5-1 溺れるほどに熱く/浪費の快楽は命削り
【カードゲーム[スターバトラー]のルール!】
・モンスターは下級・中級・上級の3種類あるよ!
下級は無条件で毎ターン1体出せるよ!
中級上級は出すのに一手間かかるよ!
・下級は出たターン攻撃できないよ!
・戦闘で同級は相打ちになるよ!
格下には一方的に殴り勝てるよ!
・初期ライフは5つだよ!
モンスターに殴られてライフが0になると死ぬよ!
黒スーツの超能力は連発できない。
銀閣寺ヒイロの襲撃のタイミングでは【五芒星】からここまで転移したような大規模なものは使えなかったが、そこは事前の準備がものを言った。迎えの船はまだだったが、小型ボートは残っている。黒スーツは三井サトルと赤坂ホムラ、[星見の踊り子]を拉致しボートまで転移し、沖へと海上を走っていた。
「マジで暴れるなよ三井サトル。運命に導かれていない貴様がここで夜の海に落ちれば生きては帰れんからな。頼むぞマジで」
「安全運転頼むぜェ〜」
「叩き落とすぞ貴様」
超能力と持て囃されようと、所詮は人間の力。限度限界などいくらでもある。
だというのに人は羨む。蔑む。望んで得た力などではないというのに。
──この怒りすら、運命に決められていたのでは。
「……しかし存外大人しいな貴様。先程の暴れっぷりはどうした」
「暴れてほしいのかァ〜?」
「不気味だと言っている」
「……ま、ホムラちゃんが寝てるからな。
お前知らねェかもしれねェけどよォ〜……子供から見たら年上なんて家族以外は大概怖いんだぜェ〜」
カードバトルの余波か、赤坂ホムラは気絶している。
──こんな極限状態まで追い詰められているなら、せめて自分だけは絶対に味方をしてやらなくてはならない。そのための暴力性でもあったが、元来三井サトルという男は意外と慎重なのだ。
「……お前の[星月夜]はよォ〜……俺でも知ってるぜ。
こっちの世界で出てきてからはずっと使われ続けてんだよ。これってすげぇ事だぜェ」
「[星月夜]だけがな。許される事ではない」
「誰かの記憶に残っていられるってのはすげェ事だと思うんだがなァ〜……」
物語は主人公赤坂グレンの敗北によって止まった。
終わったのか止まったのかは分からない。この世界がどうなるのかは誰にも分からない。
ただ、黒スーツは外部顧問から聞かされた現実世界に対する恨みで動いていた。
運命の破壊。それが"ブラック財団"の今の目標だ。
「──おい、黒スーツ! 前に船だ! 止まれェ!」
「ん──しまった」
ふと、そんな事を考えていると、三井サトルの声に我に帰る。
正面には小さなモーターボートが停泊していた。
おかげで衝突は避けられたが──そこに居たのは。
「こんばんは。ありがとうね止まってくれて」
因果の破壊者。全ての元凶。
【五芒星】店長、五稜ソウマがそこにいた。
「店長ォ〜……!」
「いやごめんね三井君。直接殴り込みに行きたかったけど……どうしてもここじゃないとダメなもので、銀閣寺君に手伝ってもらったんだ」
「あの馬鹿に通報したのは貴様か……五稜ソウマ!」
暗い夜の海の真っ只中。
五稜ソウマは、まず仲間を確認する。
赤坂ホムラは気絶──結局巻き込んでしまった。これは【五芒星】に匿った自分の罪。
[星見の踊り子]は拘束──助けを求めに来てくれたのに、結局これだ。これもまた自分の罪。
三井サトルは──元気そうだが、相当苦労させただろう。彼に色々と任せて自分は海でのんびり待ち伏せとは、自分が嫌になる。
「そこをどけ。今更貴様に何が──」
「カードバトラー同士が向かい合っているんだよ。戦うしかないだろう?」
その目は真っ直ぐ黒スーツに向かっていた。
──今更。黒スーツのいう事は尤もだ。
「……僕ね、実はデッキを持っていたんだよ」
当たり前の事ではある。
異世界転移者はデッキケース一つ分のカードをこの世界に持ち込める。三井サトルは当時の環境デッキ【レックスジャンプ】を持ち込んだ。
……だが、五稜ソウマが何を持ち込んだのかは不明。
赤坂グレンを壊した忌々しきデッキがそれだと考えられていたが、それはそれ以外で五稜ソウマが自分のデッキを持ち出した事が無いからである。普段使いしている【サイクルビート】はこっちの世界で作ったデッキなのだ。
「使うというのか。あの時赤坂グレンに押し付けた貴様が?」
「うん。きっと、そうしないと運命は動かない。
──いや、運命どうこうじゃないね。僕が止めた僕の時間が、動かないんだ」
黒スーツは現実世界を認識しようともこの世界の住民。勝負を仕掛けられては応えるしかない。
だが──その意味は、聞くまでもないか。
五稜ソウマが三井サトルを諭したように。ここで五稜ソウマが敗北すれば、それは黒スーツ逃亡の言い訳を与えてしまう。
それでも仕掛けてきたのだ。ならば、もう聞くまい。
「三井君。もう少しお願いね」
「……っス。お二人は俺の命を替えても守るっスからよォ〜……派手にやっちまって下さいよ店長!」
──◇────◇────◇──
[運命の破壊者]五稜ソウマ
【???】
Life◇◇◇◇◇ hand5
──VS──
[運命の叛逆者]黒スーツ
【星月夜EW】
Life◇◇◇◇◇ hand5
──◇────◇────◇──
──[turn1.黒スーツ]──
五稜ソウマのデッキに関するデータはまるで無い。
だがもしも赤坂グレンに手渡したものがそうならば、今の奴はそれを持っていない。
赤坂グレンと共に"ブラック財団"に置き去りにされたあの忌々しいデッキは、依然外部顧問が預かっているからだ。
あのデッキは黒スーツも確認した。あまりにも悍ましい、遙か未来のデッキ。やたらサーチカードが多くて応用力には欠けているように見えるものの、あまりに単純に強い。
"ブラック財団"の強化の基準はそことなった。このデッキに勝てるよう、その人に合わせたカードを1枚ずつすり替えて入れ替えて、遂に黒スーツのデッキは[星月夜]と[絵描きの筆]を除き全てが新しいカードになった。
ここまで時間をかけてようやくである。だがそれでも"ブラック財団"はやり遂げた。後は──想定通り、五稜ソウマに勝つだけだ。
「魔法[星月夜]発動! 絵画トークン2体を倒さない限り、次の私のターンまで貴様は1体しか手札からモンスターを出せん」
黒スーツが自分のカードである[星月夜]を引くのは当然。これは運命である。
そして運命は、ちゃんと[星月夜]が入っているこのデッキを黒スーツのデッキだと認識する。なればこそ、このデッキの本領も引けるようになる。
「魔法[バッドエンドカウントダウン]発動! 10ターン後、貴様は敗北する。これでターンを終了する」
容易く最短最速で。運命は黒スーツを見捨てない。
──五稜ソウマは、何もリアクションしない。
不気味なまでに静かだった。
[turn.1]
──◇────◇────◇──
[運命の破壊者]五稜ソウマ
【???】(9t後敗北)
Life◇◇◇◇◇ hand5
──VS──
[運命の叛逆者]黒スーツ
【星月夜EW】
Life◇◇◇◇◇ hand4
[星月夜トークン]下級/光/悪魔
[星月夜トークン]下級/光/悪魔
──◇────◇────◇──
──[turn2.五稜ソウマ]──
五稜ソウマが【サイクルビート】を使う事には理由があった。
【除去シグナル】ではなくもっと広義な【サイクルビート】を名乗るのは、できるだけ使えるデッキの幅を広げるため。カード資産0運命力0の状況で、更に使えるカードを選り好みするような事になってはならない。いくら運命力が0だと言ってもカードパックを剥けば何かしらのカードは出る。その中には、局所的限定的でありながらも使えないことはない、そんなカードも沢山ある。このあたりの汎用カードを採用するのに、【サイクルビート】という曖昧定義のテーマは便利だった。
……では、そもそも何故持ち込んだカードを使えなかったのか?
実際は全て使えなかった訳ではない。一部の汎用カードはそのまま【サイクルビート】に流用したり、20枚近くを赤坂グレンに譲渡して最終決戦前に大敗させてしまったりと、ちゃんと持ち込みのカードは使っているのだ。
それでも、五稜ソウマは自分のデッキを使えなかった。
──それはある種、彼が[スターバトラー]の熱心なファンであったからと言える。
それを使ってしまえば、どうなるか分からないのだ。
この世界のカードバトルはあくまで立体映像なのだが、[星見の踊り子]のようにカード自体が意思を持って動く事がある。原作アニメ[スターバトラー(無印)]3年目は実際、カードの精霊による叛逆の物語だった。
もしかすると、自分の使うカードも実体化するかもしれない。そうなれば事だ。
「行くよ。2年かかったけど、初披露だ」
黒スーツも三井サトルも息を呑む。あの五稜ソウマが使うデッキには興味があった。
そして、天高らかに宣言したそのカードは──
「魔法[デンジャラスハラキリ]発動!」
「[デンジャラスハラキリ]」
「うん。[デンジャラスハラキリ]。どうかした?」
「いや……うむ。どうぞ」
ふざけた名前だ、と茶々を入れるものではない。黒スーツは割と常識的だった。
だがリアクションが違う者が一人。黒スーツの後ろで、三井サトルは──戦慄した。
──そんなカード使うデッキが、マトモな訳がない!
「効果は単純明快。僕のデッキを半分墓地に送る」
「は?」
「[スターバトラー]のデッキ枚数上限は40枚から80枚まで。
僕のデッキは当然、限度いっぱい80枚。初期手札とドロー含め6枚引いてるから74枚の半分……37枚墓地に投げ捨てるよ」
「うわよく見たらデッキ分厚っ。気持ち悪っ」
流石に黒スーツでもダメだった。
突然デッキ一つ分の分厚さをおもむろに墓地に叩き込む五稜ソウマに狂気すら感じる。
「……店長ォ。もしかして【脳筋切腹】とかっスかァ〜?」
「いやいや違うよ。アレもなかなか捨てがたいけれど、僕は現実ではこれしか使った事が無くてね」
大量の墓地を要求するデッキはいつの時代にも存在する。その中でも墓地の数がそのまま力になる【脳筋切腹】などは現代でも名を残しているが──残念ながらそうではない。
驚きの中で更に、五稜ソウマは手品を披露する。
「手札から出せないなら手札いらないね。魔法[宵越しの銭投げ]を発動するよ。
手札ぜーんぶ捨てて、捨てた枚数の3倍デッキのカードを墓地に送る。残り手札4枚だから12枚、デッキの上から墓地に送るね」
「おいおいおいおい正気か?」
「うへーガン回りだぜェ」
「正気か? 異世界転移者はカード5枚も持てないほど貧弱なのか?」
「さらに墓地に送られたモンスター[ゴーストチキンレーサー]の効果。墓地に送られたターン中に1枚につき一度だけ、デッキの上から3枚を墓地に送る。3体いるから9枚ね」
「ばかなのか?」
80枚あったデッキがいつの間にか16枚。墓地には総勢64枚のカードがぎゅうぎゅうに押し詰められている。
訳がわからない。[星月夜]でロックしようにも出てくる手札は無いし、[バッドエンドカウントダウン]で特殊勝利をしようにもこのペースでは先に五稜ソウマのデッキが0枚になって負けそうだ。
──思考が誘導されている。
手札から出せないのならば墓地から出す。合理的ではある。
なのに自分のデッキを破壊する行為を馬鹿にしたくなるのは、きっとそういう運命の印象操作だ。あの五稜ソウマに限ってそんなヤケには出ない。
……それはそれとして、さっきからふざけた名前のカードを使うのはやめてほしい。気が抜ける。
「……ところで黒スーツ君。君、背景ストーリーとかについては外部顧問から聞かされてる?」
「は? ……背景? ストーリー?」
「おや。そういうのあまり興味ない人なのかな外部顧問さん。折角だから覚えておくと良い」
──背景ストーリー。
[スターバトラー]がカードを販売するにあたり、おおよそのカード同士の関係性などを纏めたストーリーが用意されていた。
火属性の竜軍は闇属性の悪魔軍と戦争を続けており、光属性の人間軍が地属性の獣軍と手を組んで仲裁に入り、それらの裏には水属性の陰謀が……といったような物語が、ふんわりほんのり作られていた。
アニメ放送開始にあたり、パック収録内容の半分はアニメのテーマカードが占めるようになったが……残る半分のうち汎用カードなどを除けば、アニメとは異なるストーリーが展開されている。これが背景ストーリーである。
「封印された災厄が解き放たれる。
深淵の悪魔も溺れる、灼熱の洪水」
海を焼いて現れる、蒼き炎の門。
悲鳴と共に開かれるその先には、悪魔も恐れる炎の洪水。その権化。
「さあ──【アビスゲート】が開くよ」
カードゲーム[スターバトラー]13〜15年目、公式カテゴリーは"シーズン4"。
[スターバトラー]の黒歴史──大インフレ時代を泳ぎ生き抜いた、背景ストーリーのラスボス。
煉獄の焔鬼達が、門を越えた──。




