はどんなにピンチでも切札を引けて逆転できる。だがそうあるべきならば子供にすら負ける。
この世界では、ゲームでは済まされない。
全ての勝敗が運命によって決めつけられている。
信号機が進軍する。
合計点数は6。三井サトルのライフは5。
即ち、三井サトルの敗北は決定した。
──◇────◇──
──五稜ソウマ win
──◇────◇──
倒れたまま動かない三井サトルを五稜ソウマは背負う。
三井サトルの手札事故が解消され、五稜ソウマが勝てた理由は二つ。
この世界において【サイクルビート】の使い手として相応に有名となっているため、運命が引きを贔屓していた事。
異世界転移者同士の戦いのため、三井サトルの常敗の運命が緩められていた事。
この世界では、真っ当にカードゲームなんて出来ない。全てが運命に定められている。
──もう動く物語など無いというのに。
五稜ソウマは歩き出す。
自らの過ちを正すため。この歪んだ世界を元に戻すため。
──これは、運命に抗う者の物語。




