1-1 運命に抗う者/アニメ世界は修羅の国
──国民的カードゲーム [スターバトラー]
今年で20周年を迎えたご長寿カードゲームである。
そしてここは[スターバトラー]のアニメ世界。
国民が全員自分のデッキを持ち、森羅万象全てをカードバトルで決めてしまう修羅の国。
ご家庭なら晩御飯の献立を賭けて母と子供がバトル。
学校なら宿題の有無を賭けて教師と生徒がバトル。
社会に出れば面接がてら人事と入社希望者がバトル。
政治ならば清き一票を賭けて政治家と市民がバトル(流石に違法)。
この世の全てがカードバトルで決まってしまうこの世界に、それでも人は夢を見る。
カードゲーマーなら誰しも、カード世界で無双したいものなのだ。
──果たして、運命が彼らを認めるのかは、別として。
──◇──
男の名前は三井サトル。
モヒカンがトレードマークのカードゲーマー。
[スターバトラー]歴3年。趣味が長続きしない彼にとって、ここまで長く同じ趣味にハマるのは初めての事だった。
彼はある日、女神に出逢ってこの[スターバトラー]の世界へと転移して来たのだが……どうにも、上手くいかない。
下調べは万全。この[スターバトラー]のアニメ世界は、相当昔──現実世界から見て推定15年前の世界である。
異世界転移特典として一つだけ好きなデッキを持ち込めると聞き、スマホで手早く当時の最強デッキを検索。現代カードで無双する事も考えたが、15年の月日によって変化し続けたルールに適応するには、当時の環境で最も強いデッキを持ち込む方が良いと判断したのだ。
選んだデッキは当時の環境デッキ。大会の優勝とくればこれ一色、当然のように日本大会優勝もかっさらった怪物。
大型モンスターを早期着地させ大暴れ。速度も安定性も未来に生きていた過去の産物。暴れ狂う暴竜──デッキ名【レックスジャンプ】。
キーカードを引き込むためのサーチカードの多さが売りな、抜群の安定感。子供向けの催促アニメのオモチャデッキなんて歯牙にも掛けない、圧倒的な力を見せつけられる──はず、だった。
「……宿無し、メシ無し、明日も無ぇな。クソが」
異世界転移から三日。
三井サトルの戦歴は、25戦全敗。
キーカードを手札に引き込むためのサーチカードが引けない。引いてはならないカード、今使えないカードばかり引く。
言ってしまえば手札事故。何度も戦うのなら起きて然るべき現象。だがそれも、三日続けていれば偶然とは思えない。
さあ困った。
アルバイトで小銭を稼ごうにもバイトの面接のカードバトルで負ける。
不動産屋にもホテル従業員にも負けるから宿が無い。
弁当屋のおばちゃんのお情けで廃棄弁当を賭けたバトルをするも惨敗。
三井サトルは限界だった。
何故勝てないのか、全く分からない。
ただただ、自分が餓死するのはそう遠くないとだけ理解していた。
公園に、子供がいた。
コロッケを食べていた。
お小遣いで買ったのだろうか。
三井サトルは限界だった。
もう、カードゲームなんてどうでもいい。
ガキなんて脅せば──
「こんにちは」
肩を掴まれた。
優しい声色で、それでも力強く。
何をしようとしているのか理解しているように。
振り向けば、そこには黒髪の青年。
身綺麗な格好だ。エプロン姿の社会人が、少し困ったように一言。
「大原総理大臣、分かる?」
一言で充分だった。
何故なら、こっちの世界に総理大臣は居ないから。
三井サトルが答えなくとも、その反応で分かるのだ。
彼らが、この世界に転移してきた現代人であるという事が。
「アタリか。申し訳ないけれど少しお話、いいかな」
「同業者かよ。アンタなんでマトモでいられんだ?
まぁいいか。お前を倒せばよォ〜……全財産貰ってもいいんだよなァ!?」
「流石にそれはやりすぎだよ。でも良い感じに染まってるね。この世界では何事もバトルしないと解決しない。
──僕は五稜ソウマ。君の名前を伺っても?」
「三井サトル。ぶっ殺してやるぜェ……!」
「君本当に現代人? 野生化してない?」
虚空に半透明のカードが浮かぶ。
この世界では、端末に登録したデッキであれば実体が無くともカードバトルが可能。このシステムによって街中のどんな所でもバトルが行えるのだ。
宣言は、子供の頃にテレビで見ていた時のように、元気よく。
「「──バトル!」」
────────────
【これだけ知っておけば大丈夫![スターバトラー]!】
・モンスターは下級・中級・上級の3種類あるよ!
下級は無条件で毎ターン1体出せるよ!
中級上級は出すのに一手間かかるよ!
・戦闘で同級は相打ちになるよ!
格下には一方的に殴り勝てるよ!
・初期ライフは5つだよ!
モンスターに殴られてライフが0になると死ぬよ!
────────────
──◇────◇────◇──
[通りすがりの男]五稜ソウマ
【???】
──VS──
[異世界モヒカン]三井サトル
【レックスジャンプ】
──◇────◇────◇──
──[turn1.三井サトル]──
三井サトルは配られた5枚の手札を確認する。
ここに来て、悪くない引き。
最善とは言い難いが──それでも充分に動く事ができる手札。
【レックスジャンプ】は15年前時代の覇者。
三井サトルは[スターバトラー]歴3年。必然的に【レックスジャンプ】を握るのは、この世界に来てからが初めてとなる。
だが彼は強いデッキを使う事に慣れていた。
結果を残した強いデッキ──いわゆる環境デッキは、ただカードを揃えて使えばいいものではない。どのカードがどのカードへと繋がって、どう勝つか。色んなデッキを使ってきたが、そういったデッキの方向性は肌感で覚えてきた。
故に。
時代こそ違えども、当時最強だった【レックスジャンプ】の動かし方は肌で分かる。
「下級モンスター[先頭狼]を出すぜ。
効果でデッキの上5枚ん中から地属性のモンスターを一体手札に加える」
現れるは岩を纏う狼。
[スターバトラー]の世界ではこれは立体映像ではあるが──その質感はまるで本物。というか質量がしっかりある。とても危ない。普通に怪我もする。
地属性のデッキでは優秀な獣種のモンスター。これだけではデッキタイプなどまだ分からない。
先行1ターン目では下級モンスター1体出すのが関の山ではあるが、【レックスジャンプ】はここからが本領である。
「魔法発動──[有意義な研究]!
手札のモンスター1体を捨てて、デッキの上5枚のから魔法を1枚回収だ!」
「続けて魔法発動──[大地の鉱脈]!
手札の地属性を捨てて2枚ドローさせてもらうぜ」
「またまた[有意義な研究]!
デッキが回ると気分がいいぜェ〜!」
サーチとドローを繰り返す。デッキが回る。
確実。堅実。再現性の高さこそ【レックスジャンプ】の醍醐味。そして何より──相手に情報を与えない。
現状、対戦相手である五稜ソウマから見ると三井サトルのデッキは"地属性のデッキ"である事くらいしか分からない。
20年続く[スターバトラー]の膨大なカード群の中で、ただそれだけの情報だけでデッキを特定するのは困難だ。
これこそ手札を一枚も使わずに得られる優位性──情報アドバンテージの保護である。
本来なら一気に動く事も出来るが──25戦全敗の苦い記憶が、三井サトルの手を止めた。
相手は自分同様の異世界転移者。慎重に動くべきだ。
先行を取りながら、自分のデッキは相手にバレていない。この情報アドバンテージは大きい。
ターンエンドを宣言しようとした時──五稜ソウマが口を開く。
「そのデッキ……【レックスジャンプ】かな?
さては凄い出来る子だね、君」
看破された。
三井サトルは一瞬動揺してしまったが、同時に納得もできた。
この相手は自分と同じ異世界転移者。同じ考えに至って【レックスジャンプ】を使っているのかもしれない。
ならば──様子見は不要。
「魔法発動── [改造手術]!
[先頭の狼]を墓地に置いて、手札から中級の獣をタダ出しするぜ!
お出ましだぜ──[孤高のダイナ-レックス]登場!」
狼を踏み潰し現れるは恐竜。古代の覇者。
中級の獣種ダイナレックス。自分の場のモンスターが自身のみならば、効果破壊に対する耐性を得る。
だが、それだけではない。
【レックスジャンプ】においてダイナレックスは必要不可欠な存在。
「俺はこれでターン終了。分かってるよなァ?」
「うん。お見事。じゃあ僕のターンだね」
[turn.1]
──◇────◇────◇──
[通りすがりの男]五稜ソウマ
【???】
Life◇◇◇◇◇ hand5
──VS──
[異世界モヒカン]三井サトル
【レックスジャンプ】
Life◇◇◇◇◇ hand2
[孤高のダイナ-レックス]
──◇────◇────◇──
──[turn.2 五稜ソウマ]──
まるで想定内であるかのように、五稜ソウマは落ち着いてカードを引く。
相手が【レックスジャンプ】ならば当然だ。ここまでを安定して再現するデッキなのだから。
本来、あのデッキは【成長レックス】と呼ばれるデッキタイプだった。
準備をして[孤高のダイナレックス]を出して、更にその次のターンに切札である上級恐竜を呼び出すミドルレンジのデッキ。
それが[改造手術]によって僅か1ターン目に着地できてしまう。その気になれば上級恐竜すら1ターン目に着地可能。それが本来の進化を飛び越したデッキ──【レックスジャンプ】である。
「凄いね君。デッキ持ち込みでわざわざ【レックスジャンプ】を選ぶなんてセンスあるよ。もしかして熱心なファン?」
「握った事もねェよ。この時代ならこれが最強だろ。
アンタはどうなんだよ。もしかしてルール変更考えずに最新デッキ持ち込んで腐ったタチかァ?」
「うーん、実は合ってたりして」
煽る様子も無い。この優男は本気で褒めてきている。
三井サトルは人の悪意には敏感であった。故に悪意が無い五稜ソウマが分からない。
とりあえず、頭が回る奴だ。
そして、かなり[スターバトラー]に詳しい。
あと、異世界転移者の思考にも。
だとするなら、この男は何のデッキを持ち込んだ?
自分から声を掛けてきたのだから、戦いは想定していただろう。三井サトルの脳裏には、幾つもの最新環境デッキが浮かんでいた。
【閻魔ワンショット】【闇60 GS】【マカロン速攻】【スカイハイ心中】【星月夜LO】【深海ロックビート】【邪道王道ループバーン】【ぬちょぬめめぬもEW】【脳筋切腹】……時代をここ数年に拡張すれば、環境入りしているデッキなんてまだまだある。その中でこの時代のルールに沿うようなデッキがあったか……?
思考の波は激しい空腹と疲労で掻き消されていく。
聞こえてきたのは、五稜ソウマの最初の言葉──
「下級モンスター[シグナルレッド]召喚!」
「──は?」
現れるは、赤ランプ頭の機械戦士。
三井サトルでも知っているほどに有名な。
しかしこの場にそぐわない下級モンスター。
「……【除去シグナル】?」
「おっ、知ってるねぇ。やっぱり出来るね君。
もはや化石レベルだというのに」
「……いや、実戦で見た事ァ無ェけどよ」
それは【レックスジャンプ】なんて話にならないほど昔。[スターバトラー]運営開始から一年くらいで現れた下級モンスター達。
その特徴と戦法から、その名前と効果は知れ渡っている。
「正確には【サイクルビート】というデッキだね。この世界ではコレの使い手で通っているんだ。
じゃあ早速[シグナルレッド]の出た時効果。デッキから[シグナルグリーン]を手札に加えるよ」
「そんで[シグナルグリーン]は[シグナルイエロー]を、[シグナルイエロー]は[シグナルレッド]をサーチすんだろ。信号機だから」
「その通り。モンスターがループしながら展開する、それが【サイクル】!」
──信じられない。
唖然とする三井サトルを前に、五稜ソウマは笑顔で手札を増やし──
「じゃ、ターンエンド」
「……終わりかよォ!?」
「だって[孤高のダイナレックス]破壊できないし」
──あっさりと、ターンを終えてきた。
あまりの出来事に口が震える。
ターンを返すという事は、即ち【レックスジャンプ】の本領、大型恐竜の着地を許すという事だ。
何を考えているのか。五稜ソウマは依然、悪意のない笑顔のままだった──。
[turn.2]
──◇────◇────◇──
[通りすがりの男]五稜ソウマ
【サイクルビート】Life5
Life◇◇◇◇◇ hand6
[シグナルレッド]下級/地/機械
──VS──
[異世界モヒカン]三井サトル
【レックスジャンプ】
Life◇◇◇◇◇ hand5
[孤高のダイナレックス]中級/地/獣
──◇────◇────◇──




